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「失念」の意味は? 使い方や例文・言い換え表現を解説

前田めぐる(ライティングコーチ・文章術講師)

「失念」とは、「その時だけうっかり忘れてしまった」という意味を持つ言葉です。ライティングコーチの前田めぐるさんに、「失念」の意味や使い方、類語を、例文とあわせて解説してもらいました。

「失念」とは、「度忘れ」と同じ意味で「うっかり忘れること」を表す言葉です。

「忘れておりました」と「失念しておりました」とでは、相手に与える印象はどのように違うのか? 目上の相手にも使えるのか?

意味を掘り下げるとともに、使い方や言い換え表現なども考えてみましょう。

「失念」の意味とは?

辞書によれば、「失念」という言葉には次のような意味があります。

しつねん【失念】
(1)うっかり忘れること。
(2)[仏]心を散漫させる煩悩の一つ。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)

「失念」とは、覚えていることを一時的に忘れてしまったことを意味する言葉です。

漢和辞典を調べてみましょう。

【失】シツ・イツ・シチ・うしなう
(1)なくす。おとす。わすれる。うしなう。うせる。
(2)ふとしてしまう。もらす。
(3)やりそこなう。しくじる。あやまつ。

【念】デン・ネン・おも-う
(1)いつも心にとめている。思う
(2)心の中の想い。
(3)くちずさむ。となえる。
(『例解新漢和辞典 第三版』三省堂)

「念」は「いつも心にとめている」、「失」は「忘れる。ふとしてしまう」という意味です。

以上のことから、「失念」とは、ちょうどその時だけうっかり忘れてしまい、思い出せなかったという意味を表します。

「失念」を使う上でのポイント

前段からも分かるように、「失念」とは「その時だけちょうど忘れてしまっていた」という意味です。

そのため、「故意に忘れた。ずっと忘れたままだった。すっかり忘れてしまった。最初から頭に入っていない」という忘れ方とは意味が異なります。

単に「忘れておりました」と伝えるよりも、失礼な印象を和らげることができるため、ビジネスにおいても貴重な言い回しだといえるでしょう。

ここでは、「失念」を使う上で知っておきたいポイントを紹介します。

「忘れ物」に対しては使えない

「失念」とは、記憶に留めていたはずの物事や約束、人の名前などを、ちょうどその時うっかり忘れてしまった場合に使います。

そのため、「財布を持ってくるのを失念しました」など、 “忘れ物”に対して使う言葉ではありません。

目上・目下問わずに使える言葉

前述の通り、「失念」という言葉は、約束や物事をうっかり忘れていた場合に使う言葉です。

目上・目下問わず、自分が忘れていたことを伝える時に使えます。

例えば、部下と約束していたのにうっかり忘れた場合には、「すまない。失念していたよ」と使うことができます。

また、上司や取引先など目上の相手に対しては、「申し訳ございません。失念しておりました」と謙譲表現にして使うことができます。

相手の行動に対しても使える

では、自分ではなく、相手が何かを忘れた際に使うことはできるでしょうか?

結論として、相手の行為について使うことも可能です。

例えば上司に対しては、「失念する」という言葉自体は敬語表現ではないため、「失念されていた」「失念しておられた」と尊敬語にして使います。

ただし、部下から上司に対して「(あなたは)忘れている(いた)」という事実を指摘することになってしまうため、タイミングによっては気まずい雰囲気になってしまうことがあるかもしれません。

特に、周囲に人がいる場面ではあえて指摘せず、「もしかして、お約束が……」などの表現で、上司自ら思い出してもらう配慮をすることも必要でしょう。

「失念」はどんな時に使えるのか?(例文付き)

「忘れていた」という言葉は、最初から頭にも入っていなかったり、ずっと忘れていたりした場合にも使います。そのため、時と場合によっては、相手の怒りを買うことがあります。

一方、「失念」は、物事や約束、人の名前などを、「ちょうどその時うっかり忘れてしまった」という場合に使います。

そのため、単に「忘れていました」と謝るよりは、忘れていたことに対する相手の怒りや不快な気持ちを多少なりとも和らげることができます。

自分が約束をうっかり忘れたことを謝罪する時

自分の不注意から約束を忘れてキャンセルしたり、遅刻したりした場合には、次のように使います。

例文

・約束に遅れて申し訳ございません。お恥ずかしいことですが、失念しておりました。

相手の名前が思い出せないことをわびる時

会合などの集まりで、話し掛けられた相手の名前を思い出せない場合には、次のように使います。

例文

・お顔はしっかり覚えているのですが、お名前を失念してしまい、申し訳ありません。

何かについて聞かれたことに対して思い出せない時

ビジネスや日常会話で、誰かの名前、電話番号やパスワードなどを思い出せない場合には、次のように使います。

なお、相手が上司や目上の人である場合には、「失念いたしましたので」と謙譲語にします。

例文

・K社で新しく取締役になられた方のお名前ですね。少々お待ちください。失念してしまいましたので、すぐ調べます。

自分以外の第三者が何かについて思い出せない時

第三者が何かについて思い出せない場合には、次のように使います。

例文

・彼は、上司に対して伝えるべきことを用意していたのに、失念してしまったらしい。

目上の相手が何らかの物事を思い出せない状況にある時

前述の通り、人の行動に使うことはできますが、時と場合によっては指摘することにもつながるので、慎重さが求められます。

しかし、例えば上司から、家族との約束を忘れていたことを聞いた場合、次のように「たまたま、うっかりだった」というニュアンスでフォローすることもできます。

例文

・上司:「息子と約束があったのを忘れていたよ。父親失格だ」
部下:「このところずっとご多忙でしたから、失念されることもありますよ」

「失念」の言い換え表現

ここでは、「失念」と似たような意味を持つ言葉を紹介します。

「度忘れ」

「ふと忘れること」を意味する言葉です。「失念」とほぼ同義ですが、改まった印象は弱まります。

ちゃんと知っていることなのに、ちょうどその時だけ忘れたという場合に使います。

例文

・最近は、度忘れして、俳優の名前が出てこないことがよくある。

「見忘れる」

「以前見たことを忘れる」という意味です。

例文

・同級生の顔を見忘れてしまった。

改まった印象を与える漢語の響き

いかがでしたか?

「失念」という言葉は、意味的にも「忘れっぱなし」という状態ではないので、相手に対する失礼な印象が多少なりとも軽減されます。

「度忘れ」も同じ意味ですが、「失念」のように漢字の熟語は、その響きが改まった印象を与えることもあって、ビジネスでは重宝されています。

ただし、「失念」を使いさえすれば事が収まるわけでもありませんね。

大事なことは、忘れないようあらかじめ工夫をすることです。そして、もし失念して迷惑を掛けた相手がいれば、誠意を持って対処するという、その後の行動も大切にしたいものです。

(前田めぐる)

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