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生理中は貧血になりやすい? 貧血の症状と4つの対処法

松峯美貴(産婦人科医・医学博士)

生理中に吐き気やめまい、頭痛といった貧血の症状に悩まされている女性は多いのではないでしょうか。産婦人科医の松峯美貴先生に生理中の貧血を軽くするセルフケア方法について伺ってみました。

生理(月経)の間、なんとなくだるかったり、顔色が悪くなったりして「これって貧血?」などと思う女性は少なくないようです。

また、真っ赤な経血を見て「こんなに血が出たら貧血になるのでは……」なんて不安も。生理中は貧血になりやすいのでしょうか? 貧血の症状やセルフケア法についてまとめます。

※この記事では月経について、一般的な表現である「生理」という言葉を使ってお伝えします

貧血ってどんなこと? 症状は?

まずは、貧血ってなんなのかについて簡単におさらいしましょう。

貧血とは

貧血とは、血液の中の赤血球に含まれている「ヘモグロビン」という色素の濃度が低い状態です[*1]。

文字のイメージから「血の量が少ないの?」と思ってしまうかもしれませんが、血液の量が多い・少ないといった問題ではなく、血液の“質”の問題。つまり貧血は“血が薄い”状態なのです。成人女性の場合は血液検査でヘモグロビン濃度が12g/dL未満の場合、貧血と診断されます [*2]。

貧血になる原因はいろいろありますが、女性の貧血の主なものは、生理の出血が多くてヘモグロビンをつくるのが間に合わないことが原因です。ヘモグロビンをつくるには鉄が必要で、たくさん出血すると鉄の消費量が多すぎて不足してしまうために「鉄欠乏性貧血(てつけつぼうせいひんけつ)」になります。

貧血の症状

貧血が軽いときは症状が現れないこともありますが、めまい、動悸、息切れ、疲れやすい、頭が痛い、手足が冷える、ぼんやりしてしまうなどの症状が出ます。また、個人差がありますが「顔色が悪い(青白い)」と感じることもあるでしょう。

血液中のヘモグロビンは体の隅々まで酸素を届けるはたらきをしているので、ヘモグロビンが足りないと酸素が全身に行き渡りづらくなり、こうした症状が出るのです[*1,*2] 。

生理で貧血になりやすいのは本当?

では、生理の時に貧血になりやすいということはあるのでしょうか。

生理で鉄の必要量が増える

生理の時に出る経血の40~60%が血液成分[*3] なので、生理期間中に多量のヘモグロビンを失ってしまうことになります。体は失ったヘモグロビンを大急ぎでつくって補充しようとしますが、すぐにはつくれません。なので、生理の出血量が多い人の場合は貧血になることがあるのです。

また、経血の量が多いなど「生理の異常」(後述)があると鉄の必要量はより大きくなり、さらに不足しやすくなってしまいます。

生理中は貧血に気づきやすい

普段は貧血でも自覚症状がほとんどなくて、貧血に気がつかないことも少なくないようです。しかし生理中やその後は特に貧血が悪化し、不快な症状が強く、「貧血かも!?」と自覚するきっかけになることがあります。

会社の健診などで貧血を指摘されて、原因を調べるために受診する人の中には、重症でもまったく自覚症状がなく、普通に歩いて病院に来る人も少なくありません。

疲労感があっても、「忙しかったから」などと思って、貧血に気づかない人が多いのかもしれないですが、貧血ならばその原因が「治療が必要な病気」ではないか、確かめることが大切です。

貧血の症状が数日続き、貧血を疑うときは早めに受診しましょう。検査の上で原因別のケアや治療が必要になることもあります。(松峯先生)

より貧血になりやすくなる生理の異常

次のような生理の異常がある場合には、通常よりも貧血になりやすくなります。

過多月経

過多月経とは、生理のときの出血量が異常に多い状態をさし、子宮筋腫や子宮腺筋症などによって引き起こされます。

「出血量が異常に多い」とは、経血の量が140ml以上の場合[*4] とされますが、経血量を把握するのは難しいものです。なので、血液検査で「鉄欠乏性貧血」かどうかや、その原因が他にないかなど総合的にみて診断されることが一般的です 

経血の量は個人差が大きく、人と比べることもできないので、判断が難しいですね。普段と比べて変化があった場合は受診のタイミングだと考えてください。

過多月経を疑う目安として、「レバーのような塊(親指の先ぐらい)が出る」「生理用ナプキンが1時間ともたず、頻繁に替える必要がある」「昼でも夜用のナプキンが必要」などがあります。思い当たる場合は受診しましょう。(松峯先生)

生理の異常は、つらい症状とパフォーマンスの低下で心身に大きな負担になると思います。生理期間中も快適に過ごせるように、原因を確かめて治療しましょう。我慢をしないで、婦人科に相談してください。

過長月経

過長月経とは字の通り、正常よりも“生理が長すぎる”ケースで、出血している期間が8日以上続く[*4] ことを言います。過多月経と同時に起きていることも多く、その原因も同じであることがほとんどです。

このほか短いスパン(24日以内)で次の生理がくる「頻発月経(ひんぱつげっけい)」[*4] という異常もあり、サイクルが短くなっていてもルーティンになっていると気づきにくいので注意が必要です。(松峯先生)

そもそも女性は貧血になりやすい

成人女性の15〜20%に貧血があり、長期にわたる研究でも貧血の女性が増えていると報告されています [*5] 。

次のような原因によって女性は鉄分が不足しやすく、生理中に限らず鉄欠乏性貧血になりやすいと考えられているのです。

原因のひとつは「鉄摂取量の少なさ」

生理のある女性(15〜49歳)の場合、日に10.5mgの鉄をとることが推奨されていますが[*6] 、特にこの年代では十分な量がとれていないことがわかっています[*7] 。

そして、鉄は食事からとっても吸収されにくいミネラルで、日本人の場合の吸収率は15%程度 [*8]。それも不足しやすい一因です。

さらに、女性の鉄分不足の原因として「過度なダイエット」や「肉類などを控えた偏った食事」も指摘されています。

鉄分には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類あり、吸収率が高いヘム鉄はレバーや赤身肉、赤身魚、貝類など動物性の食品に多く含まれています。ダイエットなどで食事の制限をしていると、鉄の摂取量・吸収量が少なくなってしまうリスクが高いのです。

貧血を予防・改善するには?

貧血の予防には、生活の中でできるセルフケアもあります。また貧血と診断されて治療を受けている間も、主治医と相談しながら食生活の見直しなどを併せてしていきましょう。

まずは食生活で「鉄分」を見直す

動物性食品(ヘム鉄を多く含む)と植物性食品や卵、大豆製品(非ヘム鉄を多く含む)を組み合わせて食べ、鉄分をしっかりとりましょう。

出血のない時期にも代謝や排泄で毎日約1mgの鉄が失われます 。いま貧血ではなくても、鉄分が不足しないように注意しましょう。食事だけでとれないときは鉄分が強化された飲料やデザートなどをプラスするのもいいでしょう。「鉄分強化」などの表示を目印に利用してみましょう。(松峯先生)

鉄分摂取の推奨量(10.5mg/生理のある15〜49歳の女性)というのは、日々代謝などで失う鉄分や、食べた鉄の吸収率、生理期間に失う分などを考えた上で勧められている分量ですから、なるべくこの目標をクリアしたいですね。

食生活のバランスを手軽にアップ

 

鉄の吸収を助けるビタミンC(緑黄色野菜や果物に多い)や、鉄と結びついてはたらくタンパク質(肉や魚、大豆製品に多い)、赤血球が作られるときに必要な葉酸(レバーや緑の濃い野菜に多い)やビタミンB12(レバーや貝類、チーズに多い)などをしっかりとることも大切です[*1] 。

栄養バランスとはよく言われることですが、それぞれの栄養素を気にかけて食事を選ぶのは大変です。「偏りなく多様に食べる」と意識すると、手軽にバランスがとりやすくなるでしょう。(松峯先生)

よく噛んで食べる

胃酸の分泌が高まると食事でとった鉄分の吸収がよくなります[*1] 。胃酸の分泌を促すには「よく噛む」が手軽です。早食いがクセになっている場合は、ときどき箸を置いて、ゆっくり噛むように気をつけてみましょう。

副菜に酢の物をプラスしたり、料理に酢や柑橘果汁など酸味を加えたりしても胃酸の分泌がよくなります。

極端なダイエットはNG

不足しがちな栄養を十分にとるために、食事を極端に制限するようなダイエットはやめておきましょう。

経血量の異常などを感じたら受診を!

生理中だけでなく女性は普段から鉄欠乏性貧血になりやすく、気づきにくいことを覚えておき、めまいや息苦しさ、経血量の異常など体調に不安を感じたときは婦人科を受診して原因を確かめましょう。早めに適切な治療やケアを受けて、健康不安のないコンディションを取り戻してください。

(文・構成:下平貴子、監修:松峯美貴先生)

※画像はイメージです

参考文献

[*1] 厚生労働省 「e-ヘルスネット 貧血の予防には、まずは普段の食生活を見直そう」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-008.html

[*2] 女性の健康推進室 ヘルスケアラボWEBサイト「貧血」
http://w-health.jp/monthly/anemia/
日本臨床検査医学会 貧血
https://www.jslm.org/books/guideline/36.pdf

[*3] 一社日本家族計画協会
http://www.jfpa.info/wh/questions/docter/index.php?aid=112

[*4]「病気がみえるvol.9 婦人科・乳腺外科」(メディックメディア),p26

[*5] 日本鉄バイオサイエンス学会編 鉄剤の適正使用による貧血治療指針 第2版
https://jbis.bio/all/pdf/tetu-ketubou.pdf

[*6]「日本人の食事摂取基準 2020年版」,P316
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf

[*7]「国民健康・栄養調査」(厚生労働省,2018),p.31表12
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000635990.pdf

[*8]「日本人の食事摂取基準 2020年版」,P315
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf

 

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