「わざわざありがとうございます」は正しい敬語? 使い方・例文・類語
「わざわざありがとうございます」「わざわざすみません」……「わざわざ」という言葉はビジネスシーンでも日常会話でもよく耳にします。しかし、使い方によっては相手に失礼と思われる場合も!? 今回は「わざわざ」という言葉の意味、使い方、例文、類語について、株式会社櫻井弘話し方研究所の櫻井弘さんに解説してもらいました。
今回取り上げる「わざわざ」という言葉は、プラスの意味とマイナスの意味を持ちます。したがって、使い方を間違えると嫌味に聞こえてしまう場合があります。
そこで今回は「わざわざ」の意味や使い方について解説します。
そもそも「わざわざ」という言葉の意味とは?
「わざわざ」は漢字だと「態態」と書きます。そして、その意味は2つあります。
1つ目は、プラスの意味として捉えられる「ついでではなく特別にその事だけのために行うさま」。
2つ目は、マイナスの意味として捉えられる「しなくてもいいことを意図的に行うさま、故意に、わざと」となります。
元々「わざわざ」は古語の「態態し(わざわざし)」が由来となっています。現代語で言う「わざとらしい」など、あまり肯定的な意味ではなかったようです。意識的に何かをすることが「わざ(態)」だと考えれば、比較的分かりやすいのではないでしょうか。
ちなみに「わざと」という言葉も、漢字では「態と(わざと)」と書きます。 ただ「わざわざ」の場合は、「態態」と漢字で書くことはあまりなく、一般的にひらがなで書きます。
ビジネスシーンで使ってOK?
ビジネスシーンでももちろん使えます。ただし、単独のフレーズではなく、「わざわざ~でお骨折り下さって恐縮です」「わざわざ~のお気遣い頂いて本当にありがとうございました!」など何か特別に「時間・物・お金」などを使ってもらった相手側の気持ちや行為に対しての「感謝の言葉」を添えて伝えると良いでしょう。
単独の言葉だけに焦点を当てずに、前後の表現や相手や状況なども考慮に入れて、全体的な観点からも検討しておくべきでしょう。
使い方を間違えると不快感を与えるので注意
「わざわざ」は目上の人に使っても失礼には当たりませんが、使い方によって好印象を与える場合と不快感を与える場合があるため使用する際には注意が必要です。
例えば「わざわざしなくてもいい」ということを伝えたい場合でも「わざわざそのようなことをしていただかなくても結構です」と使ってしまうと「しなくてもよかったことをしようとして、迷惑です」「小さな親切、大きなお世話!」などと相手が受け取ってしまう場合があるからです。
また、自分の動作に対して使うと“強気の言葉”になってしまうため、ビジネスシーンではなるべく使用しない方が良いでしょう。
「わざわざ雨の中、来た」「わざわざ徹夜して資料を作成した」といったように、「〜してやった」「そのことをするのに苦労した」「面倒だった」というニュアンスになるため、かなり「上から目線」で「一方的」「押し付け的」なので、印象があまり良くないです。
例文
ここでは、使い方の理解をさらに深めていくため、「わざわざ」という言葉を使った例文を紹介します。
感謝の意味で使う場合
・本日はお足元の悪い中わざわざお越しいただきありがとうございました。
・先ほどはわざわざご連絡をくださり、ありがとうございました。本来ならば私から連絡すべきでしたが、おかげさまで助かりました。
・わざわざ遠くから来てくれてありがとう!
恐縮や謝罪の意味で使う場合
・こんな遠くまでわざわざすみません。ゆっくりしていってください。
・わたしの不注意で忘れたのに、わざわざ持ってきてもらってしまってすみません。
ネガティブな意味で使う場合
・限定品欲しさに、わざわざ車で5時間もかけて買いに行った。
・わざわざ朝早くから並んだのに、売り切れてしまった。
・小さなミスを気付いて修正していたのに、わざわざ言ってきた上司にイラっとした。
・誰も聞いてないのに、わざわざ「ヨーロッパ旅行してきた」「ブランドカバン買った」とかを報告してくる女って何なの?
「わざわざ」という言葉の言い換え表現
また、「わざわざ」という言葉の類語には「ご丁寧に」「お忙しいところ」「あえて」などがあります。
したがって、以下のような言い換えでも同様の意図を伝えることができます。
(1)ご丁寧に
「ご丁寧」は「丁寧」の敬語表現です。 主に相手が細かいところまで気を配ってくれたことに対して使います。
相手が自分のために気を配ってくれたことに対する「わざわざありがとうございます」は「ご丁寧にありがとうございます」と言い換えることができます。
例文
・お忙しいところご丁寧にありがとうございます。
・ご丁寧に新しいパンフレットまで送っていただきありがとうございます。
(2)お忙しいところ
相手がわざわざ何かをしてくれるということは、自分のために時間を割いてくれたということです。
それに対して「お忙しいところ」を使うと、「自分の仕事ややるべきことがある中わざわざ私のために」という申し訳なく思う気持ちや謙虚な気持ちを表すことができます。
つまり、相手が自分のために時間を割いてくれたことに対する「わざわざありがとうございます」は「お忙しいところありがとうございます」と言い換えることができます。
また「お忙しいところ」はビジネスメールやかしこまった場面でも頻繁に使える大変便利な言葉であり、慣用的に使っても良い言葉です。
例文
・皆さま本日はお忙しいところ、お集まりいただいて、誠にありがとうございます。
・お忙しいところ弊社商品の不具合によりお時間を取らせてしまい本当に申し訳ありません。
(3)あえて
「あえて」の意味は「困難な状況を押して意図的に行うこと、思い切って」です。 必要性や常識などに反しているとわかっていながらも、そうするべきだとして行う時に使います。
「故意に」という意味の「わざわざ」は「あえて」と言い換えることが出来ます。
例文
・私は彼に自分で成長をしてほしくて、あえて見て見ぬ振りをしました。
・あえて大変な方の道を選ぶ。
「わざわざ」以外にも注意が必要な言葉
「わざわざ」以外にも目上の人に使用する際、注意が必要な言葉があります。
ご苦労様です
基本的に目上の人から目下の人に使うねぎらいの言葉。目下の人が使う場合は、「お疲れ様です」と言い換えるのが良いです。
了解しました
一見丁寧な言い方だと思いがちですが、軽い印象を与えてしまうので目上の人には使わない方が良いでしょう。「承知いたしました」と言い換えるのが良いです。
なるほど
目上の人から目下の人へ使う言葉。「本当に○○です」などと言い換えるのが良いです。
構いません
「許可する」「どちらでも良し」といった上から目線なニュアンスが含まれるため、目上の人には使わないようにしましょう。
○○なんで
日常的によく使われていますが、目上の人には「友達言葉」ではなく、「○○なので」とはっきり、丁寧に言うようにしましょう。
何気なく、目上の人に使っていた言葉もあるのではないでしょうか。 これらは、失礼に当たることがあるので、注意するようにしましょう。
言葉遣いは心遣い
今回の「わざわざ」のように、「プラスの意味かマイナスの意味か」全く正反対な意味に受け取られてしまう危険性のある言葉を使う時は、「相手に対する感謝なのか?」「自分を謙る姿勢なのか?」など「立場」や「状況」を十分に意識して言葉を使うようにすると良いでしょう。
なぜならば、「言葉遣いは心遣い!」だからなのです。
(櫻井弘)
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