「令和」で話題の万葉集。恋の歌が生々しくて共感必至 #R18の伝記
あの北条政子は源頼朝に浮気されまくっていた? 絶世の美女・楊貴妃は色ボケじいさんに振り回される人生だった? 歴史上の人物たちの恋愛事情を、歴史ライター五十嵐綾子さんが紹介。時代が変わっても、恋愛は今と変わらないのかも。
新元号「令和」が発表され、その元ネタとして話題になっている万葉集。「令和」のもととなった梅の花の歌からも、「万葉集ってなんとなく風流な感じの歌が多そう」と思っている人も多いのでは?
もちろんそうした歌も多いけど、実は激しく生々しい恋の歌もけっこうあるらしい! 古代の歌だからと侮るなかれ。「いつの時代も恋愛って変わらないな~」と思えるものばかり。
今回の【R18の伝記】はいつもと少し趣向を変えて、万葉集から共感必至な恋の歌を5首ピックアップしてご紹介!
会いたくて会いたくて震えるけど……
まずは1首目!
相見ては 面隠さるる ものからに
継ぎて見まくの 欲しき君かも (巻十一・二五五四)
(古橋信孝・森朝男/2008 『万葉集百歌』青灯社)
現代語訳はこんな感じ。
逢うと恥ずかしくて顔を隠してしまうものだが、逢えないとずっと見ていたいあなただよ。
(古橋信孝・森朝男/2008 『万葉集百歌』青灯社)
離れているときは会いたくて会いたくて震えるのに、実際に会うと恥ずかしくて、相手の顔もまともに見られない……。
片思い真っ最中のピュアッピュアな女性たちから「わかる~~~!」って共感の声が聞こえてきそうなこちらの歌。恋したての照れくさい気持ちを見事に表現しているよね。
相手に会いたくてたまらないのに、いざ会うと照れくさくなるあれ、なんなんだろう。まさに恋愛ビギナーあるある。
一方、打算や駆け引きを覚えた大人の女性たちからは「こんな時代もあったわね。ふっ……(乾いた笑い)」なんて声が聞こえてきそう。だけど手練れになればなるほど恋愛ってうまくいかなくなったりするから、ムズカシイ……。
ちなみに万葉集における「君」とは、女性が男性を呼ぶときの言葉。つまりこの歌は「好きな男性を思う女心」を詠んでいるのだとか。
久々に会った彼氏への、とある不満
続いて2首目!
恋ひ恋ひて 逢へる時だに
愛しき 言尽してよ 長くと思はば (巻四・六六一)
(古橋信孝・森朝男/2008 『万葉集百歌』青灯社)
気になる現代語訳は……?
恋い続けて久しぶりに逢った今の時だけでもせめて、真実の、良い言葉を尽してください。この関係を長く続けようとお思いならば。
(古橋信孝・森朝男/2008 『万葉集百歌』青灯社)
久しぶりに彼氏と会ったのにケンカばかりしちゃう、という人が共感しまくる歌がこちら。ほんっとに男性って、女性がほしい言葉をくれないもの。それは1200年前から変わらないんだね。
気になるのが最後の「この関係を長く続けたいのなら」っていう部分。
え、大丈夫なのこの2人? なんか今にも別れそうだけど!
でもまぁ、女性が破局を考えちゃうほど「言葉」は大事ってこと。あ~、「愛してる」って言われたい!
死んでほしいくらい愛おしい
3首目! どんどん行きましょう!
うつくしと わが思ふ妹は 早も死なぬか
生けりとも われに寄るべしと 人の言はなくに (巻十一・二三五五)
(古橋信孝・森朝男/2008 『万葉集百歌』青灯社)
えっ……死!? なんだか雲行きのあやしいこの歌の現代語訳がこちら。
いとしいと私の思うあの子は、早く死んでくれないか。生きていたとて、私に靡くだろうとは誰も言ってくれないのだから。
(古橋信孝・森朝男/2008 『万葉集百歌』青灯社)
1200年くらい前の人も、街中でいちゃつくカップルを見て「リア充爆発しろ!」と思っていたかは定かではないけど、「好きな人が全然振り向いてくれない……。もう死んじゃえばいいのに!」とは思っていたみたい。
実らない恋の苦しさは尋常じゃないからね。いっそのこと、相手の死を願っちゃうのもわかる、かも?
ちなみに古語の「妹(いも)」は、妹のことではなくて女性という意味。当時は親しみを込めて女性をそう呼んでいたそう。
……ってことはあれ? 詠み手はまさかの男性!? 男性の嫉妬も女性に負けず劣らず激しいんだね……。
忘れ草に込めた、切ない恋心
まだまだ行きます。4首目!
忘れ草垣もしみみに植ゑたれど
醜の醜草なほ恋ひにけり
〈万・12―三〇六二〉
(古橋信孝/2016 『古代の恋愛生活 万葉集の恋歌を読む』吉川弘文館)
醜い草ってなんのこと……? 現代語訳をチェック。
忘れ草を垣にぎっしり植えたけれど
だめな草だ やはり恋してしまった
(古橋信孝/2016 『古代の恋愛生活 万葉集の恋歌を読む』吉川弘文館)
失恋には「新しい恋」や「時間薬」が効果的っていうけれど、この詠い手は自宅の垣に「忘れ草」をこれでもか! と植えた模様。
それなのに忘れられず「このダメ草!」と忘れ草をののしる始末(笑)。はたから見ると滑稽だけど、恋している人間って得てしてこんなものだよね。
ちなみに「忘れ草」は憂いを忘れられるといわれるユリ科の植物 のことで、万葉集ではほかの歌でも詠まれています。その効果は同歌がお伝えする通り……。
好きな人に浮気されて……
いよいよラスト!
さし焼かむ 小屋の醜屋に かき棄てむ 破薦を敷きて
うち折らむ 醜の醜手を さし交へて 寝らむ君ゆゑ
あかねさす 昼はしみらに ぬばたまの 夜はすがらに
この床の ひしと鳴るまで 嘆きつるかも (巻十三・三二七〇)
(古橋信孝・森朝男/2008 『万葉集百歌』青灯社)
なんだか波乱の予感がするような……? 現代語訳はいかに!?
焼き払ってしまいたい汚い小屋で、棄ててしまいたい破れた薦を敷いて、へし折ってしまいたい醜い手を交わし合って、寝ているあなた故に、〈あかねさす〉昼は一日中、〈ぬばたまの〉夜は一晩中、この床がみしみし音を立てるまで、嘆いたことだ。
(古橋信孝・森朝男/2008 『万葉集百歌』青灯社)
「元気があればなんでもできる」のが猪木だけど、「嫉妬心があれば家さえ焼ける」と詠っているのがこちらの歌。
好きな相手が別の人に会いに行ってしまい、2人が寝ている様子をリアルに思い浮かべては「2人がいる小屋を焼きたい!」「寝床の敷物を捨てたい!」「交えている腕をへし折りたい!」と嘆いているようです。ずいぶん激しい歌だけど、共感してしまう女性は多いはず……だよね(笑)?
切ないのが、この後に添えられた短い歌。荒ぶる気持ちをなだめるように「自分の心を焼くのも、あなたを恋しく思うのも自分の心のせい」と詠っている。
詠み手、いい女すぎるだろ(女かわからないけど) !
本当は浮気する男性のほうが120%悪いのに、ついつい自分を責めてしまう。女性の感情をかき乱す負のループ、そろそろ断ち切りたいよね。
いつの時代も変わらないのが「人間の恋心」
時代は移り変わっても、人間は変わらないもの。そんなことを痛感させてくれる万葉集だけど、今回ご紹介した歌はほんとにごく一部。思わず「私のこと?」と思ってしまうような歌も多いので、ぜひ万葉集を手に取ってみては。
令和がよい時代になりますように!
(文:五十嵐綾子、構成:パンジー薫&マイナビウーマン編集部、イラスト:たけだこうへい)