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美人の人生は意外と不幸なのかもしれない #R18の伝記

五十嵐綾子

突然ですがみなさん、楊貴妃って聞いてどういう女性を思い浮かべますか? そりゃ直接見たことないけど、どえらい美人だってことは知ってるんじゃない? クレオパトラちゃん、小野小町ちゃんに並ぶ世界三大美女のひとりと称される楊貴妃。その上、超お嬢さまで、歌や踊りの才能もある才色兼備という無双っぷり。東大出身の菜々緒が100m9秒でこっちに向かって走ってくるくらいの無敵感。

そんな超絶ハイスペックが功を奏して、皇帝・玄宗(げんそう)の18番目の王子・寿王(じゅおう)との縁談が成立。そうやって良家は良家に嫁ぐのね。どうりで普通に生きてても、大病院の御曹司とか茶道の家元とかに出会わないわけだ。今も昔も、上のほうは上のほうでまとまってんのね。

でもここからが破天荒。時を同じくして、楊貴妃と婚約した寿王のオトン・玄宗の長年連れ添った奥さんが亡くなってしまう。男が妻に先立たれると途端にダメになるのは世の常。すっかりしょんぼりした玄宗を慰めようと動いたのは、玄宗を知り尽くした側近・高力士(こうりきし)。この男、玄宗の第一秘書みたいなもん。そんでもって超やり手、任務遂行のためなら手段を選ばない系の男。そんな高力士、上司の玄宗を慰めるための女性として、なんと楊貴妃をチョイス。

ちょっと待ってよ、あんた。その人、玄宗の息子の嫁!

この時、玄宗は初老の56歳、一方楊貴妃はピチピチの22歳。皇帝の頼みとはいえ、さすがに寿王も抵抗したと思いきや、政略結婚であんまり盛り上がってなかった2人だったのか、案外すんなりOK。えぇ、そういう感じ? 親も親なら子も子だよ!

でも、そんな好きじゃなかった寿王との退屈な結婚よりも富と権力の頂点であるジジイ玄宗に甘やかされる暮らしは、楊貴妃にとって(たぶん)幸せだった。こんなハイスペック美女を手に入れられたジジイ玄宗も調子に乗って、楊貴妃に皇后待遇という身分を与えた。ねえ、これどう思います? 皇后ではなく“皇后待遇”ですよ? そこは皇后にしてやれよって思いません?

でもね、楊貴妃はまだ若かったから年上の男の「絶対ちゃんとするから。本気なのはお前だけだから」って言葉信じちゃった。こういうときの男って“絶対ちゃんと”なんて絶対しませんからね。

案の定、玄宗は後宮で多くの女性を寵愛した。挙句の果てには楊貴妃の姉にも手を出していたとか。

節操なさすぎ。あと、初老なのに、いろいろ元気すぎ。

その女遊びに大いに傷ついた楊貴妃は、怒りを玄宗にぶつけた。ほらあ、だから言ったじゃん……。(言ってない)

そしてその楊貴妃の怒りに玄宗は逆切れし、楊貴妃を宮廷から追い出した! 出た、いきなり逆切れしてくるおじさん! あなたの会社にもいませんか?

実家に出戻った楊貴妃に、家族は大慌て。それもそのはず、楊貴妃のおかげで楊一族は高官という立場の恩恵をちゃっかり受けていたのだから。実家のみんなからの冷たい目に耐えかねた楊貴妃は、しぶしぶごめんなさいと謝罪の手紙を送ったのだった。自身のひとつかみの黒髪も添えて。健気な楊貴妃。美人で聡明な才色兼備がもったいないぞ。

一方で玄宗は追い出しといて、楊貴妃のいない寂しさに耐えかね、まわりに当り散らす日々。楊貴妃に会いたくて会いたくて震えるセンチメンタルジジイと化した玄宗。だがそこは時の皇帝である。やすやすと「あれは嘘だよぅ。戻っておいでよぅ」なんて言えない。

はい、そこで登場。第一秘書こと高力士。

「楊貴妃の部屋にある私物、楊貴妃に届けに行きますけど?」

「……じゃあ俺の食膳も持って行ってあげて?」

たぶん、「帰ってきて一緒にまたご飯食べようってそれとなく伝えて?」みたいな意味。

もうめんどくさい!! ジジイの駆け引きっ!!

しかもこういう騒ぎは2回も起こったらしい。そのたび高力士が暗躍して、宮中に楊貴妃を呼び戻す。高力士、転職考えたほうがいいって。

そして当の2人は、一連の出来事で愛と絆が強まったとさ。

失ってはじめて気づいたの。あなたをどれだけ愛しているか。

こんなJPOPの歌い出しみたいなこと、千年以上前からあったんですね。

時は流れ、玄宗じいさんはついに仕事もしないで、ひたすら楊貴妃への愛に溺れていくようになった。政治も補佐役に任せっぱなし。その補佐役ってのが楊貴妃の親族である楊国忠(ようこくちゅう)だったからまたタチが悪い。こいつがまた傍若無人で、まわりの人々は不満を募らせていく。そんなグダグダを感じ取ったのか、楊国忠と対立していた勢力のクーデターが起きた! ほら、言わんこっちゃない。

玄宗と楊国忠たちは首都から逃げ出したけど、逃避行の途中で楊国忠は自身に反感を抱く兵士たちに殺されちゃった。それだけでなく、相当ストレスが溜まってた兵士たちは、楊一族がやりたい放題していた原因は楊貴妃にあるんだから、楊貴妃を殺すべきだ! と主張しはじめた。

ちょっと、いったんみんな落ち着いて。

だっていっちばん悪いの、色ボケじいさん玄宗だからね? こいつが仕事サボって楊貴妃にうつつ抜かしてたからこうなったんじゃん? そうでしょ、玄宗! って、玄宗泣きながら高力士に楊貴妃を殺害するように命令してるし!! 嘘でしょう!?

高力士ってこういう嫌な仕事頼まれがちじゃない? 玄宗の広げた風呂敷きっちりたたむタイプね。

そして悲劇のヒロイン、楊貴妃。ひとりの老いぼれを愛し抜き、人生を捧げて気がつけば38歳になっていた。歳を重ねて色香も増し、女としての美しさは衰えを知らない。そんな楊貴妃の人生は、愛にはじまり愛で終わることになった。殺害のそのとき、楊貴妃は静かにこう言った。

「陛下のご命令ならば」

ようきひいいいいいいい……。

最後まで“皇后待遇”だった世界三大美女の楊貴妃。皇后でもないのに、男の尻を最後まで拭いきった絶世の美女。その魅力ゆえ、男は愛欲に溺れ世は乱れた。自ら人生を賭けて愛した男に殺される彼女は、最期に何を思って天国へ旅立ったのだろう。今となっては、その美貌で男を狂わせ、手玉にとり、わがまま放題に生きた美女というイメージもある楊貴妃。だけど、彼女は幸せだったのだろうか。ただひたすらに美しいということは本当に幸せなのだろうか。実は美人すぎるって生きにくかったりするんじゃないかな。ってちょっとセンチメンタル。

その後、玄宗は楊貴妃のことを思い、例のごとく会いたくて会いたくて震えながら寂しい余生を過ごしたんだとか。そうだね、どんだけ震えても、さすがの高力士でも楊貴妃を連れ戻してくれないもんねっ(怒)。

(文:五十嵐綾子、構成:マイナビウーマン編集部、イラスト:たけだこうへい)

※この記事は2018年07月21日に公開されたものです

五十嵐綾子

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