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わるいひと「AM1:00」

夏生さえり

こんなことなら、技術なんて進歩しなければよかった。スマホなんかあるから、連絡がないと不安になる。昨日からずっと連絡が取れないことも、江戸時代だったら普通だったはずでしょ。いやね、現代人って。

「なにしてるの?」
何度も打って消した。

「ねえねえ」
さりげなさを装うのも飽きた。

「もしかして」
「誰かと」
「一緒にいたの?」

送れなかった言葉たちが成仏できずに彷徨って、部屋の中を浮遊している。この部屋はきっと淀んでいる。さながら墓場。言葉の霊は結託して、今日も夢に出てくるんだろう。わたしの彼氏が、誰かの彼氏である夢を。

どうしているかを聞けないなんて、どうかしている。恋人同士なんだから聞けばいいのに。いや、ちがう、わたしは聞けないんじゃなくて、聞かないんだ。彼を信頼していることこそが、絆の証だから。そう……だよね?

幸せでない恋愛をすることの代償は、友だちが減ることだと思う。予定のない週末を何回繰り返したんだろう。それでわたしは、この狭い部屋でせっせと霊を作り続けている。

「自分を大切にしなよ」とか、そういうのいいんだよ。
「そいつ絶対浮気してるって」とか、そうだったらなんなの。
「もっといい人いるよ」って、じゃあ連れてきてよ。彼より素敵な人がいるなら。

「いいの、好きだから放っておいて」と言えないのは、わたしの弱さだ。好きでも、辛いものは辛い。ずいぶん前から、世界中の誰もが自分より幸せそうに見える。冬の寒い日に、灯りのついた家を眺めるように愛に飢える。こんなのいつになったら終わるんだろう。

「ばかだったよ、あんな男に捕まって。時間を無駄にしちゃった」

そう笑えるまで友だちは待っていてくれるだろうか。そのとき彼女たちは笑ってくれるだろうか。

悪い男は、嫌い。わたしを悪い女にするから。

(文:夏生さえり、イラスト:oyumi)

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