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「不可能」の文字しかなかったナポレオンの人生 #R18の伝記

五十嵐綾子

今回はみんな知ってるナポレオン。本名、ナポレオン・ボナパルト。18~19世紀革命期のフランスの軍人であり英雄とも呼ばれる人物。でも、だからってこんなこと言える?

「私の辞書に不可能の文字はない」

しかも絶対真顔で言ったよね、これ。言われた人のリアクション、見てみたかった。「す、すごいね……」くらいしか思い浮かばない。村上春樹でもきっと語彙力失っちゃう。

そんな自信家ボーイ、ナポレオンくんはイタリア半島西に浮かぶ地中海の島・コルシカ島で、貧乏貴族の次男として生まれる。パリの陸軍士官学校で学ぶも、痩せっぽちで田舎っぽい言葉とみすぼらしい服装などを理由に、学校では貴族の子どもたちのいじめの標的になってしまう。

その悔しさをバネに、ナポレオンくんは猛勉強して、当時砲撃音がうるさくて荷物も重くて誰もやりたがらなかった砲兵(大砲で攻撃する職務)になる。ここからがナポレオンくんのすごさのはじまり。その砲弾攻撃を駆使した見事な戦術で大手柄を立て、出世のきっかけを掴んだってわけ。努力家。

そのころ、ナポレオンくんはフランスに移り住み、淡い初恋をするも、婚約は破談に。だがしかし、運命の出会いはその後にきた。恋愛方面はパッとしないものの、お仕事は引き続きがんばっていたナポレオンくんは、軍事的な手柄を続々とあげていた。その活躍もあって当時の超偉い人・バラスさんの目に留まって、彼の愛人のひとりである6~7歳ほど年上のジョゼフィーヌを紹介されたわけ。このジョゼフィーヌがまたすごい。見た目が美しいだけでなく、エレガントな仕草、コロコロ変わる表情、分け隔てない細やかな気配り。

ねえ、全国の女子の声を代弁していい?

お願いだから、美人は話しかけづらい存在でいてほしいし、お高くとまっていてほしいし、感じ悪くいてほしいです。何を聞かれても「別に」って答えてほしいのっ!! こっちの領域(内面と愛嬌のよさ)まで攻め入ってくるんじゃないよ!

この圧勝女め! こんな魅力的なジョゼフィーヌを前にして、ウブなナポレオンくんが落ちないわけないじゃん。

実はジョゼフィーヌ、フランス革命で夫を失った未亡人。自分と子どもが生きていくためにバラスの愛人となったようなしたたかさも持ち合わせていた。各界の要人が集まるサロンを開いて、社交界で何度も男女の恋の駆け引きをしてきたような百戦錬磨な女性なのである。

ナポレオンくんが敵う相手じゃねえ!!!

そして計算高いジョゼフィーヌは、バラスが自分に飽きてきていることに気づき、次に頼る男を求めてナポレオンくんに接近したという。すげえ女じゃん。

ジョゼフィーヌにほとんど一方的に溺れきった純真ボーイ、ナポレオンくんは、たびたび彼女に熱烈なラブレターを送ったとか。独立して起業したやつみたいに3時間睡眠でOKのナポレオンくんは、一晩一緒に過ごして朝帰りした後、朝7時には「会えなくて辛すぎます」「正午に家を出てくれたら午後3時には会えますよ」と書いている。軍隊従えてドンパチしなきゃなのに、こんな手紙を毎日のように送っていたという始末。

ねえ、いったん落ち着いて。お願いだからいったんその便箋破って捨てよう? 寝不足で書くラブレターは末代まで受け継がれる恥ずかしさだよ?

そう言ったかどうかは不明だけど、ナポレオンくんの家族は2人の関係を大反対したんだとか。もちろんそんな反対なんて振り払って、愛しのジョゼフィーヌと結婚までこぎつけたナポレオンくん。

さすが。だってナポレオンくんの辞書には不可能って文字はないからね。

と思っていたのも束の間、なんとジョゼフィーヌは夫の戦地に大胆にも若い愛人を連れて現れた! 言葉を失ったナポレオンくんだけど、そこはプロ。戦争ではしっかりと手柄を立て、フランスに凱旋すると市民に大歓迎された。ジョゼフィーヌは、国中を熱狂させるナポレオンくんの姿を見て、「この男を手放すべきではない」と慌てたみたい。やがてナポレオンくんが皇帝になったとき、ジョゼフィーヌはちゃっかり皇后となった。

もうさ、この女、魔性の女とか飛び超えて、ほぼ魔女じゃない?

その後もジョゼフィーヌに対するさまざまな不信感を抱くようになったナポレオンくん。それを見ていた妹は、傷つき疲れ果てた兄に自分の取り巻きの女の子・エレオノール を紹介する。若いエレオノールにナポレオンくんも心惹かれ、やがてエレオノールは身ごもることに。愛人との私生児では皇太子にできないため、ナポレオンくんはこうしてジョゼフィーヌとの離婚を決断したってわけ。

結果、ナポレオンくんに捨てられることとなったジョゼフィーヌだったのだけれど、彼女はナポレオンくんからのあの暴走ラブレターたちを捨てずに取っていたという。最初はナポレオンくんに興味のなかった彼女も、だんだんと彼を愛するようになったんだとか。

ほんっと男と女ってわからないものですね。

ナポレオンくんは結局エレオノールではなく、別の女性とちゃっかり再婚する。 相手は、オーストリアのハプスブルク家(マリー・アントワネットの実家)のお嬢様、18歳のマリー・ルイーズ。実はこの結婚、オーストリアと姻戚関係を結んで、この地域を安定させるための、いわば政略結婚だった。オーストリア側もナポレオンくんに子どもが生まれて親バカになれば、軍事や政治の判断力が鈍ると計算していたそうで、つまり仕組まれた結婚ってわけ。

オーストリアの思惑通り、ナポレオンくんは18歳の若きマリーに鼻の下を伸ばしまくり、待望の男の子が誕生。この騒ぎはフランス中に広まり、国民は「ちょっとあのおっさん大丈夫なの?」状態に。

周囲の冷たい視線に気づかず、おごり高ぶるナポレオンくんは人の話を聞かなくなり、「ちょっと、さすがにマリーにゾッコンすぎるでしょ……」と諫めた側近たちも遠ざけてしまう。優秀な部下たちも軍隊を去ってしまい、遠征に失敗したナポレオンくんはイタリア半島西に島流しになる。このとき、マリーはナポレオンくんを見捨て、新しい恋人に夢中になっていた。

そろそろ言っていいですか。

ナポレオンくん、わりと不可能の多い人生じゃん。しっかりあんたの辞書には不可能の文字書いてあるから、もう一回よく調べてみよ?

ナポレオンくんの島流しの間、あのジョゼフィーヌが亡くなった。いても立ってもいられなくなったナポレオンくんは島から脱出。ジョゼフィーヌの家に行き、彼女が最期に寝ていたベッドに身を投げて泣いたのだとか。

皇帝に復帰するも、また戦争に負けてしまったナポレオンくんは、絶海の孤島に再度島流し。ここで病気になり、「フランス、軍隊、ジョゼフィーヌ……」と言い残して一生を終えた。フランスも軍隊もそしてジョゼフィーヌも、手に入れることが“不可能”なものだったことは、死ぬときに気づいたのだろうか。

話ははじめに戻るけど、やっぱりナポレオンくんが自信満々に「私の辞書に不可能の文字はない」って言ったときに、「いや、あるって。全然あるから」って言ってやらなかったまわりの人にも責任があると思うんだよね。って、これはさすがに無理がある話かしら?

(文・五十嵐綾子、構成・マイナビウーマン編集部、イラスト:たけだこうへい)

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