「値踏みする女」のあるある言動
「あの子が住んでる町って、いかにも上京してきた人が憧れで住む町だよね。ちゃんとわかってる東京の人だったら絶対住まない」
「彼氏が大企業に勤めてるって言うけど、子会社のほうだったんだよね。普通、親会社のほうを言わないよね?」
「大学はスルーして大学院の話しかしないのって、大学院で学歴ロンダリングした人の典型」
「値踏みする女」とは、他人をスペックと所持品の価格帯で判断する女性です。オフィス内では、ランチや飲み会の時に出没します。
彼女たちにとって人間の価値は、学歴、恋人や夫の職業と会社名、出身地、住んでいる場所、実家の場所、敷地面積と持ち家かどうか、バッグや靴や財布といった所持品の値段、行きつけの店の価格帯、結婚式にかけた金額、結婚指輪の金額によって決まります。
「え? 内面? 性格? それ金額換算できないでしょ?」と言わんばかりの圧倒的物質主義ですが、彼女たちは「金額」などと直接的なことは言わず、「格」「育ち」「質」といった耳障りのいい言葉でオブラートに包み、他人にかかっている値段を計測しようとします。
彼女たちは、入社時や配属時などの初対面のときは人当たりがよく人懐こいため、とても好印象です。「学校はどこなの? 出身は? 今の家はどこ? 夫はどこに勤めてるの?」。通常、これらの質問は世間話の一環にすぎませんが、彼女たちにとっては重要な基礎調査です。本当に聞きたいのは「夫の年収はいくら? 家賃は? 実家の世帯収入は? これまでかけられた教育費は?」なのですが、率直に聞くと警戒されて今後の情報収集ができなくなるので、あくまでフレンドリーに世間話に偽装して「仲よくなりたいの」「一緒に働く仲間のことを知りたいの」といった体裁で根掘り葉掘り聞いてきます。
相談形式の情報収集もお得意技です。結婚式場を知りたければ「今の彼と結婚を考えてるんだけど、結婚式場がぜんぜんわかんなくって。どこでやった? どうだった?」、恋人の職業と年収を知りたければ「彼氏が転職しようとしてるんだけど、年収が下がるっぽいんだよね。○○さんの彼ってそういえばなにやってる人なんだっけ」など、あくまで世間話に盛り込みながら情報を引き出します。
話を聞いたら次はネットリサーチです。学校名で検索して偏差値と学費を確認、企業名と勤続年数で平均年収を確認、転職前の企業を確認、実家と現住所の最寄り駅と駅からの徒歩分数で、地価と賃貸の平均額を確認します。情報を十分に得た後に査定という名の「価値が低い判定」に入ります。
「彼氏が大企業に勤めてるって言うけど、子会社のほう=たいしたことない彼と付き合ってる」「高級住宅街の名前を挙げているけど、3丁目までは地価が低い。徒歩の分数から考えるにたいしたことないほうに住んでいる=住所ロンダリングしてる」といった身の毛がよだつ判定結果を、ランチや飲み会などで、さも事実のように「そういえば聞いたんだけどさー」という体で周囲に言いふらしていきます。
スペックだけではありません。値踏みする女は、日々の持ち物もぬかりなくチェックします。彼女たちはオフィス内で毎日、同僚たちの服、バッグ、靴のブランドおよび価格帯を、プロ質屋のごとく数秒以内にチェックします。全身のお値段が高くない(3万円以下)場合は「大学生かと思った」「ファストファッションって一発で素材のビミョーさがわかる」。そこそこの場合(3〜9万円台)は「服にお金かけてるけど靴がぜんぜん合ってない」「あのブランド、流行ったの5年前とかだよね。感覚がアップデートされてない」。お値段がかかっている(10万円以上)場合は「全身ブランドでも、品性がともなってないと、服に着られてるだけ」「有名ブランドだけど、あれ駅ビルで50%オフで売ってた」「あのバッグはブランドものだけど、古いモデルだからメ○カリで買ってるんじゃ?」と、妄想の域に達するレベルでケチをつけます。
安いものを持っていれば「値段相応の価値の女」と見なされ、高いものを持っていれば「値段に似合わない女」あるいは「ブランドを安く買っている女」と見なされ、どっちに転んでもダメという圧倒的不条理ぶり。
基本的にはケチをつけることが前提ですが、値踏みする女が大好きな「格と育ち」が文句なしに素晴らしい場合―実家か伴侶が資産家・医者・代々続く名家・石油王である、身内に芸能人がいる、など―に対しては「あなたと仲よくなりたい!」アッピールをして全力で尽くします。
値踏みする女は、なぜこんな言動をする?
なぜ値踏みする女は、他者のスペックやかかっている金額に執着するのでしょうか?
それは、彼女たちが「自分のほうが他人よりも優れていると思いたい」から。かつ、「優れている」と判断する基準を、スペックとものの値段に絞り込んでいるから。
彼女たちは、「自信=他人より優れていること」だと思っており、自信をキープするために「自分は他人より優れているかどうか」を365日無休体勢で気にしています。
「他者より自分が優れているかどうか」を判断する基準はいろいろありますが、彼女たちはそこまで仕事がバリバリできるほうではないので「仕事の能力」はスルーし、より自分が勝ちやすい「スペック」「持ち物」で勝負をかけます。
そこそこのスペックや持ち物を持っているとはいえ、値踏みする女たちは言ってみれば「平均よりちょっと上」レベルであり、彼女たちより上の人間はたくさんいます。しかし、そこは「ここはいいけどあっちがダメ」方式でダメ出しをすることで「皆すごいって言ってるけどたいしたことない」と、自分より下か、自分と同程度にまで引きずり下ろします。「自分と同程度」なら許せますが、自分より上の人間がいると不安で落ち着かなくなるからです。
とはいえ、圧倒的に敵わないハイスペックな人たちは存在します。どうあがいても引きずり下ろせない人を見ると、値踏みする女は引きずり下ろすのをやめ、態度を180度変えて「仲間」に入れてもらおうとします。「友だちが持ってるクルーザーに乗せてもらった」「この前、邸宅にお邪魔したんだけど、庭が明治時代からある日本庭園でキレイだったよー(写真を見せる)」といった自慢できるエピソードを提供してくれる人たちと「同類」と思われることで、自分の価値が高まるからです。
値踏みする女にとって、人間は2種類しか存在しません。自分が優れていることを確かめさせてくれる圧倒的大多数の「自分より劣っている人」と、自分の価値を高めてくれるごく少数の「自分を高みに引き上げてくれる優れた人」です。どちらに所属しているかを判断するために、彼女たちは日々リサーチ&デストロイを繰り返します。
値踏みする女=自分が優れていると確認したくて人を利用する女
「値踏みする女」は、「自分は他人より優れていて、存在価値があることを確認するために、他人を踏み台にしようとする女」です。
値踏みする女は、初期はもれなくフレンドリーなのでうっかり気を許してしまいがちなのですが、自分が与えた個人情報がすべて彼女の存在価値を高める呪術の道具にされるうえ、プライベートや事実と異なる情報をオフィスに言いふらされる、といったダメージを食らいます。「なんか親切だしよく声をかけてくれるんだけど、いろいろ聞かれてなんか疲れる……」「一緒にいてもなんか信用できない……口は笑ってるんだけど目が笑ってない……」という人は、値踏みする女の可能性があります。
明らかに悪口だとわかるなら誰も寄りつかなくなりますが、「これは酒の席だから言うんだけどさ」「そういえば聞いたんだけど」などといったソフトなスタイルの場合は気づかずに、つい個人情報を渡してしまいがち。
値踏みする女が社内や部署内にいたら、どうすればいいのでしょうか?
最も安全策は近づかないことですが、これは実際のところは困難です。なぜなら値踏みする女は目につくホモサピすべての情報収集をして「自分より下」ラベルを貼ろうとしているため、観葉植物にでも擬態していない限りコンタクトを取ってきますし、表向きはフレンドリーなので、下手に避けると「私、あの人に避けられてるみたい……なんか悪いことしたのかな……ぐす……」というような、印象を悪くする格好のエサを相手に与えてしまいます。
自分の調査をされた場合はあくまで事実ベースで淡々と返事しつつ、広めてほしくない情報は徹底的に黙秘することが確実です。値踏みする女は、ほかの同僚経由で聞き出そうとすることもよくあるので、社内の誰にも話してはいけません。値踏みする女が社内にいる場合は、自分の「守秘情報リスト」を作って死守する以外に確実な道はありません。もちろん「あの人、絶対に住所を言わないよね」「ホストに貢ぎすぎて金がないのでは?」「掘っ立て小屋に住んでるのでは? 住居基金のクラウドファンディングをしたほうがいいのでは?」と妄想流言をぶちかまされる可能性はありますが、スルーするに限ります。
他人の値踏み評価を言われた場合は、「同調せず、意見を言わず、返事をすること」です。「あの人、貧乏くさいよね」に「そうだね」と返せば、「貧乏くさいことに同意した人間」になってしまいます。かといって「そんなことないよー」と反論すれば、へたをすると敵視されるリスクがあります。無難な方法は、「そうかー○○さんはそう思うんだね」と返すことです。あくまで「あなたはそう思うのね」と自分と相手を切り離しつつ返せば、値踏みする女は「ちゃんと返事された」と思って満足する可能性があります。
あとは、けなされた人を「結婚式で見た○○さんのドレス、素敵だったよー! 本当に美人だった!」などシンプルかつクリアに褒めること。値踏みする女は自分ではない誰かが褒められることを嫌いますので、「この人に言ってもおもしろくない」と思われて接触頻度が減ってきたらラッキーです。
新規情報を渡さないことも重要です。「結婚式で見たドレスはどこの? 靴は? 指輪は? 写真は? 食事は? シャンパン? それともスパークリング?」と聞かれても「えー酔ってたから覚えてない!」などと返事をして、値踏みのための新規情報を与えてはいけません。「見てない」「聞いてない」「覚えてない」の三種の神器をフル活用して「こいつは使えない」と思われればこちらのもの。まもなく聞き取り調査対象から外されることでしょう。「ものの価値がわからない阿呆」と広められるリスクはあるものの、聞き取り調査対象として使われるストレスよりは1億倍マシです。
最後の方法は、値踏みする女の言動に対する理解を深めることです。そもそも自信とは「自分の能力が優れているかどうかに関係なく、自分は生きるに値する」と自分にOKを出す絶対評価なのですが、彼女たちは「自分が他人より優れていれば、自分は生きるに値する」という相対評価で考えているため、常に自分が優れていることを確認し続けていないと自信を保てません。つまりすぐに自信がない状態に転落する、きわめて不安定で自信がない人間だと言えます。
彼女たちの言動には不快になることが多々ありますが「人を自分より下だと思わないと生きていけないのだな」と思うことで、スルーできるようになるかもしれません。もちろんそこまで達観する必要はないので、とにかく戦闘だけは回避しつつ、どうでもいい情報のみを与え、大事な情報は死守! を徹底することです。
※身近な親族に値踏みする女の大妖怪がおり、十数年レベルで見てきたため、サンプルが豊富かつ禍々しくなりましたが、次回からは通常モードでお送りします。
(文:ぱぷりこ、イラスト:黒猫まな子)