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人間は「透明人間」になれる?「光学迷彩であれば現実的」

今年5月、葛西臨海水族園が世界初のジャノメコオリウオのふ化に成功した。無色の血液を持ち、稚魚は身体のほとんどが透けて見える不思議な魚だ。

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もし同じように色をなくせば、透明人間が作れるのだろうか?血液のヘモグロビンや骨のカルシウムを透明にするのは至難の業だ。日焼けでできるメラニン色素も失ってしまったら、紫外線が深部まで達し、大変なことになりそうだ。


■真っ赤に燃えない、僕の血潮

ジャノメコオリウオの正式名称はオセレイテッド・アイスフィッシュで、南極の海の水深5mから1,000mほどの範囲に生息している。身体の側面にある感覚器・側線(そくせん)以外にうろこがないのも特徴的だが、背骨を持つ脊椎動物のなかで唯一の無色透明な血液を持つ変わった生き物だ。

人間の血液の成分は大きく4つに分かれ、名称と役割は以下の通りだ。

・赤血球 … 体内に酸素を送り、二酸化炭素を肺に運ぶ

・白血球 … バクテリアや細菌など、体内の異物を攻撃/排除する

・血小板 … ケガなどによる傷口をふさぎ、出血を抑える

・血しょう … 全体の55~60%を占め、養分や老廃物を運ぶ

赤血球はその名の通り赤く、これは酸素と二酸化炭素を運ぶヘモグロビンが赤いからだ。ヘモグロビンの赤は鉄によるもので、肺で受け取った酸素を身体じゅうに配り、逆に不要となった二酸化炭素を引き取り肺へと運ぶ。この役割に鉄が必要で、その結果「赤い血」となっている。ところがジャノメコオリウオは赤血球をほとんど持たない。しかも数少ない赤血球はヘモグロビンを持たないので血液が透明なのだ。

透明は例外としても、血液=赤は人間の尺度に過ぎない。青い血を持つ生き物も大勢いるのだ。ヘモグロビンの代わりにヘモシアニンを持ち、これが酸素の運搬を担うものもいる。ヘモグロビン=鉄=赤に対し、ヘモシアニンは銅を持ち、これが血を青く見せるのだ。

青い血と聞くと不気味に聞こえるかも知れないが、意外と身近な生き物に多い。イカ、タコ、貝、エビなどだ。童謡にイカやタコが登場したら、太陽に透かしても真っ赤な血潮が流れないから、友達ではなくなってしまう。昆虫よりも遠い存在に扱われるのは、さぞかし無念だろう。

消える戦車

ヘモグロビンを持たないジャノメコオリウオは、血しょうが酸素を運んでいるようだが、なぜそうなったのかは解明されていない。進歩か退化か微妙だが、根本的に構造を変えない限り、人間の血液を無色にするのは困難なことが分かった。同様に、骨格を成すカルシウムも、それ自体が白銀色なため、透明にするのは事実上不可能だ。さらには日焼けの原因となるメラニン色素は紫外線をブロックし、身体の深部にダメージを与えないための存在だから、これを無くせば自殺行為に等しい。

透明人間計画、頓挫。

それではタコやカメレオンのように、周囲の風景を偽装するのはどうか。迷彩服のように草木や砂漠の模様を身にまとえば、ある意味で透明になれる。発見されなければ居ないのも同然だから、ステルス機能を検討するのが近道のようだ。深海に住むイカの仲間には、腹部を光らせて自分の影ができないようにし、捕食者に発見されるのを防ぐものもいるから、自然界でもおなじみの方法だ。

もっとも現実的なのは光学迷彩で、周囲の風景を自分に映し、相手からの発見を逃れる方法だ。公式には発表されていないものの、イギリスでは戦車に搭載し、実用化レベルにまで達していると聞く。視界から消えたり、突然現れる戦車も夢の話ではなさそうだ。

ただし、相手の視線を逆算して迷彩を施す必要があるので、ある程度の距離が必要で、日常生活に持ち込むのは難しい。近寄って違う角度から見れば、映画のスクリーンを横からのぞくようなものだから、何が映っているのか分からなくなってしまう。おまけに人間のように起伏のある面に映すにはち密な計算が必要で、呼吸で身体が膨らんだだけでもバレてしまう。

戦車のように平面的で離れた場所なら使えそうだが、近距離の人間なら歩く違和感となり、かえって目立ってしまう。無念。光を曲げる技術が開発中と聞くから、それに期待しよう。

まとめ

海外ドラマの草分け的存在「X-ファイル」では、透明人間になった喜びのあまり、外に飛び出しクルマにひかれてしまうシーンがある。人間の欲望を皮肉に表した一幕だ。

縄張りも求愛も、存在感のアピールこそが動物の本能のように思える。光学迷彩が実用化されても、影の薄い人にならないよう気をつけたい。

(関口 寿/ガリレオワークス)

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