【File42】女性のためのしごとバッグをつくるデザイナーの場合
いつも輝くあの人は、仕事でどんなバッグを使っているんだろう? バッグとその中身は、仕事への姿勢や価値観を映す鏡。企業で働くマイナビウーマン世代の女性をインタビューし、彼女たちの仕事バッグをのぞく連載です。
取材・文:ミクニシオリ
撮影:稲垣佑季
編集:錦織絵梨奈/マイナビウーマン編集部
あなたは、毎日使うしごとバッグにどんな想いを持っていますか?
今回お会いしたのは、しごとバッグに対して誰よりも強い情熱を持つ人。トートバッグ専門ブランドROOTOTEを展開する株式会社ルートートの商品企画室で働く小澤三月さんは、わたしたちの使うしごとバッグをはじめとする、さまざまなバッグの企画開発やデザインを担当するデザイナーさん。
10人いれば10人違うのが、しごとバッグの楽しいところ。小澤さんのしごとバッグには、使う人の工夫と「つくる人の工夫」がどっちも詰まっていました。
小澤 三月さん
東京造形大学デザイン学科を卒業後、販売員、ファッション雑貨のデザイナーを経て、2017年から「Fun Outing!~楽しいお出かけ!~」を届けるトートバッグ専門ブランドROOTOTEのデザイナーに。多数展開されるアイテムの中でも、日常のちょっとした不満や違和感を解決できるようなプロダクトや、カラーデザイナー(A・F・T 認定)、一級色彩コーディネーター (A・F・T 認定)、色彩心理カウンセラー(「色彩学校」認定)、アート療法士(「色彩学校」認定)の資格を活かしたプロダクトなどを手掛けている。
Instagram @rootote
そんな小澤さんのしごとバッグは、ご自身が開発とデザインを担当した『airo(アイロ)』という2WAYトート。実は『airo』は、働く女性のために開発されたバッグ。実際に小澤さん自身が女性たちにユーザーヒアリングを行い、わたしたちが本当に必要としている要素や使い心地を追求しながらつくられたといいます。
「デザイナーとしてのこだわりは数えきれないほどありますが、いち使用者としても気に入っているバッグです。通勤時間が長いこともあって荷物が多いのですが、見た目以上に収納力があって整理しやすいので助かっています。本体は約450gで軽量ですし、撥水素材なので雨の日も使えます。ちょうどいい場所にポケットがあるので、バッグの中で荷物が迷子になることもありません」
トートとしてもリュックとしても使うことができるので、シーンに合わせて表情を変えてくれる優等生なバッグ。収納力がすごいとのことですが、バッグの中身を広げてもらうと……。
●バッグの中身
1 NORDISKA TYGER × ROOTOTEのトートバッグ
2 ROOTOTEの折り畳み傘用トート『CASA(カーサ)オリ』、Traditional Weatherwearの折り畳み傘
3 『クロマトピア―色の世界― 写真で巡る色彩と顔料の歴史』(デヴィッド・コールズ 著/グラフィック社)
4 社用iPhone、私用iPhone
5 PC
6 YLINUMのハンカチ
7 会社オリジナルの名刺入れ
8 MARCO MASIのカードケース
9 Jamin Puechの巾着(エチケットアイテムポーチ)
10 Jamin Puechの巾着(PC周辺アイテムポーチ)
11 ĽANGÉLIQUEの巾着(衛生用品、薬用ポーチ)
12 THREEのメイクポーチ
13 NORDISKA TYGER × ROOTOTEのポーチ(筆記用具用ポーチ)
たしかに、想像以上にたくさんのアイテムが収納されていました。荷物多めの小澤さんは、ポーチなどを使ってバッグの中をしっかり整頓したい派。
まず気になったのが、オレンジ色が目立つこちら。中からは、折りたたみ傘が! これも、小澤さんが開発・デザインを担当したルートートの折りたたみ傘用トートです。
「雨に濡れた折りたたみ傘って使った後の収納が難しくないですか? 付属のポーチに収納する時って手もびしょびしょになるし、バッグに入れるのも躊躇しちゃいますよね。
電車での移動中もこちらに濡れた傘を入れておけば、周りの方や座席を濡らしてしまうことがなく安心なんです。中にゆとりがあるので、きちんと畳まなくても手を濡らさずに傘を収納できますし、カラビナを使ってバッグの外につけておくこともできます」
ルートートには、さまざまな用途やシーンに合わせたデザインがラインナップされています。次にこちらのポーチを開けてみると、数種類のフレグランス類が。
「オーガニックコスメが好きで、特にNEAL?S YARDとSHIGETAの香りが気に入っています。いつでも気軽に気分をリフレッシュしたりできるように、ポーチはバッグの前ポケットに入れています。
仕事中は、一人で集中したい時もあれば、ミーティングなどで外側に意識を向ける時もあるので、フレグランス類は気分を切り替えたりするためにも必須のアイテムです」
香りの選択肢があると、その時の自分に合った香りを選べるのがうれしいですよね。平日も自分の気持ちを感じ取ることを大切にしているという、小澤さんならではのこだわりが詰まっています。
「お直し用コスメはほとんどTHREEのアイテムでそろえています。メイクは好きなのですが、新しい情報をたくさん取り入れると悩んでしまうので、気に入ったブランドの中でアイテムを更新していくことが多いです。色を楽しむとポジティブな気持ちになれるので、コスメは多めに持ち歩いています」
仕事中もなるべく自分らしくいられるよう、必要な荷物を整理整頓して収納できるバッグと小物を選ぶという小澤さん。次のポーチからは、デザイナーである彼女の仕事道具も。
「PC上でイメージを視覚化するだけではなく、ときには、テキスタイルや紙を切り貼りしてデザインを立体的に確認するための簡単なサンプルを作ることも。ペンケースの中身は周囲の人より多いかもしれませんね。
こちらは、通勤中に読んでいる本です。美大を卒業しているのですが、コロナ禍になって家のまわりで過ごす時間が長くなり、その頃から色彩に関して再勉強するようになりました」
パンデミックをきっかけに、アートセラピーや色彩心理学などの資格を取得した小澤さん。図書館で色彩に関する本をたくさん借りるようになり、その中でも色彩と心理の結びつきについて強く惹かれ、色彩心理とアートセラピーについて学び始めたのだそう。
「行動制限があった時期、デザイナーとして働くことの意味を改めて深く考えるようになりました。商品を企画しても自己満足だけになっては意味が無いし、お客様の声を直接聞ける機会もあまり無い時期だったので、自分がデザイナーとして働く意味を見失いかけていました。
でも、そんな時に出会った色彩心理学とアートセラピーが、新しいデザインの可能性を私に教えてくれました」
色彩に関する学びを通して、自身がデザイナーとして働くことの意味を再認識した小澤さん。その後につくりあげたのが、働く女性のためのバッグ『airo』でした。
「気持ちを新たに色彩心理学からアプローチした新しいバッグを開発することにしました。さまざまな職種で働く女性の方々にインタビューさせてもらったり、一緒にカラーワークを行ったりして、お客さまとなる女性たちとたくさんの時間を共有しながらつくりあげました。商品名の『airo』は『私の色』という意味です。
カラーリングにもかなりこだわっていて、実はこのバッグ、内側は外側よりもポジティブなイメージのきれいな色を選んでいるんです。カラーワークに参加してくれた方の中には、外側の自分と内側の自分は違う色合いをしていると答えてくださった女性が多くいらっしゃいました。自分しか見ることの無いバッグの内側部分は、見た人にエネルギーを与える配色にしました」
『airo』は色彩がもたらす効果ごとに5種類を展開。どのカラーも内側は爽やかで明るく、ファスナーを開けた時に元気がもらえます。
「誰かの想いを組み上げてものづくりしてみたら、デザイナーとして働くことの意味合いも変わってきました。商品を開発するデザイナーだけでなく、商品を伝えてくれる方、それを使ってくれるお客さま……『airo』に関わるすべての人が、表現者なのではないかと思っています。
仕事に関わってくれる方々への感謝と一体感をより深く感じるようになり、以前よりエネルギッシュに働けるようになりました」
「大人になると、自分で自分が分からなくなることもあると思います。仕事や育児など、自分以外を優先しているうちに、自分の気持ちや好きなものが見えにくくなる時もありますよね。
でも色を見ていると、『そうだ、私この色が好きだったんだ』とか、何かしら感じられることがあると思います。本当の自分を感じたい時に『airo』を手に取っていただけたらうれしいです。自分がつくったものが誰かを元気にするきっかけになるかもしれないと思うと、デザイナーをやっていて良かったな、色彩を学んできて良かったなと思います」
誰かの心に響くようなトートバッグをつくっていきたい。そう言って笑う小澤さんの表情が印象的でした。
※この記事は2023年11月27日に公開されたものです