こじらせ女子に贈る「アラサーのバイブル」。『そろそろいい歳というけれど』書評
仕事、結婚、からだのこと、趣味、お金……アラサーの女性には悩みがつきもの。人生の岐路に立つ今、全部をひとりじゃ決め切れない。誰かアドバイスをちょうだい! そんな時にそっと寄り添ってくれる「人生の参考書」を紹介。今回は、アラサー女性の新・バイブル、『そろそろいい歳というけれど』(ジェラシーくるみ・著/主婦の友社)を、ライターのミクニシオリさんが書評します。
30歳を迎えてしまった今は「なんてことなかったな」とも思うけど、20代の頃は30代が怖くてたまらなかった。
それと同じように、今は30代中盤が怖くてたまらない。周りには20代で子供を生んだ友人もいれば、キャリアロードまっしぐらで「年収1000万円プレイヤーも目前」という子もいる。あと数年のうちに、自分がどっちかにならないといけないのかと思うと夜も眠れないので、全部忘れるためにアニメか海外ドラマを一気観して寝る。
この不安は、解決のしようがないと思っていた。だって私には、問題をすぐさま解決しようとする行動力がないし、自分に何が足りないのかと聞かれても、その理由を説明できなかったから。
だから、巷にあふれる「30代なんて怖くない本」に共感したこともなかった。そこに書いてあることは自分が一度反芻したことがあることばかりだし、「私だけじゃないんだ〜」と思えたって、自分が一歩前進するわけでもなんでもないから。
だから、この本を読んだ時にはびっくりした。「将来なんとなく不安」問題に外側から答えをもらうには、1時間数万円する占い師にでも会いに行くしかないと思っていた。こんな本を見つけられた私は本当にラッキー。だから、同じ悩みを抱えたことのある全ての女性に贈りたい。
▼この本を読んで分かること
・自分の「こじらせの理由」
・30歳以降の「将来なんとなく不安」を解消する方法
・東大生ならではの「合理的な人生改善メソッド」
理由の分からない不安の内訳をごっそり言語化
インフルエンサーが出版するマインド本はあまりに増えすぎていて、自分がファンでなければ本を手に取ることもないかもしれない。でも、この本は怪しい自己啓発本コーナーではなく、書店員さんの手書きのポップと一緒に「お金の勉強」コーナーにいた。
ポップには「将来のお金に不安がある女性のための、人生逆算本」みたいなことが書いてあった。あと私はたまたま、この本の著者である女性のことをSNS上で知っていた。
『そろそろいい歳というけれど(ジェラシーくるみ・著/主婦の友)』の著者・ジェラシーくるみさんは有名な恋愛系インフルエンサーで、20代の頃は参考にしたことも多かった。その理由のひとつは、彼女が東大卒だったから。
東大卒だからって恋愛強者になれるわけじゃないと思う人もいるかもしれないけれど、私は昔から彼女の言語化能力に一目置いていた。恋愛とか結婚とか友達の彼氏がダサいとか、一言じゃ言えないモヤモヤを小説のようにすてきな表現ですっと伝えるのが上手な人だった。だから、昔は答えの出ない物事を「諦める」ために、参考にしている部分があった。
でも、本を少し読んでみると分かる。これは、読者に共感してヨイショして「あなたは大丈夫だよ」なんて、助けもしないくせに優しい言葉だけかけてくる本じゃない。ある種、辛辣。しかしこの本は、東大卒ならではの「合理的な人生改善メソッド本」なのだ。
チャプターは「恋愛」「出産」「お金」「キャリア」「美容」の5つを軸に進む。どれも20代以降のすべての人に関わりのある話だ。ジェラシーくるみさん自身がアラサー付近なので、本はアラサーから見た目線で進んでいく。その目線から見える悩みは、同世代の私から見る悩みと全く同じ。
「結婚したいけどいい人いない」「自分の理想が高すぎて恋がうまくいかない」「出産した友人と疎遠になった」「そもそも高齢出産になりそう」「彼がプロポーズしてくれない」などなど、自分か友人かがこれまでに一回は言っていたことのある悩みばかり。だから「死ぬほど分かる〜」って何回も独りごちたりしていたけど、それだけではない。この本は、共感じゃ終わらない。
「結婚したいけどピンとくる相手がいない問題」の解決方法とか、自分のどこが悪いのかなんて、うまく説明できる人がどれくらいいるだろう。ジェラシーくるみさんはそんな女の横っ面を華麗に、痛くない程度にビンタする。「人が“自分に合う人”を語るとき、イメージしているのは“そこそこイケてる私に見合う人”だ」と。
思ってもみない方向から来るビンタ、避けられない。ポジティブに励まされているわけでもないし、事実の指摘だからグウの音も出ない。
彼女の深い人生経験をもとに、本では彼女の周りにある「成功体験」も語られていく。私が取らなかった選択肢を取った人が現実的にどんな人生を歩んでいるのかを知る。ウィットに富む文章のおかげで、成功している人に対して卑屈になってしまう私のような人間でも、本を閉じずに済む。
そしてところどころ、合理で解決できる問題はきちんと箇条書きで「解決方法」が書かれている。同棲時の家事バランス問題やマッチングアプリで気をつけるべきこと、人生設計の組み立て方……もやっとすることは「自分は本当はどう思っているのか」を考えさせ、明確に課題があるものは「最終的に自分が得する程度の解決方法」が書いてある。ここまで親切に書いてくれているのに実践しなかったら、私はマジでバカのままなんだなと思わせてくる。
「変われ」なんて言われなくても、最悪を避けるための行動はできる
多分、ジェラシーくるみさんは根っからのパリピではないのだと思う。だからこそ、悩みだけでなくそこに付随する欲望とか、斜に構えた目線も分かっている。「昔は25歳までに結婚したかったけど、今はもう憧れない」とか「婚姻届の写真をSNSで見ると、ちょっと鳥肌が立つ」とか、よじれた先にある悩みにもフォーカスしてくれる。
他人をバカにしたって、自分が成長できるわけじゃない。そうやって最低限HPを回復しても、何か解決できるわけじゃないということを思い出す。「合理的な人生改善メソッド本」とは言ったけど、本のほとんどは「こういう時はこうしろ」と書いていない。どちらかというと「こういう考えだから、そういった結論にいたる」という思考に焦点があたっている。
「こじらせアラサー」という言葉があるけれど、こじらせという言葉があまりにも便利すぎて、友達に何か相談しても「こじらせてんね〜」で終わりにされる話。ジェラシーくるみさんは、そのこじらせの理由を言及してくれる。
これまでの自分のあらゆる行動が、今の自分を作っていると実感する。こじらせにも理由があるし、そこに至る経験値がある。無駄に経験値があるゆえに起こりやすいミスや、逆に心配しすぎる物事もあるということも知る。
本を読み終わった瞬間、劇的に人生が変わるわけじゃない。なのに、納得感があるのは「自分がなんでこじれちゃったかが分かる」からだと思う。それは、今の自分を知ることに繋がる。足りすぎているものや、恐れているものがなんなのかが分かる。
「こういう人はこうしなさい」と声高らかに言われなくても、怖いものや避けたいものが明確になると、勝手に「あ、こうするべきだ」って分かる。本の中では「ロールモデルがいない問題」も言及されていたけど、ロールモデルがなくたって「こんな人生嫌だ」を避ける選択肢は取れる。
ジェラシーくるみさんの言語化能力の高さに、読んでいる自分が引っ張られる。だって、理由が分からないモヤモヤだったから後回しにできたけど、理由を言語化されちゃったら、もう変わるしかないのだから。
親や自分と環境の違う友達に「変わりなよ」と言われても、行動に移す気にはならなかった。変わりたくないわけじゃないのに、変われと言われれば言われるほどなぜか頑なになってしまう、真面目で堅実なのにちょっぴりこじらせているがんばり屋さん。そんな女性に勧めたい、アラサー女性のための『読む処方箋』、または『悩み多き人生のガイドマップ』です。
(ミクニシオリ)
※この記事は2023年05月09日に公開されたものです