思いと想いの違いとは? 意味や使い分けを解説
「思い」と「想い」の微妙な意味の違いを知っていますか? 大きな意味の違いはなくても、使い分けることで細かな気持ちを伝えられます。今回はライティングコーチの前田めぐるさんに、「思い」「想い」の意味の違いや使い分け、類語を例文と共に解説してもらいます。
私たちは、1日に何度「おもい」という言葉を使っているでしょうか? かなり高い頻度で使う言葉でしょうが、漢字では一般的には「思い」で済ませることがほとんどでしょう。
「思い」「想い」の他にも、「念い」「憶い」「懐い」があり、全て「おもい」と読みます。
自分の中にあるのは、どの「おもい」でしょうか? 今、まさに問いに答えようとしている瞬間にも、「おもい」が浮かんでいるはずです。
「思い」と「想い」の意味
「思い」と「想い」、それぞれの意味に違いはあるのでしょうか? 意味と使い方を見ていきましょう。
「思い」と「想い」に大きな意味の違いはない
広辞苑で「おもい」の意味を調べると、「思い・念い・想い」が1つにまとめて書かれており、区別されていません。
つまり、「思い」と「想い」の意味に大きな違いはないと考えられます。また、一般的に「思い」の方が広範囲に使われていることも確かです。
「思い」と「想い」の使い分けで細かな気持ちのニュアンスが伝わる
「思い」と「想い」に大きな意味の違いはなくても、使い分けることでより細やかなニュアンスを伝えられるなら、それに越したことはありませんよね。
そこで、漢和辞典で「思」と「想」の意味を調べてみましょう。
【思】シ・おもう・おもい
(1)あたまをはたらかせて、あれこれと考える。おもう。[例]思考。思慮。深思熟慮。
(2)そのことばかり考える。いとしくおもう。[例]思慕。相思。
(3)ものがなしいおもい。かなしみ。[例]秋思。旅思。【想】ソ・ショウ・ソウ・おも-う・おも-い
(1)思いめぐらす。心の中にえがく。おもう。おもい。[例]想起。想像。予想。
(2)まとまった考え。アイデア。[例]感想
(『例解新漢和辞典』三省堂)
同じような意味の漢字を使い分けたい時には、その漢字がどんな熟語に使われているかを見ると参考になります。
上記を踏まえると、「思い」と「想い」にはそれぞれ以下のような意味があると考えられます。
「思い」=「頭を働かせる」「慕う」「悲しい」
頭を使って何かを考えている時、「思い」を使います。「思考」「思慮」などの言葉に至る思考の働きです。
また「思慕」「相思」の言葉から分かるように、家族や恋人など大事な人のことを考える時にも「思い」を使います。恋心、愛情、思慕、気遣いなど、相手によりその思いはさまざまです。
そして「秋思」「旅思」の言葉を構成するように、秋などもの悲しい季節、旅先でのホームシックなど、何となく寂しいおもいを抱く時にも「思い」を使います。
「想い」=「空想する」「心に浮かべる」「アイディアを巡らせる」
「想起」「想像」「予想」などの言葉から分かるように、何かについてイメージを描く時に、「想い」を使えます。
例えば、その対象が人である場合、特別な親しみをもって「相手をおもう」というニュアンスで使うこともできます。
また、クリエイティブなことで想像力を使ってアイディアを広げる時にも「想い」を使えます。
「思い」と「想い」はどう使い分ける?
「思い」と「想い」、それぞれの例文を紹介しましたが、それでも意味の違いが微妙で使い分けに迷うこともあると思います。
そんな時は、何を基準に使い分ければ良いのでしょうか?
文化庁の見解による「思う」「想う」の使い分け
文化庁が1988年に発行した書籍『「ことば」シリーズ29 言葉に関する問答集14』を参考にすると、「思う」「想う」には次のような使い分けが考えられます。
・「思う」は一般的に広い意味で「おもう」場合に使われる
・「想う」はある対象を心に浮かべるという気持ちが強い
名詞である「思い」「想い」を使い分ける場合も、上記と同じ基準で考えて良いでしょう。
ビジネスシーンや使い分けに迷った時は「思い」を使う
ビジネスでは公文書のルールに従うことが多く、社用文書では常用漢字を使うよう定めている会社も多いでしょう。
そのため、ビジネスシーンでは、「おもい」に漢字を当てるなら、常用漢字の読みを持つ「思い」を使うのが一般的です。
ビジネスメールや取引先への手紙、履歴書などでは、「思い」を使うのが適切といえます。
また「思い」は幅広い意味を持つため、プライベートな場面でも、迷ったら「思い」を使うと良いでしょう。
恋愛など、あえて「想い」を使うと良い場合もある
「想い」は頭で考えるのでなく、自然に心に浮かぶイメージに近いといえます。
プライベートでもビジネスシーンでも、親しみを込めて送る個人間の手紙では、「想い」を使えば相手への細やかな気持ちが伝わりそうです。
また、ビジネスシーンで人の心を動かしたい時など、思考より感情に訴えかけることで功を奏する場合もあります。
そのため、ビジネスの場面でも一般の文書ではなくパンフレットのような広告物では、「想い」がふさわしい時も多いでしょう。
思いの使い方(例文つき)
それでは「思い」はどんな場面で使えるのでしょうか? 場面ごとに例文を紹介します。
頭を働かせて考える時
「思考」や「思慮」に使う場合の「思」と同じ意味で、頭を使って考える時に使えます。
例文
・彼は、プロジェクトの企画について、思いを巡らせた。
家族や恋人などを思う時
「思慕」「相思」に使う場合の「思」と同じ意味で、自分にとって大切な人のことを考える時にも「思い」を使えます。
例文
・子どもたちが自立しても、親から子への思いは変わらない。
季節や場面によって漠然とした悲しみや寂しさを感じる時
秋の何となく寂しい気持ちを表す「秋思」で使う場合の「思」と同じ意味で、漠然と寂しい気持ちになった時にも「思い」を使えます。
例文
・秋は人をもの思いにふけらせる。
想いの使い方(例文つき)
次に「想い」がどんな場面で使えるのか、例文と併せてみていきましょう。
何かについて空想したり予想したりする時
「想起」「想像」「予想」で使う場合の「想」と同じ意味で、まだ起きていないことなどについてイメージする時に、「想い」を使えます。
例文
・10年後にどんな自分になっているのか、想いもつかない。
人物などの対象を心に描く時
文化庁の見解では、「『想う』はある対象を心に浮かべるという気持ちが強い」とあります。そのため、心を寄せる相手のことばかり思い浮かべてしまう時にも「想い」を使えます。
例文
・結局、一方的な片思いに終わったのですが、彼は私の想い人でした。
感想や企画をまとめたりアイディアを巡らせたりする時
新しいことを企画するなど、クリエイティブなことで想像力を働かせる時にも「想い」を使えます。
例文
・今回の企画について、各自の想いを発表してもらいます。
「思い」「想い」の類語(例文つき)
ここからは、「思い」と「想い」の類語を紹介します。
いずれも「おもい」と読み、「思い」と書くのが一般的ですが、あえて細かいニュアンスを表現したい時には以下の類語を使うことができます。
「念い」
「いつも心に留めていることや願っていること」という意味です。念頭にあること、信念に関することなどを表す時に使えます。
例文
・未来がずっと幸せであるようにとの念いを抱かずにはいられない。
「憶い」
「忘れることなく思っている」「心に留めて忘れない思い」という意味です。記憶が浮かぶような時に使えます。
例文
・多くの人にとって、過ぎし日の憶いは、大切にとっておきたいものです。
「懐い」
「懐かしく思い出されること」という意味です。大切にしている懐かしい思い出や故郷への思いを表したい時に使えます。
例文
・大好きだった祖母への懐いが湧いてきて、しみじみとした気持ちになった。
「おもい」の多様さが教えてくれること
思い、想い、念い、憶い、懐い。どれも「おもい」でありながら、ニュアンスが異なるところに、日本語の奥深さがありますね
「我思う、故に我在り」と言ったのは、フランスの哲学者デカルト。「私は考える、だからこそ、私は存在する」という意味です。
「おもう」ことで生まれる「おもい」の多様さを知ることで、自分の中に新たな世界が広がっていくように感じられますね。
(前田めぐる)
※画像はイメージです
※この記事は2021年11月30日に公開されたものです