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【File27】好きな人に対して“港区おじさん”になってしまう話

#イタい恋ログ

妹尾ユウカ

今振り返れば「イタいな、自分!」と思うけれど、あの時は全力だった恋愛。そんな“イタい恋の思い出”は誰にでもあるものですよね。今では恋の達人である恋愛コラムニストに過去のイタい恋を振り返ってもらい、そこから得た教訓を紹介してもらう連載です。今回は妹尾ユウカさんのイタい恋。

思い返すと自分のイタさやキモさに吐き気を催すような恋愛って誰しもあると思うんです。

「ない」ときっぱり答えられる人は、恋愛経験がない・少ないか、5年前、10年前から成長をしていない人なんじゃないかと思います。というか、そうであってくれと願っています。なぜなら、そう思わないことにはこれから約1,000文字も自分のイタかった恋愛エピソードを綴るには心が持たないからです……。

これはいまだに完治できていない私のイタい部分なのですが、好きな人に対して、自分の利用価値を提供せずにいられないんです。

例えば、彼が「このアーティスト好きなんだよね」と言えば、港区爆飲み大学首席の経歴を使って関係者席を手配しますし、「このブランドが好きなんだよね」と言えば、たとえ相手が駆け出しのバンドマンだろうとそのブランドのレセプションパーティーに連れて行ってしまう。SNSのフォロワーの伸ばし方を聞かれれば、手っ取り早く自分や周りのインフルエンサーを巻き込んで相手の拡散協力をしてしまう。

どれも例え話ではなく、ここ2、3年で実際に私が好きな男に対して行ってきたことです。ちなみにこれらはエンタメ業界に精通する港区おじさんがラウンジ嬢を口説く時の手口とまったく同じです。

恋愛感情を抱く相手を前にすると、多くの人は普段よりも自信を失います。経済力や社会的地位、ルックス、若さなど、第三者視点でこれら全てにおいて自分が優勢にあったとしても、恋愛では惚れた方の負けと言いますか、惚れている側が下という意識になります。

そうなると、相手に好かれるために港区おじさんたちは自分の利用価値を最大限にアピールし、「予約半年待ちの鮨屋、良かったら行かない?」などとイキの良い誘い文句を言い出すわけです。

さすがに私はこんなかっちょいいセリフを言ったことはありませんが、あくまで下手に出ることなくプライドを保った戦法で、自分の存在意義を相手に見出してもらいたいという気持ちは理解できます。何かしらの存在意義を見出してもらうことで、ようやく安心して相手のそばにいられるのです……。

ひとことで言うと、私は“めっちゃバカな男”か“クソ思慮深い男”といった究極の2択に惚れやすく、前者に港区おじさんムーブをかましてもただ喜んでくれるだけで終わるのですが、後者の場合は全く違います。

思慮深いということは人の気持ちの動きに繊細に気づくことができるので、自分自身もすごく繊細な方が多いです。そこが魅力的なのですが、彼らに良かれと思って港区おじさんムーブをかますと、プライドをへし折るケースが多数……。

また、「どうお返しをしたらいいだろう」と考えさせてしまったり、不本意にも「自分には見合わないすごい人」というカテゴライズをされ、恋愛対象とはまた違った部類にされてしまったりします。

イタい恋から得た教訓「利用価値はあくまでも付加価値」

つい港区おじさんと同じ手口を使ってしまうことが、私の近年の恋愛の大きな敗因のひとつであることも分かっています。

恋愛では理由を持たない好き、つまり「ワケもなく好き」こそが最強なので、利用価値がない方が関係が明白になりやすく、相手からの好意があるのか否か疑心暗鬼になることもなくなります。利用価値というものはあくまで私そのものを好きになってもらえた上で付加価値として評価されるべきものです。

それを理解しているにも関わらず、利用価値を提示してしまうのはもしかしたら己の承認欲求なのかもしれません。非常に惨めな事態ですが、これからもたわわな胸に小さな港区おじさんを抱えて散々な恋愛を懲りずに楽しもうと思っております。

(文・妹尾ユウカ、イラスト・菜々子)

※この記事は2021年11月21日に公開されたものです

妹尾ユウカ

コラムニスト。短編ドラマ『私の好きって変ですか?』脚本。著書『今夜、軽率に抱かれたくなりました』発売中。

Twitter:@yuka_seno

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