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『オレンジデイズ』に散りばめられた、誰もが共感できる恋愛の悩み

#恋愛ドラマ考察

琴子

あなたには、夢中になった恋愛ドラマがありますか? 泣いて、笑って、キュンキュンして、エネルギーチャージした、そんな思い出の作品が。この企画では、過去の名作を恋愛ドラマが大好きなライター陣が、当時の思い出たっぷりに考察していきます。

こんな大学生活を送りたかった。それが、久しぶりに見返したドラマ『オレンジデイズ』(TBS系)の切実な感想だ。

どこにでもいるような平凡な大学生・結城櫂(妻夫木聡)と、病気で聴覚を失った美しいバイオリニストの萩尾沙絵(柴咲コウ)。

同じ大学のキャンパス内で出会った2人と彼らを取り巻く“オレンジの会”の仲間たちが織りなす恋愛模様や、卒業を控えた学生ならではの将来への葛藤が描かれる本作は、Mr.Childrenの名曲『Sign』と共に脳裏に焼きついて離れない、爽やかで甘酸っぱい青春ラブストーリーである。

優しく誠実な櫂と、臆病で天邪気な沙絵

最初は、最悪の印象で出会ってしまった櫂と沙絵。しかし、彼女に一目惚れした友人・啓太(瑛太)の代わりに櫂が沙絵とデートをすることになったことから、沙絵の親友・茜(白石美帆)と、櫂と啓太の友人である翔平(成宮寛貴)も加わって何かと集まるようになった5人。

彼らはそれを“オレンジの会”と名付け、交流を深めていく。

物語の主軸となるのは、主人公の櫂と沙絵のラブストーリーである。激しいけんかやすれ違いを重ねながらも、櫂の献身的な愛情が凍えてしまった沙絵の心を徐々に溶かしてその距離が縮まっていく様は、胸キュンを通り越していっそ胸が苦しくなる。

櫂は平凡で特にこれといったとりえもないという肩書きを持ってこの物語は始まるが、沙絵との交流の中で描かれていく彼の優しさや誠実さは、もはや菩薩の域だ。献身的ともいえる愛情を抱えて彼女の毎日に寄り添う姿は、誰もが真似できるものではない。

自身の中で大事な存在となりつつある彼女が、昔片思いをしていた先輩とデートに行くという時でさえ、複雑な感情を押し殺し、緊張する彼女に「今日の沙絵は 抜群に かわいい」と満面の笑みでおまじないをかけてあげる男なのである。見ているこっちがその健気さに思わず胸を押さえてしまう。

対する沙絵はというと、耳が聞こえなくなってからはうまく他人と関わることができなくなり、きつい態度や壁を作ることで身を守るしかなかった孤独な女性だ。

臆病で、天邪鬼で、大事なものを失う痛みを知りすぎてしまった彼女が、まっすぐに注がれる櫂の愛情と向き合えるようになるまでの葛藤が全編を通して丁寧に紡がれている。表情豊かに全身を使って語られる彼女の「手話」は、このドラマの見どころのひとつだ。

沙絵が恋愛に一歩踏み出せない理由

いつかこんな面倒な自分は櫂に嫌われてしまうのではないかという不安から、彼の愛情を素直に受け入れることができずにいる沙絵が茜にその心情を吐露するシーンに、こんな言葉がある。

「私が耳聞こえないせいじゃないよ 私がただの女の子だから」「男の子好きになるとさ ただの女の子になっちゃうんだよね」

手話を使ってそう伝える沙絵に、茜は優しく「うん、分かる」と笑う。何気ないシーンだが、私はこのシーンが好きだ。

沙絵は櫂と向き合うことができずにいる理由を、自身の耳のせいにしているのではなく、自分自身の心の問題として捉えることができているのである。

耳が聞こえないことを理由に様々な困難に直面し、時にはそれを盾にして自分の身を守ってきた沙絵。私にとってどこか遠い存在に感じていた「耳が聞こえない」という肩書きを背負った沙絵が、この瞬間、とても身近な存在に思えてくる。

誰かと恋愛をしていく中で感じる痛みや悩みの本質は、きっとどんな肩書きを背負っていても同じなのだ。

私はこんなにキラキラした大学生活は送れなかった。けれど、このドラマを見ているとどこか懐かしい気持ちがふっと湧き起こるのは、作品に散りばめられた彼らの悩みや葛藤に、少なからず自分も共感できるからだろう。

櫂と沙絵を含めた5人の大学生の甘酸っぱい青春の物語を楽しみながら、たまには自分の学生時代を振り返ってみるのもいいかもしれない。

(文:琴子、イラスト:タテノカズヒロ、編集:高橋千里)

※この記事は2021年09月18日に公開されたものです

琴子

愛と食欲に生きるOL。推しがいる人生で幸せ。

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