GLITTER編集長・長谷川ナオさんに聞く「部下との付き合い方」
ごく平凡な会社員として、会社の片隅で働く編集部・ライターが、今気になるビジネスパーソンにインタビューする連載【この会社の片隅に】。今回は、雑誌・GLITTERの編集長を務める長谷川ナオさんにインタビュー。「部下との付き合い方」について聞きました!
取材・文:ameri
撮影:大嶋千尋
編集:鈴木美耶/マイナビウーマン編集部
仕事は楽しい。けれど、後輩がたくさんできてチームを任された時、「あれ? どういうふうに部下と接したらいいんだっけ?」と、ふと迷ってしまうことがある。
上司になると、目の前の仕事にがむしゃらに取り組むだけではなく、周りをしっかり見てチームを引っ張っていかなければいけない。けど、それってどうすればいいの? というか、そもそも「良い上司」って何?
人生の先輩は、こんな壁をどうやって乗り越えてきたのだろうか。今回話を聞いたのは、雑誌・GLITTERの編集長を務めている長谷川ナオさん。
いい意味で“プライドを捨てること”がプライド
ライターのameriです。本日はどうぞよろしくお願いいたします!
こちらこそ、よろしくお願いいたします。
まずは、GLITTER復刊おめでとうございます! 復刊してみていかがですか?
ありがとうございます! ちょうどコロナの期間に休刊していての復刊だったので、正直不安な部分も多かったのですが、まずネット書店で完売したことで皆さんの紙への期待がまだ残っていることを実感しました。
そして、これからは新しい「紙・Web・YouTubeとの連動」に取り組んでいけたらなと思っています。
以前のGLITTERの良さは引き継ぎつつ、アップデートされているように感じました。
そこはかなり意識した部分なので、そう言っていただけてうれしいです。休刊していた1年半で情勢が大きく変わったので、ブラッシュアップして今の時代に合わせていきたいと思っています。
そんな長谷川さんに本日は、「部下との付き合い方」というテーマでお話をお伺いできたらと思っています。
マイナビウーマン読者の女性は、昇進して部下をまとめる立場になる時期を迎えている方も多く、「上司として与えられた仕事を全うしたいけど、部下に嫌われるのはつらい……」「良い上司って何だろう?」と悩んでいる方がたくさんいるんですよね。
長谷川さんは、編集長に就任され編集部をまとめる立場になられましたが、部下や同僚への指示や指導で何か失敗談はありますか?
実は、編集部としてデスクを構えているわけではなく、編集部員は私含め全員フリーランスなんです。海外から参加している編集者もいますし、副業OKの他の出版社で働いており、会社に許可を取って参加している編集者もいます。
働き方がとっても新しいですよね!
そうですね。海外との時差を考えながら仕事をしなければならないので、Zoomミーティングのスタートが早朝になることもあるのですが、それも含めて面白いなとは思っています。……ところで、失敗談ですよね?
はい! ぜひお聞かせください!
今の編集部が発足して半年程度なのでまだそれほど時間は経っていないのですが、これまでもこういった立場での働き方をしていることが多かったんです。
現在40代なのですが、30代前半で初めて部下を持った時は、変に肩肘張って「ナメられてはいけない!」なんて思って、自分にも部下にもキャパ以上のものを求めてしまって……。「自分ができたことは、相手も当たり前にできる」と思ってしまっていたので、“一人ひとり違う”ということをあまり理解できていなかったのだと思います。
その考えで部下を追い詰めてしまった出来事があり、自分の中ですごく反省をし、虚勢を張っても仕方がないので、「いい意味で“プライドを捨てること”がプライドかな」と思うようになりました。
なるほど!
それがちょうど、33〜34歳あたりでしたね。変に張り切っていました。今考えるとその年齢ってまだまだ若いですけど、その時は部下との年齢が近かったので、より「上司っぽくあらねば」という概念に縛られていたのだと思います。
特に出版業界は稼働量が多いので、「私もやってきたからあなたもやって」という考えを押しつけてしまっていて。これはもう今後一切やらないと心に決めました。
そんな出来事があったんですね。現在は、上司としてどのようなマインドで働くことを心がけていますか?
編集長の独断で決めるようなことも、逐一編集部員に相談するように心がけています。全員にというよりは、その分野に長けている人にチャットしていますね。
自分の得意分野で相談されるとうれしいじゃないですか。しかも、全然違う俯瞰の意見をくれることもあるので、あえてプライドを持たずに相談しています。
本当に考え方がフラットですよね。
変にプライドがあると「手が空いていてもそこは私の仕事じゃないからやらない」なんて思ってしまうけど、そうではないと思うんです。
あとは、「自分のダメな部分を全部見せる」ことにしました。以前は、自分の良い部分を見せて、どうにか上司としての威厳を保とうとしていたのですが、今は先に自分がどれだけダメな部分がたくさんあるかを開示してしまおうと思っていまして。
具体的にはどんなダメな部分を?
編集者としてどうかと思うのですが、私“抜け漏れ”が多いんです。展示会とか発表会に、開催日とは全く違う日に行ってしまうこともあって。自分が間違えたのに「この伝え方が良くないよね?」なんて逆ギレしてしまったのは本当に良くなかったですね(笑)。
なので、最初から「私抜け漏れがあるので、行く前にもう一度確認してほしい!」と伝えています。そうすると、部下側も「本当によく間違えますよね」なんて言いながら教えてくれますね。
完璧ではない姿を見ているからこそ、部下も「話しやすい」と感じそうですね。
そうなんです。特に、若い時や新しい環境で働き始めた時とかって“自分がどれだけできるのか”をプレゼンしがちじゃないですか。でも先にマイナスからプレゼンすると、逆にプラスに働くことも多いと思うんですよね。
それで言うと、私も実際「仕事ができないと思われたら終わりだ!」とどこか思ってしまっています……。
実はそんなことないんですよ。弱い部分も認め合うことで、チームとしてまとまりが生まれることもあります。
伝えるべき時は“同僚相手”に変換する
上司になると、言いたくないことを言わなければならない場面ってあると思います。とはいえ「嫌われたくない」のが本音。「嫌われ役」は買って出る必要はあると思いますか?
そんなことないと思います。今は編集部がフリーランスの集まりなので、一人ひとりがプロなんですよね。なので、あまり上司という感覚がなく、プロジェクトリーダーに近いと感じながら仕事をしています。
とはいえ、もちろん言わなくてはいけない時はあります。そういう時は、部下ではなく“同僚に話す感覚”で伝えています。
同僚に話す感覚?
頭の中で、部下ではなく同僚へと変換した瞬間に、同じことを伝えるのでも言い方って変わりません?
例えば、「請求書を早く出して」と言うのでも、「締め切り過ぎてるけど大丈夫そう?」と伝えた方がいいと思うんですよね。コミュニケーションを取る上で、自分が上司で相手が部下だという感覚をあまり持たないことは意識的にしています。
なるほど。GLITTER編集部は基本的にオンラインでコミュニケーションを取っているんですよね。デジタル上のコミュニケーションだからこそ意識していることはありますか?
文字だけの情報では温度感が伝わりづらいので、誤解を招いてしまうことが多いです。なので、重要な内容の時は、チャットを送った後に必ずZoomなどでも話すようにしています。
たしかに、文字だけって冷たく感じることもありますね。
そうなんですよね。それで、実際に誤解が生じてしまった経験があるので、そこは意識してコミュニケーションを取っていますね。
良い上司・悪い上司の違いは「部下にいかにストレスを感じさせないかどうか」
長谷川さんにとって「良い上司」と「悪い上司」の違いって何なのでしょう?
自分の反省点を踏まえてですが、“部下にいかにストレスを感じさせないかどうか”だと思います。
虚勢を張っている上司って、あえて部下にストレスをかけようとするじゃないですか。それって本当に無駄だと思うんです。上司が怖いからといってパフォーマンスが上がるかといえばそうではないので。
自分の弱い部分を隠そうと、強く当たってしまっているだけということもありますよね。
それって必ず部下側に伝わりますよね。横柄な態度を取られて「すごい、この人尊敬する!」とは絶対ならないじゃないですか(笑)。
間違いないです(笑)。
私、人が人に怒っている姿が一番醜い姿だと思っているんです。怒られている場面を見聞きしていると、職場の雰囲気も乱れますし。なので、注意をしなければいけない場面では、できるだけ本人のみに伝えるようにしています。
ただ、一度でも人前で見せびらかして怒るような“面倒な上司”になってしまうと、そこから“良い上司”へと挽回するのってかなりむずかしいと思うのですが、それはどう乗り越えればいいと思いますか?
その弱さを認めるしかないのではないですかね。怖いことだと思いますが。ちょっとずつ弱さを見せていくといいと思います。
きっと、そういう悩みを抱えている方って多いですよね。GLITTERが今後取り組んでいきたいのも「ウェルネス」「マインドフルネス」でして。そこと繋がってくるのではないかなと思っています。
編集者であることにもこだわらない
編集長になって良かったと思う瞬間はありますか?
それぞれのプロたちが作り上げたものの最初の読者になれることですかね。これまで、たくさんの人にいい意味で驚かされてきました。そんなプロたちに仕事が依頼できる立場ということで、編集長はとても楽しい仕事だなと思います。
それと、編集長に就任して初めて、自分はプレイヤーではなく、現場全体を見られる監督みたいな立場の方がマッチしているんだなということにも気づきました。
長谷川さんご自身も新たな発見があったんですね。
最後に、GLITTERが届けたい思いと、長谷川さん自身の今後のビジョンを聞かせてください!
GLITTERは、これまではファッション誌でしたが、今回の復刊からライフスタイルマガジンへと変化しました。生き方と働き方が大きく変わった今だからこそ、生き方を提唱・提案できるメディアを目指せたらと思っています。
そして、私自身は編集という職業はいろいろなビジネスに展開できると思っているので、紙の編集者にこだわらず、さらには編集者であることにもこだわるのをやめようと思っています。GLITTERを起点に、まだまだ挑戦を続けたいですね!
今後のGLITTERも楽しみにしています! 本日はすてきなお話をありがとうございました!
※この記事は2021年08月27日に公開されたものです