「敬語の使い方に自信がありますか?」そう問われると、「間違った使い方をしているかもしれない」と普段何気なく使っている敬語の知識に不安を感じる方も多いと思います。
後輩を指導する際にも理由をきちんと説明できるよう、知っておきたい敬語の基本をもう一度確認してみましょう。
■尊敬語・謙譲語・丁寧語とは
敬語は従来尊敬語・謙譲語・丁寧語の3分類でしたが、2007年に謙譲語が謙譲語IとII、丁寧語が丁寧語と美化語に細分化されて5分類になりました。
・尊敬語:相手や第三者を立てる敬語
「立てる」とは、敬う気持ちや尊重する気持ちなどを表現するために、相手や第三者を上に位置付けて述べること。
・謙譲語I:向かう先に対する敬語
「向かう先」とは、誰に対して敬意を評したいのか、その対象者のこと。対象者は相手の場合だけでなく第三者もある。
・謙譲語II:相手に対する敬語
敬意を評する対象者は相手のみ。
・丁寧語:語尾を丁寧に表現して、相手に敬意を表す敬語
・美化語:丁寧の接頭語である「お」や「御(ご)」をつけた用語
※主語により、尊敬語や謙譲語II に分類される場合もある
「(お客様の)お名前と御住所をお聞かせいただけますか?」(尊敬語)
「私どもの社⻑から御挨拶を申し上げます」(謙譲語)
文化庁の文化審議会の「敬語の指針」に敬語だけでなく、今注目されている言葉遣い全般
の使い方などが詳しく紹介されています。興味のある方はぜひご一読ください。
■よく使う言葉を尊敬語・謙譲語・丁寧語に変換
それぞれの違いをよく使う言葉に変換して、使い方を確認してみましょう。
◇(1)する
・尊敬語
なさる
される
・謙譲語
いたす
・丁寧語
します
☆ワンポイントアドバイス
×「お荷物をお持ちいたしますか?」
○「お荷物をお持ちなさいますか?」
「いたしますか?」は謙譲語で自分の動作なので、相手が持つ場合は、尊敬語を使う。
×「やらさせていただきます」
○「いたします」
やるは「する」のカジュアルな表現のため、続きを謙譲表現にしても不適切。
◇(2)言う
・尊敬語
おっしゃる
言われる
・謙譲語
申す
・丁寧語
言います
☆ワンポイントアドバイス
×「○○様とおっしゃられる方が~」→二重敬語
×「○○様と申される方が~」→謙譲語「申す」と尊敬語「れる」の混合
○「○○様とおっしゃる方が~」
◇(3)行く
・尊敬語
いらっしゃる
行かれる
・謙譲語
参る
伺う
お伺いする
・丁寧語
行きます
☆ワンポイントアドバイス
△「行かれる」→「逝かれる」など同音異義語に注意
○「お伺いする」→二重敬語の例外
◇(4)来る
・尊敬語
いらっしゃる
見える
お越しになる
お見えになる
来られる
・謙譲語
参る
伺う
・丁寧語
来ます
☆ワンポイントアドバイス
×「お越しになられる」→二重敬語
○「お越しになる」
◇(5)知る
・尊敬語
ご存知である
・謙譲語
存じている
承知する
・丁寧語
知っています
☆ワンポイントアドバイス
否定の場合は、「存じておりません」だけでなく「存じません」も可。「存じている」と「存じ上げている」の違いは「○○の○○様を存じ上げている」のように「存じ上げている」は人物に対して使い、より丁寧な印象を与える。
◇(6)食べる
・尊敬語
召し上がる
お食べになる
食べられる
お召し上がりになる
・謙譲語
頂く
・丁寧語
食べます
☆ワンポイントアドバイス
○「お召し上がりになる」→形式としては二重敬語の形になっているが、代表的な二重敬語の例外。ただし、「お召し上がりになられる」は三重敬語になるため×。
◇(7)いる
・尊敬語
いらっしゃる
・謙譲語
おる
・丁寧語
います
☆ワンポイントアドバイス
×「そちらにおられますか?」→謙譲語「おる」と尊敬語「られる」の混合
○「そちらにいらっしゃいますか?」
◇(8)見る
・尊敬語
ご覧になる
見られる
・謙譲語
拝見する
・丁寧語
見ます
☆ワンポイントアドバイス
×「ご覧になられる」→二重敬語
○「ご覧になる」
△「拝見させていただく」→「~させていただく」は、「許可を得て、恩恵を受ける」という二つの要因を備えている場合には○。
◇(9)聞く
・尊敬語
お聞きになる
・謙譲語
伺う
拝聴する
・丁寧語
聞きます
☆ワンポイントアドバイス
○「お伺いする」→「伺う」と「お〜する」の謙譲語を作る2パターンが重なる二重敬語だが、謙譲語の例外として○。その他、「お伺いいたす」「お伺い申し上げる」も○。
◇(10)座る
・尊敬語
お座りになる
おかけになる
座られる
・謙譲語
座らせていただく
お座りする
・丁寧語
座ります
☆ワンポイントアドバイス
×「座れますか」→ら抜き言葉
○「座られますか」
◇(11)会う
・尊敬語
お会いになる
会われる
・謙譲語
お目にかかる
お会いする
お会いいたす
・丁寧語
会います
☆ワンポイントアドバイス
×「AさんはBさんにお目にかかりましたか?」→「お目にかかる」は謙譲語なので相手には使わない。尊敬語の「お会いになる」を使う。
○「AさんはBさんにお会いになりましたか?」
◇(12)伝える
・尊敬語
お伝えになる
伝えられる
お伝えくださる
・謙譲語
お伝えする
お伝えいたす
・丁寧語
伝えます
☆ワンポイントアドバイス
×「(お客様に対して)鈴木部長にそのようにお伝えします」
○「(お客様に対して)鈴木にそのように申し伝えます」
「鈴木」の代わりに「部⻑の鈴木」又は役職だけの「部⻑」も○。伝言を依頼された時は、「言い伝える」の謙譲表現の「申し伝える」を使うとスマート。
◇(13)分かる
・尊敬語
お分かりになる
・謙譲語
承知いたす
了解する
・丁寧語
分かります
☆ワンポイントアドバイス
「了解」は対等の同僚間では○。上司に対しては「承知いたしました」「了承しました」を使う。特にメールなどで注意する。
◇(14)読む
・尊敬語
お読みになる
読まれる
・謙譲語
拝聴する
・丁寧語
読みます
☆ワンポイントアドバイス
×「お読みになられる」→二重敬語
×「読まさせていただく」→「読ませていただく」のさ入れ言葉
◇(15)与える
・尊敬語
お与えになる
与えられる
・謙譲語
進呈する
献上する
差し上げる
・丁寧語
与えます
☆ワンポイントアドバイス
△「上司が私たちにお土産を与えられる」
○「上司が私たちにお土産をくださる」「私たちは上司からお土産をいただく」
「与える」は上から目線の印象があるので、「くださる」「いただく」の言い換えが○。
◇(16)受け取る
・尊敬語
お受け取りになる
・謙譲語
頂戴する
頂く
拝受する
・丁寧語
受け取ります
☆ワンポイントアドバイス
×「頂かれてください」→謙譲語「頂く」と尊敬語「れる」の混合
○「お受け取り下さい」
◇(17)利用する
・尊敬語
ご利用になる
利用される
利用くださる
・謙譲語
利用いたす
利用させていただく
・丁寧語
利用します
☆ワンポイントアドバイス
×「使わさせていただく」→さ入れ言葉
○「使わせていただく」
◇(18)思う
・尊敬語
思召す
お思いになる
思われる
・謙譲語
存じる
所存です
推測する
おもんぱかる
・丁寧語
思います
☆ワンポイントアドバイス
「考える」「感じる」「思う」の違いは、「考える」は頭で論理的に考えること、「感じる」は体験を通して発生した気持ちや感情のこと、「思う」は考えたり感じたりした結果想像したこと。
◇(19)買う
・尊敬語
購入される
お買いになる
お求めになる
買われる
お買いくださる
・謙譲語
購入する
買わせていただく
・丁寧語
買います
☆ワンポイントアドバイス
「購入させていただく」も「許可を得て、恩恵を受ける」という2つの要因を備えている場合は○。
◇(20)考える
・尊敬語
お考えになる
ご高察なさる
ご賢察
・謙譲語
考察する
愚行する
検討いたす
・丁寧語
考えます
・ワンポイントアドバイス
ビジネスシーンのメールでは、考えるという直接的な表現を避けて、「最近の状況をお汲み取りいただき、ご検討くださいますよう~」などの使い方もある。
◇(21)待つ
・尊敬語
お待ちになる
・謙譲語
お待ちする
待機する
・丁寧語
待ちます
☆ワンポイントアドバイス
「待たせていただきます」という表現も相手の許可が必要な場合には〇。
◇(22)帰る
・尊敬語
お帰りになる
帰られる
・謙譲語
お暇する
・丁寧語
帰ります
☆ワンポイントアドバイス
会話では、自分が帰る場合は「失礼いたします」という表現もある。
■尊称・卑称とは
日本古来の文化の表現法として、相手のものは、大きい、高く、立派、美しいものとして表現し(尊称)、自分のものは、小さく、低く、粗末なものとして表すことで相手への配慮を伝えます(卑称)。
代表的な例としては、尊称には「貴」や「御」、卑称には、「幣」「小」「当」「愚」などがあります。
■よく使う言葉を尊称・卑称に変換
よく使う言葉を確認していきましょう。
◇(1)家
・尊称
お宅
貴宅
貴邸
・卑称
拙宅
当家
小宅
☆ワンポイントアドバイス
「貴宅」「拙宅」は書き言葉
◇(2)会社
・尊称
貴社
御社
・卑称
弊社
小社
当社
わが社
・ワンポイントアドバイス
「貴社」は書き言葉、「御社」は話し言葉。「弊社」と「小社」は謙譲語。「当社」と「わが社」は対等な関係のときに使う。
◇(3)店
・尊称
貴店
お店
・卑称
当店
弊店
☆ワンポイントアドバイス
株式会社の形態の場合は「貴店」「お店」ではなく「貴社」「御社」を使う。
◇(4)銀行
・尊称
貴行
御行
・卑称
当行
弊行
☆ワンポイントアドバイス
銀行に対しては「貴社」「御社」は使わない。「貴行」は書き言葉、「御行」は話し言葉。信用金庫は「貴金庫」「御庫(御金庫)」、信託銀行株式会社の場合は「貴社」「御社」を使う。
◇(5)学校
・尊称
貴校
貴学
御校
・卑称
本校
当学
わが校
☆ワンポイントアドバイス
「貴校」は小学校〜大学までを対象とし、書き言葉として使用。「貴学」は大学に使用し、書き言葉と話し言葉の両方。御校は小学校〜大学までの対象で、主に話し言葉として用いる
学校名で「学院」や「学園」の場合、貴学院、御学院 貴学園、御学園も○。
◇(6)新聞
・尊称
貴紙
・卑称
弊紙
小紙
☆ワンポイントアドバイス
雑誌と異なり、「当紙」という表現はない。
◇(7)雑誌
・尊称
貴誌
・卑称
弊誌
小誌
当誌
☆ワンポイントアドバイス
「弊誌」「小誌」はどちらも謙譲表現。当誌には対等のニュアンスがあるので使い分ける。図書の場合は「拙書」となる。
◇(8)地位
・尊称
貴職
貴部長
・卑称
弊職
小職
下名
☆ワンポイントアドバイス
本来、「貴職」は地位の高い公務員、「小職」は公務員の官職(役職)についている人を示したが、今は⺠間企業で使用する場合もある。ただ役職のない人(新入社員や平社員)は使用を避けた方が良い。「小職」は自分より同等か目下に対して使用する。なお、「当職」は士業(弁護士、行政書士など士がつく職業)。
◇(9)官公庁
・尊称
貴省
貴庁
貴局
御省
・卑称
当省
当庁
当局
本省
☆ワンポイントアドバイス
○○庁と終わるものは「貴庁」、○○局で終わるものは「貴局」。当○には謙譲の意味はない。
◇(10)団体
・尊称
貴会
貴事務所
貴協会
・卑称
当会
本会
当協会
☆ワンポイントアドバイス
(メールの文中などの正式な場面以外では)○○センターであれば「貴センター」のように名前の最後から敬称をつけると〇。
◇(11)意見
・尊称
ご意見
ご意向
ご高説
・卑称
私見
愚見
思案
意向
☆ワンポイントアドバイス
「意向」は、意識の方向という意味。「意向」は自分、「ご意向」で尊称。「私見」は、私なりの意見という意味。「愚見」は私見よりさらに謙譲の意が強くなる。
◇(12)文書
・尊称
貴信
貴書
お手紙
・卑称
弊信
書面
書中
☆ワンポイントアドバイス
「書中」は「書中をもちまして」のように使うが、「直接訪問するべきところを文書という手段で」という意味があり、その後にお礼やお詫びが続く。
☆参考「文書における宛名の敬称ルール」
御中→組織や団体
殿→役職(課⻑殿)、個人名(目上には×)
様→個人名
各位→所属するメンバーの各個人宛
×「株式会社○○御中 ご担当者様」
○「株式会社○○ ご担当者様」
「御中」と「様」は重複して使用しないこと。ただし、「お客様各位」の場合は、単独にすると「お客各位」になるので敬称を併用する。病院関係者のみの表現として、「ご机下・御侍史」もある。
◇(13)品物
・尊称
ご厚志
佳品
ご厚志
・卑称
寸志
粗品
寸志
☆ワンポイントアドバイス
尊称には「お心尽くしの品」、卑称には「心ばかりの品」という表現もある。
◇(14)気持ち
・尊称
ご意向
ご意思
ご意志
お気持ち
(ご)心中
(ご)胸中
・卑称
私情
私心
☆ワンポイントアドバイス
「(ご)心中」や「(ご)胸中」は「ご心中お察します」など、相手がつらい、悲しい状況の時に使う。「ご意志」は自分の中ではっきりと決めた意向。「ご意思」は思想や思考、漠然とした思い。「私情」は感情が入るニュアンス。
◇(15)本人
・尊称
あなた様
○○様
・卑称
私(わたくし)
小生
☆ワンポイントアドバイス
「小生」は男性のみ。
◇(16)父
・尊称
お父様
ご尊父
お父上
・卑称
父
父親
☆ワンポイントアドバイス
「ご尊父」は第三者の実父に「ご岳父」は義父に使う。
◇(17)母
・尊称
お母様
ご母堂
ご賢母
お母上
・卑称
母
母親
☆ワンポイントアドバイス
「ご母堂」は第三者の実母に使う。母堂に「ご」をつけた最上級の敬意の表現。「ご岳母」は義母に使う。
◇(18)両親
・尊称
ご両親様
ご両所様
・卑称
父母
両親
双親
☆ワンポイントアドバイス
ご両所様の両所は2人を同時に敬う表現。
◇(19)家族
・尊称
ご家族の皆様
ご一同様
ご家族様
・卑称
家中
一家
家族一同
☆ワンポイントアドバイス
一同は全ての人、一堂は同じ場所にいる人。「ご家族様」は、本来は「ご家族の皆様」で「ご家族」に「様」をつけるのは間違いという説もある。
■敬語に関して何か気付きはありましたか?
言葉が変わると行動が変わり、最終的には運命まで変わるというマザーテレサの言葉があります。
敬語に対する自信がつけば、世代や価値観の異なる方とのコミュニケーションも(ストレスなく)広がっていくことでしょう。素敵な大人女子を目指して、言葉遣いのスキルアップに挑戦してみましょう!
(大部美知子)
※一部画像はイメージです