私がマーケティングのお仕事を始めて、8年目になります。マーケターとは、分かりやすく言うと「どんなメッセージを、どんな手段で消費者へ伝えるか」を考えるお仕事です。
そこでマーケティングを教わる際に口を酸っぱくするほど言われるのが「戦略と戦術」です。日本語ではとても似ていますが、その意味は大きく異なります。
今回は、戦略と戦術の違いをマーケティングの具体例を使って、分かりやすく解説できればと思います。
■戦略と戦術の意味
そもそも、日本語で戦略と戦術が1文字しか違わないのが、混乱の原因でしょう。
戦略は英語でStrategy(ストラテジー)と呼び、組織が前に進むための長期的な筋道を指します。
対して戦術は英語だとTactics(タクティクス)と全く異なる単語。戦術とは「戦略を実現するための細かな具体策」です。
例えば、マイナビウーマンの戦略が「30代の女性全員が閲覧するサイトを作るために30代女性が気になるコンテンツを増やす」ことだとしましょう。戦略は、これくらい大きな方向性です。
この戦略を実現するための戦術は例えば「30代女性が憧れる女性の取材記事を連載する」「30代女性が気になるトピックを3カ月に1度アンケート調査して、トップ10に入ったものを連載テーマにする」といった施策になります。
戦略に比べて、戦術がかなり細かいプランに見えるはずです。戦術は直訳するとTacticsですが、日本人には「プラン」の方が分かりやすいかもしれません。
長期的な筋道(戦略)にのっとり、細かなプラン(戦術)を立てる。これが戦略と戦術の関係です。
■ビジネスにおける戦略と戦術の違い
ビジネス、特にマーケティングにおいては、(1)戦略を立てて、それを基に(2)戦術を決める、という流れで施策を組んでいきます。
わかりやすく説明すると「ざっくりしたやり方を決め、それから細かい案を出す」という流れです。もう1つ具体例を出してみましょう。
あなたが、「オフィスをきれいにして」と言われたとします。時間が限られているあなたは最初に戦略を考え、「大きい部屋からきれいにして、オフィスの清潔感をアップする」と思いつきました。
次に「ノー残業デーの水曜に社員全員からいらない書類を集めシュレッダーにかけまくる」「毎週月曜朝をオフィス点検日にして、一番デスクがきれいな人を表彰する」といった戦術を考えます。
戦略なくして戦術なし。こんな風に大きな戦略を決めてから、細かい戦術を考えるとうまくいきます。
■混同は厳禁。戦略と戦術の用い方
戦略と戦術をどう使い分けたらいいのか、具体的な事例を用いながら解説します。
注意したいのが「戦略と戦術の混同」です。
私たちは何かを言いつけられると、つい「こうすれば解決する!」と具体的なプラン(戦術)を先に出してしまいます。
ですが、その戦術がベストか検証しないと、非効率的な施策に振り回されてしまうでしょう。
◇戦略と戦術の例を学ぶ事例(1)マクドナルドの売上アップ
例を挙げると「マクドナルドの売上を上げて」と言われ、まず「ハッピーセットで〇〇とコラボしよう」と案から出してしまうケースが、戦術に振り回された好例です。
マクドナルドは、座席数が限られています。ですから、売上を上げるなら「客数を増やす、同じ顧客が店舗に来る頻度を上げる、商品の単価を上げる」しか方法がないはずです。
まずはこの中でどれを優先するかを決め、それから最適な案を選ばないと、戦術に引きずられて予算を無駄遣いしてしまいます。
◇戦略と戦術の例を学ぶ事例(2)キシリトールガムの売上アップ
マーケティングの施策を考えるときは「大きな枠組みから考えて、小さなプランに落とし込む」のが定石。まずは、大きな枠組みでどうすれば課題を解決できるか、戦略を考えます。
もう1つ例を挙げると「キシリトールガムの売上を上げる」という課題があるとします。
戦略を考えるなら、
(1)キシリトールガムを買う人数を増やす
(2)キシリトールガムの1人あたりの消費量を増やす
(3)キシリトールガムの単価を上げる
の3つのうち、どれか1つを戦略として選びます。
ここで、消費者を調べたところ「清涼感のあるガムを食べる人は全体の2割だけで、キシリトールガムを好む人口は増える見込みがない」としましょう。
そうすると戦略のうち
(2)キシリトールガムの1人あたりの消費量を増やす
(3)キシリトールガムの単価を上げる
の、いずれかを取るしかありません。
そこで出てくる戦術(プラン)は例えばこんな感じです。
・ キシリトールガムの1人あたりの消費量を増やすために「2つの味を組み合わせれば、新しい味を楽しめる!」と、1度に2個以上食べる考えを浸透させる
・ キシリトールガムの単価を上げるために「口臭菌を除菌できる」をキャッチフレーズにした、より抗菌力の高いガムをプレミアム価格で売り出す
いかがでしょうか? 大きな戦略から考えたからこそ、店頭に実際ありそうな戦術まで落とし込めたと思います。
マーケティングの事例で戦略と戦術の違いがはっきりしたと思いますので、今後はご自身の戦略・戦術立案に生かしていただければと思います。
(トイアンナ)
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