「何卒」の意味と正しい使い方【例文】
「何卒よろしくお願い申し上げます」「何卒よろしくお願いいたします」……ビジネスシーンではよく目にする「何卒」という言葉ですが、うまく使えていますか? もしかすると、知らず知らずのうちに相手に堅苦しい印象を与えているかも。今回は「何卒」の意味と使い方をビジネスマナー講師の髙岡よしみさんに教えてもらいました。
取引先や目上の方に何かをお願いする時、ビジネス文書やメールの末尾にあなたが入力している一文は何ですか?
「何卒よろしくお願い申し上げます」
「何卒よろしくお願いいたします」
この2つは、ビジネス文書・ビジネスメールでは定型文のように広く使用されていますね。
皆さんは、この「何卒」という言葉を使う時、その意味を深く考えたことはありますか?
「何卒」という言葉の意味
「何卒」は「なにとぞ」と読みます。テレビや人との会話で音として聞く機会は少ないかもしれませんが、文章では何度もご覧になったことがあるでしょう。テレビで聞いたことがあるとしたらそれは時代劇かもしれませんね。この点は後で少し触れます。
「何卒」は、ビジネス文書で普段何気なく使っている結びの言葉で、「何卒よろしくお願いいたします」がその代表的な一文です。さて、この「何卒」を他の言葉や表現に言い換えるとしたらどんな言葉が思い浮かびますか?
「何卒」は、相手に強く望む気持ちを表す言葉で、「何卒よろしくお願いいたします」を別の言葉に言い換えると「どうぞよろしくお願いいたします」あるいは「どうかよろしくお願いいたします」となります。
「どうぞ」「どうか」や類語の「ぜひ」を使用するよりも、ビジネス文書やメール文の締めくくりに「何卒」を使用する方がより丁寧な印象になります。
時代劇で殿様に家臣がお願いするシーンを思い出してみてください。「殿!どうか……!」よりも「殿!何卒……!」の方が強い気持ちが込められている印象ですね。
「何卒」の使い方
では、具体的にどんな使い方があるのか見てみましょう。
(1)丁寧にお願いをしたい時
「どうか」「どうぞ」をもっと丁寧に表現したい場合に使います。
「何卒お取り次ぎの程をお願い申し上げます」「何卒ご容赦くださいませ」のように依頼でも謝罪の場合でも使用できます。
具体的に何かを依頼したり謝罪したりする場合でなくても、相手の体調を思いやって「何卒お体にお気をつけてお過ごしくださいませ」と最後に締めくくる使い方もあります。
この場合、「どうかお体にお気をつけて」とするか「何卒」を使用するかの決め手は、あなた(あるいは文書を発信する側)と相手の方との関係性です。とても地位の高い方の健康をお祈りする場合は、「何卒」を選んだ方が尊敬の念が強く好ましい表現です。
(2)ビジネスシーンでは、メール文や社外向け文書で
先に時代劇について触れましたが、現代では話し言葉で「何卒」が使用されることはほとんどありません。
全体の文面の中で、一番丁寧に強く「どうか」「どうぞ」と言いたい箇所に「何卒」を用います。
文の末尾にくることが多いですが、強調したいところが全体の中程であれば、そこで使用しても構いません。「……この点について、何卒ご協力を賜りますようお願い申し上げます。また、私共からもう一つ提案がございます。……」という風に全体の文の途中で「何卒」が登場することもあります。
しかし、「何卒」は同じ文書やメール文の中で何度も使用するには好ましくありません。この点は後に出てきます「注意点」で確認してください。
(3)締めくくりの挨拶として
ビジネス文書やメール文の末尾に締めくくりの挨拶として使用されることが多いです。
「何卒よろしくお願いいたします」、「何卒ご検討の程をお願い申し上げます」などを最後に用いると全体の印象がきれいにまとまります。
ビジネスシーンでは、「依頼」や「謝罪」のためのメールや文書が多く存在します。内容によっては相手にとって非常に困難なものや厳しいものもあるかもしれません。
しかし、極めて丁寧な「何卒」を文の最後に使用し、相手の気持ちを少しでも和らげることが出来たら今後の円滑なコミュニケーションにつながるかもしれません。
このようなことを理解した上で「何卒」が使えているとしたら、あなたは少なくとも文書作成において成熟したビジネスパーソンだといえるでしょう。
例文
これまで見てきたように「何卒」は、とてもフォーマルな表現です。「何卒」に続く言葉もかしこまったものになります。
「何卒」+「よろしくお願いいたします」「よろしくお願い申し上げます」「〜くださいませ」は、セットで使うものとして覚えておくと便利です。
代表的な例文を見てみましょう。
丁寧に依頼したい場合
「何卒ご確認いただきますようお願いいたします」
「何卒ご査収のほどを、よろしくお願いいたします」
「何卒ご協力賜りますようお願い申し上げます」
「何卒お繰り合わせの上、ご出席の程をお願い申し上げます」
丁寧に謝罪したい場合
「ご了承くださいますよう、何卒よろしくお願いいたします」
「何卒ご理解のほど、よろしくお願い申し上げます」
「何卒ご容赦くださいませ」
注意点
ここで、「何卒」を使う時の注意点を説明します。
(1)何度も使用しない
同じ表現が多用された文面はあまり美しいものではありません。したがって、「何卒」も一つの文書で何度も登場するということは避けます。
「何卒」を使用するのは短文ですと1回だけ、長文でも1回から数回にすることをおすすめします。
多くの場合は締めくくりの挨拶として、「何卒よろしくお願いいたします」のように使用します。
(2)類義語を重ねて使用しない
これまでに見てきたように、「何卒」は「どうか」「どうぞ」をより強く丁寧に表現した言葉です。
したがって、「何卒どうか……」や「どうぞ何卒……」というふうに同じ意味の言葉を重ねた使い方は避けましょう。
(3)相手との関係性によって表現・言葉を選択する
「何卒」の使用自体は丁寧な表現を選択していることになりますが、親しい目上の人や、フォーマルではないシーンで「何卒」を使用すると不自然になることもあります。
堅苦しい過剰な表現と捉えられてしまう場合もありますので、相手との距離やシーンを考えながら言葉を言い換えるとスマートです。
(4)結局は相手を思う気持ちが大切
ビジネスであっても、ビジネス以外でも、手紙やメールは常に相手がどう捉えるかということを意識し、たとえ難しい内容であっても読んでくれた相手に少しでも快適な思いをしてほしいと思う心が大切です。
そのためには、あなたが普段何気なく定型文のように最後の一文として使用している「何卒よろしくお願いいたします」の「何卒」の意味や使い方を知ることが、受け取った相手の気持ちに寄り添う上でとても重要な意味を持つのです。
受け取る側を意識して文書作成しよう
ビジネスメールやビジネス文書には、「依頼」や「謝罪」が目的のものが数多くあります。そういった内容は一方的で素っ気無い文面になりがちです。
しかし、あなたが文章の末尾に最も丁寧な「何卒」を使用し、お願いすることで、全体がぐっと引き締まり、プロフェッショナルな印象になります。その上、尊敬の念まで伝わるのですから、「何卒」はビジネス文書におけるとても重要な二文字なのです。
(髙岡よしみ)
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※この記事は2020年08月27日に公開されたものです