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誰かを正しく愛せるわたしになるために #ラブソングのB面

#ラブソングのB面

ひらりさ

聴く人、聴く環境によって「ラブソング」の捉え方はさまざま。そんなラブソングの裏側にある少し甘酸っぱいストーリーを毎回異なるライターがご紹介するこの連載。 今回はライターで、オタク女子ユニット「劇団雌猫」メンバーとしても知られるひらりささんに「ラブソングのB面」を語っていただきます。

ボーイズラブばかり読み漁る思春期のさなか、彼女と出会った。

小学生の時点で、生身の男性への抵抗感があった。少女漫画に出てくる「ちょっと意地悪だけれど肝心なときには身を挺して守ってくれるイケメン」しか眼中になく、一方で、たとえそういうイケメンがいたとして、自分と恋には落ちないだろうと醒めてもいた。

だから、いっそ自分というものを忘れて恋愛の甘くて気持ちいいところだけをむさぼりたくて、男同士の恋愛の世界をのぞくようになった。

2人を繋ぐ共通点

中学受験をして、中高一貫の女子校に入った。

同級生たちと気に入った漫画を貸し借りし、その中に誰かが紛れ込ませたBL同人誌の感想を長時間語り合ううちに、ひとりの女の子ととびきり仲良くなった。

彼女はとっても真面目でおとなしい、でもよくよく聞くと自分の意見をしっかり持っている「副委員長」という感じの子で、ちゃらんぽらんで遅刻魔の私とは表立った共通点はほとんどなかった。

でも、コンテンツの感想を言い合うときには、ほかの誰よりも話が弾むのだった。

クラスが同じ年度も、ちがう年度も、毎朝毎夕一緒に通学し、昼ごはんを一緒に食べ続けた。

休日には秋葉原をブラブラしてから、ソフマップ横にあるマクドナルドの一角を陣取って何時間でも話した。

当時はニコニコ動画が全盛期だったから、「この動画で使われている曲、あのカップリングのイメソンにぴったりじゃない!?」「この2人のイメソンプレイリストつくるなら?」なんて会話もたくさんした。

天野月子、Cocco、BUMP OF CHICKEN、RADWIMPS、シド、PLASTIC TREE……などなど。ちょっとダウナーなトーンの曲が、お互いが好きなカップリングには合っていた。

彼女と私の関係って?

その頃、学校には、付き合っているとささやかれる人たちが何組かはいたし、そうでなくてもエネルギーと自意識の暴走している年頃だから、教室のカーテンにくるまってこっそりキスをしたなんてうそぶく人たちもいた。

課外活動や塾通いの中で「普通に」外部の男性と交際している女の子たちも当然いたけれど、内部での「恋愛ごっこ」の噂はそんな話と同じようなテンションで、学校生活に溶け込んでいた。

だが、彼女と私はというと、ハグもキスもしなかった。かろうじて手くらいは繋いだことがあったけれど、かなり慎重に避けていたようにも思う。

女子校ゆえ本来スキンシップへのハードルは低く、同級生と出会いがしらに「ぎゅー」とやるくらいの温度感は誰にでもあったけれど、だからこそ、気軽にスキンシップをした途端に、なんだか自分たちの関係が「ごっこ」になってしまうような抵抗感があり、その抵抗感を私は、何か神聖なもののように捉えていた。

ほかの人と一緒になりたくなくて、ぎりぎり思いついたのは、同じかたちの指輪をおそろいで買ってペアリングにすることだった。

今考えると、こっちのほうがよほど「ごっこ」だと思う。

私と彼女のラブソング 天野月子『鮫』

その指輪を購入した雑貨屋は、相変わらず御茶ノ水にあるが、彼女と私の関係は、かれこれ10年前に途切れている。

シンプルな話で、大学に上がってしばらくして彼女に恋人ができ、最初は応援するふうに見せていた私が、だんだん被害者ぶった態度で彼女を責めたり、試し行動のような振る舞いをとってしまったりで、結果愛想をつかされたのだった。

その「被害者ぶりっこ」は、私がやっぱり本当は彼女に恋していたからだともとれるし、一方で、純粋に友だちだったがゆえに彼女が自分より先にいってしまったことへの激しい嫉妬を感じたからだともとれる。

その後私も、男性と何度か交際してはみたけれど、いまだに全然わからない。あの頃の気持ちは恋なのか友情なのか。きっとどちらでもあったのかもしれない。

はっきりしているのは、それでも今の私をつくりあげているものの大半は、彼女と一緒に共有してきた時間で占められているし、その時間はたしかにとてもしあわせだったということだ。

「もっと良い今」を得る方法はあの当時いくつもあっただろうけれど、それでも「起きてしまったこと」を受け入れて、心の中の地層にしている「今」の私で生きていくしかないなと思う。

それは後ろ向きなことではなく、必要なことだ。

恋というには未分化で、一方通行だったことを認められているからこそ、彼女と当時一緒に聴いていた曲たちのフレーズは、どれも紛れもなくラブソングとして、心の中に響いている。

「あなたの触れた身体が元通りになるまで 誰かを正しく愛せるわたしに戻れるまで」天野月子『鮫』より。

(文:ひらりさ、イラスト:オザキエミ)

『誰になんと言われようと、これが私の恋愛です』劇団雌猫

彼氏いない歴=年齢で恋愛が苦手、若手俳優に長らくガチ恋…、オタク同士で結婚って? 結婚しないで独りでも生きていける?――「推しに夢中で楽しいけれど……」と、ふと考えてしまうあなたに。みんなの恋バナ、聞きました!

2017年に刊行し話題になった同人誌『悪友vol2 恋愛』をもとに、書き下ろしエッセイやアンケートを加えたオタク女子ユニット「劇団雌猫」による恋愛エッセイ集。恋愛にまつわる様々なモンダイに悩む15人の女性たちの匿名エッセイを収録。

※この記事は2019年10月31日に公開されたものです

ひらりさ

1989年生まれ、東京都出身。ライター・編集者。女性・お金・BLなどに関わるインタビュー記事やコラムを手掛けるほか、オタク女性4人によるサークル「劇団雌猫」のメンバーとしても活動。主な編著書に『浪費図鑑』(小学館)、『だから私はメイクする』(柏書房)など。

ブログ:It all depends on the liver.
Twitter:@sarirahira

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