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「オトコ受け」は悪なのか? 多様性の時代に求められるもの #生きていけ、私

仁科友里

女性がタフに明るく生き抜いていくために、世の中の出来事をどう見たらいいのか。ライターの仁科友里さんが贈るコラム連載「生きていけ、私」。

こんにちは、ライターの仁科友里です。

先日、喫茶店で原稿を書いていたときのこと。

隣のテーブルから、

「私、おしゃれしたら、男性にカワイイって思われたいの」

という声が聞こえてきました。3人組の女性陣の会話に耳をそばだてると

「私たち後期高齢者は」

という言葉が聞こえてきましたから、彼女たちは75歳以上の年齢であることがわかります。

75歳を過ぎても「男性にカワイイと思われたい」と思う女性がいる一方で、若い女性から「オトコ受け」や「モテ」という言葉を聞くことが少なくなったと思います。

私は1974年生まれですが、20代のころは空前のモテブームで、銀座の高級クラブの元ホステスである蝶々さんが書いた『小悪魔な女になる方法』(集英社)が一世を風靡し、モテの教祖として地位を確立しました。

蝶々さんが街を歩くと、蝶々さんに吸い寄せられた男性が、あとをぞろぞろついて長い列になったなど、いろいろな伝説が残されましたが、赤文字系の女性誌にも「バカモテを目指す」といった特集はたくさんありました。

しかし、最近の若い女性誌にはそういった企画はほぼないと言っていいでしょう。どうしてこんなふうに変わってしまったのでしょうか?

「オトコ受け」「モテ」が消えた3つの理由

「オトコ受け」「モテ」が消えた背景には、3つの理由があるのではないかと思っています。

(1)オトコが以前よりも稼げなくなったから

厚生労働省が平成30年に発表した、平成29年版の「国民生活基礎調査」を見てみると、日本人の所得が減っているのがよくわかります。1994年の全世帯の所得平均は664.2万円ですが、2015年には560.2万円と、20年あまりで所得が100万円以上減っていることがわかります。

モテブームのころ、つまり今より所得が高かった時代は、稼ぎのいいオトコにモテて結婚をすれば、まあまあ経済的な安定を得ることができました。

しかし、今は結婚願望自体ない男女が増えていますし、結婚しても経済的に安泰だとは限りません。となると、モテるメリットがないともいえるのです。

(2)SNSの出現で「自分を見る」回数が増えたから

SNSができる前は、自分の姿というのは「他人が見るもの」でしたが、SNS世代のみなさんは自分がアップした自分の画像を見ることが当たり前となっています。

自分のことで頭がいっぱいの状態は、「場合によっては、他人の望む姿に自分をあてはめる」というモテの概念と反対の位置にいるのです。

(3)フェミニズムの影響

2017年にハリウッドの有名プロデューサーによるセクハラ告発がニューヨークタイムズ紙に掲載されると、多くの女優が実名で被害を名乗り出るなど、大きな反響がありました。

アメリカ人の女優 アリッサ・ミラノがSNSで「#MeToo」のハッシュタグとともに、セクハラ被害を告白しようと呼びかけたため、世界中の女性が、それぞれのつらい記憶をツイートしだしたのでした。

日本においても、ブロガーで作家のはあちゅうさんが先輩男性から受けたセクハラを告発し、2019年には職場のヒール強要をセクハラだとして、女優の石川優美さんが署名運動を起こしました。

おそらく、今は一種の過渡期なのだと思いますが、こういう風潮から考えると、今まで「女性らしさ」のひとつとされてきた「オトコ受け」とか「モテ」を口に出すのは憚られる風潮になってきているともいえるのではないでしょうか。

「オトコ受け」「モテ」は本当に悪なのか?

それでは、「オトコ受け」とか「モテ」は悪いことなのか、最近炎上した呉服店の広告キャッチコピーを例に考えてみましょう。

炎上したコピーは、着物を着ると、高収入の男性や外国人男性にモテて、和服の魅力で外国人と結婚できて、ハーフの子どもを持つことができるというメリットを訴えている内容でした。これは3年前の作品で、東京コピーライターズクラブ新人賞を受賞したそうです。

SNS上では「オトコ受け」にNOをつきつける意見があふれましたが、その一方で、毎年花火大会やお正月が近づくと、「浴衣もしくは和服を着ると、モテる」という記事が目につくようになります。しかし、こちらは炎上しません。なぜ呉服店のコピーは炎上し、こちらの表現はOKなのでしょうか?

東京コピーライターズクラブ新人賞という栄えある賞だから、注目度が大きいという部分もあると思いますが、それ以上に、着物を着る目的を、売る側が勝手に「決めつけた」からではないかと思います。

「浴衣もしくは和服を着ると、モテる」という記事は、「私という女性が、モテるためにその手段として、浴衣もしくは和服を着ます」というふうに、個人の意志を出発点として作られています。

しかし、このコピーは「女性ならモテたいでしょう? 聞こえのいい男性(高収入か外国人)が好きでしょ? それなら和服を着なさい」というように、二重の決めつけがなされており、根っこにあるのは「オンナはステイタスの高いオトコに選ばれたら勝ち」という価値観ではないでしょうか。

ですから、もしみなさんが自分の意志として、「モテたい」「オトコ受けしたい」と思うのなら、それは恥ずべきことでも、女性の権利をおとしめるものでもありませんから、ぜひ挑戦してほしいと思います。

女性が「彼氏がほしい」とか「職場など、周囲の男性にカワイイと思ってほしい」と思うのは自然なことだと思います。

オトコ受けやモテるための方法をやってみて「案外つまらない」とか「効果がない」と思うのならやめればいいわけですし、「モテて気持ちいい」と思うのなら、続けるもよし。

大事なのは、自分で挑戦することです。

モテたいとか、オトコ受けを狙うことは、自分自身や男性について考えることにつながりますから、若いうちに経験してソンはないと思います。

多様性の時代=「自分で考える能力が問われる時代」

冒頭の喫茶店で出会った75歳の女性3人組について、話を戻しましょう。

「私、おしゃれしたら、男性にカワイイと思われたい」といった女性に対し、残り2人は

「私は、服は着ていればいい」
「私は自分のためにきれいにしたい」

と話していました。

70代でもオトコ受けしたい人はそこを狙えばいいし、20代でもモテたくない人はそれでいい。要は自分の意見に責任を持ち、相手を否定しなければOKということです。

多様性の時代といわれますが、それは「自分で考えて、自分で方向性を決める能力が問われる時代」といえるのかもしれません。

(仁科友里)

※画像はイメージです

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※この記事は2019年07月13日に公開されたものです

仁科友里 (コラムニスト)

1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。OL生活を綴ったブログが注目を集め、2006年に『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。『サイゾーウーマン』『週刊女性』『週刊ポスト』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む女性たちの相談にも答えている。
Twitterアカウント @_nishinayuri

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