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コラム 片思い

女がそろって男の話。不思議で不可欠な「女子会」 #平成恋歴史

鈴木涼美

女の子って喫茶店だけで3時間とかいったい何してるわけ?

男の人に大変よく聞かれる質問。たしかに私たち女性は、お茶でもしようなんて言って喫茶店に集合して、コーヒー1杯で平気で2〜3時間話し、おなか減ったねなんてレストランに移動して、さらに3時間ノンストップで話していられる。

一緒にいるだけでドキドキして幸せ、という恋人同士の関係とも全然ちがう、もっと緩くて普遍的なその時間は、かつては食事会やお茶会なんて漠然とした名前で呼ばれていた。なんの目的もなくただ集まる女の子同士の会合は、何かおいしいものを食べようとか、食べがてら打ち合わせをしようとか、同窓会をしようとか女の子を紹介しようとか、そんなわかりやすい目的があってはじめて集まる男同士には理解しがたいものだから、多分ずっとピンとくる名称がつけられてこなかった。

私たちにとっては恋愛それ自体と同じくらい重要な、女同士の恋愛話。生産的な答えを出すわけではない。むしろその非生産性にこそ何億もの価値がある。自分の中で整理できない思いや不満や不安を言語化して共有し、参考になるかならないかよくわからない女友だちの話も聞いて、そういう時間がなくては多分、男性の浮気も不満だらけの硬直した関係も別れや恋のはじまりもハンドルできない。

先日、男の人に約束を当日キャンセルされて落ち込んでいた友人と渋谷の喫茶店で会った。もうひとりも合流した3人で、結局夕飯を食べそびれて深夜まで、そのまま喫茶店でコーヒーやジュースをお代わりしながら喋っていた。

「そもそも、先月うちに簡単に泊めたのがいけなかったのかな。それまでは一応、ちゃんとほかの女の子切って付き合おうかなって考えてくれてた気がする。最初に泊まったときは何もしてないけど、また泊まったらそういう仲になっちゃうじゃん。それでもはや付き合うどころか、平気でドタキャンされる立場になった」

男の人と2人で食事に行ったり映画に行ったり家に呼んだりする関係になって3カ月、はじめて約束をキャンセルされた女友だちが、自分の美貌やキャリアも忘れて軽く失敗を分析する。すかさず友人のもうひとりが一般論を展開しつつフォロー。

「たしかに、男の人に付き合うって言葉にして言わせるなら、体の関係を持つ前かせいぜい1回したあとだよね。目的がなくなっちゃうんだよね。男性って付き合うことをリスクとか不自由とか面倒とかマイナス要素で思ってるからね。付き合わないと手に入らないって状況がないときついんだよね、普通はね。でもさ。彼の場合はさ、あんたと付き合うってむしろステイタスと思ってそうな気もするんだよね。知性がない子とか若い子とか好きじゃなさそうじゃん。趣味とか合って、社会的立場も高い彼女います、って言いたそう。単に言うタイミング逃したんじゃない? というのは、体の関係持ってあんたが明らかに好き好きアピールしても、毎回彼のほうから映画やら何やら誘ってくるじゃん。普通は面倒になるから、気持ちに気づいたら距離置くって」

出遅れた私も参加する。

「少なくとも、今日のキャンセルは本当に軽く扱うとかいう意味はまったくないよ。単に仕事人間なんだよ。新しい日程提示してるわけだし。それに、前回は彼が酔って会いたいって言ってきたわけじゃん? 照れ屋だったら酒入れて精一杯の愛情表現だと思うんだよね。付き合うとか、プライドと照れで言えないんだとしたら、こっちから言ってあげるのが吉と見える」

「でも、1回はなんとなくこっちから言ってるわけじゃん? てことは彼の中では、付き合うとかはもうナシで、割り切った関係オッケーだよね、って確認とったって思われてる疑惑もある。それにさ、彼が私みたいなのと付き合いそうっていうのはこっちの勝手な印象論で、男性って知性があろうがなかろうが、オシャレだろうがダサかろうが、結局は自分がいないとダメ、みたいな女の子が好きじゃん」

「それは否めない。だってうちの先輩と付き合ってた人もさ……」

男性から連絡がきたらそれを分析し、男性から連絡が途絶えたらそれまでの言動を分析し、男性がうんといったら分析し、男性が右手を軽く動かせばやはりそれを分析し、私たちはあーだこーだと自分たちの感情の揺れに何かしらの意味や答えを探している。

もちろん、答えや意味がはっきりわかったことなんてない。それでも、わからないとひと言で終わらせることはできずに、奥のほうにぼんやりと見える気がする何かに向かっておしゃべりはつきない。

こういう時間をかつてはいったいなんと呼んでいただろう、と思う。

居酒屋チェーンのキャンペーンや米ドラマが火つけ役となったとされる言葉「女子会」は、徐々にホテルのプランや雑誌の見出しに登場するようになって浸透し、2010年には新語・流行語大賞のランキングに登場した。一時のブームで終わることがなかったのは、おそらく言葉が登場する前から実態だけあったその時間に、はじめてものすごくしっくりくる、ほかでは代替できないネーミングが施されたからだろう。

今でも、レストランの飲み放題プランやイベント特集に「女子会向け」「女子会にぴったり」なんていう言葉が頻出する。私たちも「女子会しよ」「次は女子会だね」と自然に会話している。

女子会という言葉の登場は、それまで名前が与えられなかった女同士の不思議な、でも不可欠な時間を世界が認めてくれた証なのかもしれない、と思うと、この時代の女子に生まれてよかったな、なんてちょっと思えてくる。

(鈴木涼美)

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