正人ロスを起こしたい。『半分、青い。』中村倫也インタビュー
4月2日(月)スタートのNHK連続テレビ小説『半分、青い。』に出演する中村倫也。彼が今回演じるのは「女泣かせなゆるふわイケメン」という、なんとも本人のイメージにぴったりな役どころ。とはいえ、つい先日まで真逆とも言える役を演じ、ハマり役だと話題になったのを忘れちゃいけない。そう、彼は役によってまったく別人に生まれ変わるカメレオン俳優。
朝ドラ出演は、なんとデビュー以来13年ぶり。数々の役を演じ分ける心境や、驚くほどに振り幅の広い演技の秘密について、彼が語った本音とは。
今まででいちばん案配が難しかった「朝井正人」役
――今回演じる朝井正人という人物は「ふわっとした雰囲気でつかみどころがなく、誰にでも優しくてモテる男」という役柄。中村さんはこのキャラクターをどのように捉えていますか?
今までいろんな役をやってきましたけど、いちばん案配が難しいと感じる役でした。正人は漂う雲みたいな人。つかみどころがない、マイペースで謎のある人間はやっぱり興味を惹きつけると思う。だけど、それを表現するのって難しいんですよね。脚本のト書きに、正人は「切実さを感じさせないのが魅力」と書いてあって、なるほどなと。
――演じる上で自分なりに遊んでみたことはありましたか?
正人の役ではわりと遊んでましたね。それも、人にバレないように、つかみどころがないように。視聴者に「この目線はなに?」「この間はどういう意味?」って想像してもらえるように心がけていたんです。“表現してない部分での表現”で、見ている人は想像力を働かせるものだから。自由に解釈してもらって「ああ、ここで正人は鈴愛ちゃん(永野芽郁)に惚れたんだな」とか、それぞれ思いを巡らせてもらえると嬉しいです。
――正人とご自身の共通点もたくさんありそうですね。
仕事モードじゃないときに喋るテンポがわりと自分も遅いので、そこは似ているのかなぁって。考えながら喋る分、微妙な間が生まれるんです。正人を演じる上で、その共通点は活かせると思っていました。
――たしかに、正人と役を演じていないときの中村さんはよく似た空気感をまとっているように感じます。「女の子にモテる」という部分はどうですか?
正人が律(佐藤健)に対して言う「女の子よりキレイな顔してモテようったって難しいよ。俺くらいがちょうどいい」みたいなセリフがあるんですけど、面白いことを言いますよね。俺くらい中途半端で、中肉中背の「クラスにいたらちょっとカッコいいけど」ってレベルがちょうどいいんだろうなと思うことはあります。自分が逆にものすごくキレイな女性を見たら、簡単にアプローチできないから。
――その気持ち、すごくわかります。
撮影前のメイク中、鏡越しにいる(佐藤)健を気がつくとジッと見てしまう瞬間があるんです。つくづくキレイな顔してんなぁって。そのうち健がパッとこっちを見るから、すぐに目をそらしちゃう。
――キレイすぎる存在は近づくのを躊躇してしまう。それならば、親近感を抱ける存在のほうがモテる、と。
とはいえ自分がモテるわけではないので、そこは正人を通じてモテたらいいな。最近は恐い役が続いたからか、おそるおそる声をかけられることが多かったんです。でも、5月からは老若男女の方に「まーくん!」って温かく手を振ってもらいたいですね。
――さきほどお話に出た、律役の佐藤健さんとの共演はいかがですか?
健との芝居は本当に楽しくて。なんとも言えない空気感のシーンが多いんですよ、2人のシーンって。ちょっと真面目な話になったかなって思うと、ふとはぐらかすようなセンテンスがある。お互い、ある意味鎧をまとっていない状態で芝居をすると、そういう瞬間が生まれることがありますね。だから、健とのシーンは演じていて楽しいです。
――そんな正人と律の関係性と、中村さんと佐藤さんの関係性に似ている部分はありますか?
近いかもしれないですね。健はクールだし、オレはヘラヘラしてるし。役は同い年だけど、実年齢はオレが2歳上。だけど、空き時間に健からルービックキューブを教わったり、知恵の輪を教わったり、ピアノを教わったり。教えてもらってばかりですね。だから健のほうがお兄ちゃんみたい。
演じることは、凧揚げのようなもの
――中村さんは、同時にさまざまな役を並行して演じられることも多いですよね。気持ちを切り替えるために意識していることは?
演じるって、基本的には凧揚げみたいなもの。凧が揚がっているとき、そのひもを持つ人は地面にいるじゃないですか。芝居もそれと似ているんです。いろんな役の凧を揚げているけれど、自分は地面の上に立っている。Aの役をやったら凧を回収して、次の日はBの凧を揚げて、みたいな。
――その切り替えに苦労することはないですか?
そうですね。役に引っ張られるタイプではないので、人格的な切り替えは難しくありません。だって、演じる役はすべて別の人間だと思っているから。もちろん、自分の人生や経験とリンクさせてはいるけど、それは凧揚げの糸の部分の話。普段の自分に近いなっていうキャラも、遠いなっていうキャラも、凧はその都度同じだけ揚げないといけない。だからこそ、全部の役を自分だとは思っていないんです。
――とはいえ、不思議なことにどんな役を演じてもそれが中村さんに憑依しているようにさえ感じるんです。「カメレオン俳優」という言われ方もよくされていますけど、ご自身はそう評されることについてどう思われますか?
本望です。18歳でデビューしたときに「いろんなことをやるけど、結局実態がつかめない」って思われ続けたいと考えていたんですよね。役者としてはあまりよくないことかもしれませんが。きっとパーソナルな部分に惚れてもらったほうがいいと思うので。でも、見る作品によって「中村倫也に合う役はこれだよね」っていうのが百人百様ちがう意見を持ってもらえるような役者になりたいと思っていました。だから、今度は「きっと正人こそ中村倫也のハマり役だね」って思ってもらえるように演じたい。
絶対正人ロスを起こしたい
――朝ドラ出演は2回目だそうですが、ご自身の俳優人生にとってどんな意味合いを持ちますか?
朝ドラに出られることは、役者として誉ですね。以前に出演したのは『風のハルカ』(2005年)という作品で、デビューして半年くらいのころ。何もわからず、でも自信を持ってやっていたんです。今思うと「いろんな人に迷惑かけてたな」って感じる(笑)。そのときにディレクターをやっていた方が今作のプロデューサーで。自分としてはちょっとした恩返しというか、成長した姿を見せたいという思いもありますね。
—そういった意味では、役者人生のなかでも強い思い入れのある作品なんですね。視聴者には、正人のどんなところに注目してほしいですか?
登場から「なんだこいつ」感があると思うんです。その「なんだこいつ」感をイヤミにならないように演じているので、そこに注目してもらえたら。あとは、東京に上京した主人公たちが「この人何者?」と興味を持つ存在を作り上げたので、そこもぜひ見てもらいたい。最終的に物語に登場しなくなっても、起こってなくても、正人ロスが起こったかのように(記事を)書いてほしいですね(笑)。このあいだ、少し前の朝ドラ(『べっぴんさん』)に出ていた林遣都くんと話したんです。そのときに「俺、ロス起こるかと思ったら、全然起きなかった」ってずっと言ってて。「倫也さんも、ロスが起こるかと思ったら起こんないですからね!」と言われたので「絶対起こしてやる!」って思ってます。起こそうと思って起こせるものではないですけどね。なので、記事ではぜひ起こっているかのように書いてください。それを遣都に見せたいな。
NHK連続テレビ小説『半分、青い。』
故郷である岐阜県と東京を舞台に、ちょっとうかつだけれど失敗を恐れないヒロインが、高度成長期の終わりから現代までを七転び八起きで駆け抜け、やがて一大発明をなしとげるまでのおよそ半世紀の物語。
大阪万博の翌年、1971年(昭和46年)、岐阜県東部の架空の町・東美濃市梟(ふくろう)町で生まれた鈴愛(すずめ)。小学生のときに病気で片耳を失聴してしまうが、持ち前のユニークな感性と温かな家族、幼なじみの支えで前向きに乗り越える。高校最後の夏休み、幼なじみの律(りつ)に薦められた少女慢画家秋風羽織の作品にカルチャーショックを受けた鈴愛は見よう見まねで漫画を描き始め、トークショーで名古屋に着ていた秋風本人に自作の漫画を差し出す。思いもよらない秋風の反応とは……。
(取材・文:落合由希、編集:井田愛莉寿、撮影:須田卓馬)
※この記事は2018年05月11日に公開されたものです