くうねるところにすむところ研究室 #02 野菜がやってくるところ
暮らしにまつわるあれやこれやの実験を日夜、繰り返す。食べること、つくること、本を読むこと。全部が繋がって、染み込んで、続いていく毎日が健やかで楽しくなっていってくれたらと願っています。よりよく生きていきたいへなちょこ研究員、チェルシー舞花の連載。
こんにちは。
チェルシーです。神戸でお店を営む女性の自宅に撮影でお邪魔して、なんてすてきな暮らしぶりか、と感銘を受けて帰ってきました。
自分にとって大切なものをじいっと立ちどまって、見つけ出している感じが伝わってきて、その生きる姿勢にガツンとやられてしまった。
すっきり整ったキッチンの冷蔵庫をふと見ると、「坂の途中」という野菜の宅配のお知らせが貼ってある。
彼女の暮らしぶりが私のこれから目標とするところ、と心に決めたところだったので、早速真似させてもらって、「坂の途中」に宅配を頼んでみました。
お試しセットを開けてみた
野菜が数種類入っているお試しセットを注文。
ダンボールを開くと、イラストが小さくはいっていてかわいい。
今回のお試しセットはこんな風。
小松菜、しめじ、じゃがいも、にんじん、かぶ、白ネギ。
野菜の説明書にはおいしい調理法や、保存方法、農家さんの人となり、なんかもが書いてあって、とても心強い。
セロリ革命
ダンボールの中の冊子を見て、東京にも店舗があることを知り、さっそく行ってきました。
店に着くと、「千葉で農業をしている夫婦が、いまちょうど野菜持ってこられたんですよー」と、この夫婦の馴れ初めは野菜がきっかけだったこと、などなど、ずらりと並んだ野菜の説明とともに話をしてくれた。
「このセロリ。私はこのセロリを食べたら、セロリ革命が起きました」と聞いたら、食べてみたくなってしまう。
「あと今おすすめなのは、にんじん。雪の下に埋まったにんじんはあまーくておいしいですよ」とのこと。
積雪の中、にんじんを掘り起こしていく、その気が遠くなる手作業を想像してクラクラ。
お店のお姉さんが教えてくれる野菜の食べ方がひとつひとつおいしそうで、ついつい手が伸びる。
見た目は生姜にそっくりなキクイモのほか、ビーツや紅大根やら、気になる野菜をいくつか買って、ほくほくとした気持ちで帰ります。
嘘つきのスープ/野菜の調理いろいろ
さて、この野菜をどうしたものか。
ネギはちょうど家に太めのものがあったので、きのこと一緒に蒸して、オリーブオイルと塩胡椒をかけて食べ比べしてみました。
あまみやトロリととける食感のバランスがそれぞれちがって、やみつきです。
おいしかったのでさらに作り足して、ジップロックに常備することに。
他の野菜もいろいろとマリネにしてみる。
かぶは 梅酢+蜂蜜+塩
紅大根は ごま+胡桃+オリーブオイル+米酢
トマトは バルサミコ酢+オリーブオイル+塩
かぶは、切ると繊維が透明に透き通っていて、ほれぼれ。シャキシャキしていて、とても甘い。
赤大根は噛めば噛むほど、おいしいうまみというか、おいしいエキスが出てくる感じ。こんな味がするのか、とちょっと驚く。
トマトのマリネはサラダのドレッシングにも使えて、本当に優秀。
カレーの横に、お弁当の端っこに、小腹が空いたときにちょっとつまんだり。帰ってきてサササと盛れる、便利なごはん貯金。
ビーツは冷たいポタージュになりました。
なんだか嘘をつかれてるんじゃないか、って思うほどピンクに。
玉ねぎと炒めて、コトコト煮たらミキサーにかけて冷蔵庫で冷やす。最後に生クリームとヨーグルト。すこし酸味のあるさっぱりとした味。
にんじんとキクイモをオーブンでじっくり焼いたものは、濃厚でねっとりとしていて、おいしかった……。
160℃のオーブンに30分くらい。ほっといただけなのに、おいしくなってありがたい。
あとは、小松菜をたっぷりのオリーブオイルとつぶしたニンニク、唐辛子でしゃっと炒めて、くたっとしたらお皿にのせて、醤油をたらり。
やあ、この青菜のオイル煮はおいしかったなあ……。
芯のシャキシャキが残りつつのクタクタ感。こんな人になりたいよね。肩の力が抜けているんだけど、奥のところが実はシャキッとしてるみたいな。
つたわりますかね。
順番が入れ替わった
これまでは、つくるものが決まってから、野菜や食材を買いに行って。
指揮権がすべて私にあって、たまに途方にくれていたりする。
でもこうしておいしい野菜が届くと、ちょっとだけ手を加えればいいな。というめちゃくちゃ強力な野菜応援団がバックに控えている、という安心感。
いつも買う野菜は、どうしても使い勝手のわかる似たものになってくるけれど、知らなかったいろんな味に出会えるのも、とてもとても楽しい。
野菜の作り置きを、おやつ代わりにもつまむようになったので、やたら食べていたお菓子が減ってきて、いいことづくしな今日この頃。
野菜がやってくるところ
1年に1度、「種市」という市がたつのをご存知でしょうか。
オーガニックベースの奥津さんと、そして移動八百屋「warmer warmer」の高橋さんが音頭をとり、日本に流通する1%に満たない在来種・固定種の野菜(=古来種野菜)に焦点を当てた、このイベント。
ちょうどこのイベントがはじまったころ、吉祥寺に住んでいたので、たくさんの人が集まっていたのを肌で感じていて。種市は今も毎年続いていて、今年6回目を迎えています。
warmer warmerの高橋一也さんの著作『古来種野菜を食べてください。』(晶文社)を読むと、種を紡いできた、たくさんの人がいること。種を取って、まいて、野菜を育てる、というのが、実はいまの当たり前ではないということがわかる。
F1(※)のこと。戦後、子どもたちがご飯に困らないように、と心をこめてたくさん作れるように、と研究した人たちの想いもある。
そして今回、坂の途中の宅配から学んだ、安定した野菜を供給するために、農薬と化学肥料に依存して作る畑は、野菜に栄養分を与えてくれる微生物も一緒にいなくなってしまい、土が徐々に痩せていくということ。このサイクルでは「今」の収穫量は増えるけれど、100年後の豊作は期待できるのか、未来から前借りをしているだけではないだろうか?
この悪循環から抜け出したい、まっすぐ、丁寧に作られた野菜はおいしいけれど、安定しない生産を買い取る仕組みを作ることをしている人たちがいる、ということ。
この両方を知っているということ。
本の中で、農家の人が言っていた、忘れらないひと言、「農法は生き方です」。
その言葉に、胸がドキッとした。
なるほど、どれを選んでいくのかも生き方の選択だなと。
100年先も続いていく畑を作っていきたい、と思う人を、私も少しでもお手伝いをしたい。食べることで、持続可能になるならば。
そういうわけで、このくうねるところにすむところ研究室にも、定期宅配で野菜が届きはじめました。
これからが、楽しみ、楽しみ。
(チェルシー舞花)
※F1とは:大量生産、安定供給、大量輸送などを可能にするために人為的に改良した種のこと。
※この記事は2018年03月09日に公開されたものです