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【真夜中のKISSマンガ】第2回『カカフカカ』の“順序が逆”キス

和久井香菜子

少女マンガ攻略・解析室室長の和久井香菜子が、真夜中に読みたいキスシーンをご紹介。ベッドの中で胸キュンが止まらない“とっておきのキスシーン”って? 金曜午後10時、甘くて切ない秘密の時間がおとずれる。

少女マンガの鉄則は「心がまず結ばれて、それから身体」だったはずです。まだまだ社会が男性のものだったころ、男の言い分に乗っかっていたら、どんなひどい目にあうかわかったもんじゃありませんでした。だから「こいつの口説き文句はホンモノか?」と吟味しなければいけなかったんです。慎重を期した上で捧げるくらいじゃないと、あとが怖い。

だけど女の権利が確保されるようになると、ようやく「女も自由に楽しんだっていいじゃない!」という空気になってきます。なにかあっても泣き寝入りしなくていい時代になってきたから。そうして「身体だけの関係があってもいいじゃない!」 なんて粋がる作品が出てきたりもしました。でもやっぱりあんまり浸透しなかった。どうやら「心と身体を完全に切り離す」のは女の心理とはかけ離れていたのかも。

そうこうするうちに、とんでもない作品が出てきました。『カカフカカ』です。この物語は「まず心」でも「割り切って身体だけ」でもないんです。斬新です。

今夜のKISSマンガ『カカフカカ』

物語の主人公は、同棲した彼氏にフラれ、友人のシェアハウスで暮らすことになった24歳のフリーター・寺田さん。そこで、中学の同級生で元彼の本行(ほんぎょう)と再会するところからはじまります。

そこにラブはない。ちぐはぐな添い寝をはじめる2人

ここ2年ほど、身体が反応しなくなっちゃったという本行。だけど、寺田さんには元気いっぱいなんです。リハビリとして本行は、寺田さんに添い寝をお願いするようになります。

なんだかんだ断れず、協力することになった寺田さん。カラダをぴったり重ね合わせて布団に入る2人。そこにラブはありません。とは言いつつ、嫌いじゃない男性と肌を寄せ合ったら、気になりますよね、気になり出しちゃいますよね!

和久井は嵐の二宮くんが好きなんですが、理由は簡単です。彼が夢の中に出てきて、橋の上で和久井に「付き合って?」と告白してきたからです。目が覚めたらもうニノファンですよ。夢ですらこうなんだから、嫌いじゃない相手と実際にスキンシップなんかしたら、好きになるに決まってます!

だけど、あくまで本行と寺田さんの行為は添い寝。「ヘンなことはしない」っていう約束だから、ただ、くっついて寝るだけなんです。

とはいえ、横向きに寝そべると後ろから本行が身体をくっつけてきます。首筋に息がかかり、おなかにやさしく手を添えてくるんです。思わずモンモンと考える寺田さんですが……。読んでるこっちも身もだえなんですけど?

主人公の思考を通して表現されるキスがいい

そんな2人が、もう読者をじらしにじらして、ようやくキスまでたどり着くのが今回のシーン。そのまえに、いろいろやることやってるので順序が逆です。だけどそんなの、どうでもいい!

キス自体 は細かく描かれないんだけど、寺田さんがずっとあれこれ考えている様子が細部まで表現されているんです。読んでいると想像力が刺激されて、めっちゃゾクゾクします。

最近の少女マンガでは、キスの唾液を描くとか生々しい表現をする作家さんもいるんですが、正直、そういうのはちょっと受けつけないんですよ。生々しすぎて気持ちが高まらない! 『カカフカカ』もそうですが、描かれないからこそ想像力が膨らんでドキドキするのに……。

本行の心情も描かれないリアルさが魅力

「描かれない」といえば、この『カカフカカ』、本行の気持ちも描かれません。たいていの少女マンガは、男性キャラの心情が手に取るようにわかるので、私たちは安心してページを進めることができますよね。でも、肝心の本行はなにを考えているのかわからないんです。あんなこともこんなこともしているのに。だけど、きっかけがそもそも添い寝だし、本行は感情が顔に出ないから(ついでにト書きも書いてくれないし)もうぜんぜんわからない。そこが妙にリアルで惹きつけられる作品です。

(文:和久井香菜子、イラスト:菜々子)

※この記事は2017年09月29日に公開されたものです

和久井香菜子

少女マンガ攻略・解析室 室長(http://kanako-wakui.net/index/)、編集・ライター。卒業論文で『少女マンガの女性像』と題して、女性の社会進出と少女マンガの主人公の描かれ方がどうリンクしているかを研究。以後、各種少女マンガレビューの執筆を始める。著書に『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)がある。

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