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うそ! 年間5000万以上稼いでいた!? 驚きの高級遊女の稼ぎと支出の実態

堀江 宏樹

着物みなさまごきげんよう、歴史エッセイストの堀江宏樹です。江戸時代初期の江戸の街外れに誕生した、幕府公認の遊郭街・吉原。吉原の中と外界は高い壁と、横幅9メートルの「おおどぶ(幕末には、お歯黒どぶ)」と呼ばれるミゾで囲まれ、完全に隔てられていました。唯一の出口は吉原大門とよばれる出入り口のみ。遊女の足抜け(逃亡)をふせぐために、厳重な管理がなされていたんですねぇ。

そして壁の向こうは、色道(しきどう)……つまりは理想化された恋愛の幻想が極められた、人工的な美の世界でした。格式の高さを重視する、京都・島原の遊郭の太夫たちの場合、彼女たちは少なくとも表向きには、客と寝ることを仕事にはしていません。

一方、吉原の太夫たちは、積極的にその手の下心の見えているお客を取りました。もっとも、吉原の高級遊女だって簡単には客と寝たりしません。すべては客が3度通えたら、の話でした。

客は遊女たちが暮らしている置屋から、揚屋とよばれる宴会場(宿泊施設付き)に大金を払って遊女を呼びます。この時、パレードのような行列が組まれるんですね(※費用は客持ち)。後に、太夫とよばれる格式高い遊女がいなくなると、これは花魁道中(おいらんどうちゅう)と呼ばれるようになります。

さらに芸者や太鼓持ちと呼ばれる男性芸人まで呼んで宴会を「させていただく」んですね。2回目まではそれだけで終わり、です。接客に個人差はあるでしょうが、2度目の面会までは、遊女はほとんど口もきいてくれません。

3度目になって初めて、宴会の後に遊女と客が2人きりになれる時間があります。そこでクールに構えていた遊女はとつぜん情熱的な、つやっぽい表情を見せ、切々とお客に迫ります。その後は床入り(ベッドイン)もある……のですが、太夫など高級遊女の場合、客を彼女が気に入らなければ、3度目自体がありません。金だけ積まれても、簡単には身体を許さないぞ、というのが吉原の上級遊女の心意気だったのです。

こうすると、客側の贈り物攻撃がはじまります。「会っておくれよ~」と、当時、もっとも高価なもののひとつだった布団を贈ったりします。遊女にとって布団は大事な商売道具ですね。

実は布団は、遊女が客を迎えるにあたり、準備すべきものなのです。現在に比して当時は布や綿の値段がべらぼうに高く、さらに高級遊女の布団ともなれば、敷きと掛けの一式で、なんと米俵150俵~300俵が買えるほどだったといいます。

吉原にくる遊女たちは、親や兄弟の借金のカタに売り飛ばされ、地方から江戸にやってきます。その後、色香を磨き、芸事も極め、知識もつけて出世して、太夫の位に上り詰めたところで、それまでの教育費がプラスされるため、借金は雪だるま式に増えてしまいます。絶対に自力で借金を返し、吉原を出ていくことは不可能。

そもそも太夫のような上級遊女ともなれば、客も金持ちなだけでなく、たいそうな数奇者(すきもの)。「色道」を極めるべく、遊女との恋愛遊戯のためなら全て失っても良いという、ある意味パンクな方ばかりでした。そんな彼らと対等に向かい合うには、遊女自身が年間500両以上は稼いで、それを商売道具に必要経費として費やさねばならなかったともいわれるんですね(※江戸初期 1両=10万円ほど)。これは小規模な藩だと御家老様のサラリーと同額。年収300両という中級武士でも、吉原で上級遊女と遊べるのは月に3度が限界。それ以上になると破産してしまったとか。ひえー。

遊女は27~28で引退ですから、そんな若い女性が、各藩の御家老様かそれ以上稼いでいても借金は自力では返せず、現在なら数千万以上の収入のある客でも毎週は遊びには来られない吉原のシステム。「恐ろしい」のひと言です!


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著者:堀江宏樹
角川文庫版「乙女の日本史」を発売中
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※写真と本文は関係ありません

※この記事は2014年10月17日に公開されたものです

堀江 宏樹

プロフィール歴史エッセイスト。古今東西の恋愛史や、貴族文化などに関心が高い。

公式ブログ「橙通信」
http://hirokky.exblog.jp/


角川文庫版『乙女の日本史 文学編』が7月25日、幻冬舎新書として『三大遊郭 江戸吉原・京都島原・大坂新町』が9月30日にそれぞれ発売。

 

その他近刊に『乙女の松下村塾読本 吉田松陰の妹・文と塾生たちの物語』(主婦と生活社)、『女子のためのお江戸案内
恋とおしゃれと生き方と』(廣済堂出版)など。文庫版『乙女の日本史』ともども増刷中。

 

監修として参加の、音楽家バトルファンタジー漫画『第九のマギア』(メディアファクトリー)の第一巻も好評発売中!


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