スマートフォンで、地球の反対側と合奏できるか?
日々進化し続けるスマートフォン。多機能なうえにネットワーク回線も使え、誰とでも通じる便利さが普及の決め手といえよう。
スマートフォンを使って合奏する映像を見かけたが、実現できるのだろうか? もし地球の反対側と合奏するなら、ケーブルで結んでも信号が伝わるのに0.06秒かかるので、一般的なロックなら32分音符1つズレてしまう。
インターネット経由では、データの圧縮やパケット化に時間を要し、8分音符1つ遅れることも当たり前で、聞くに堪えない合奏になってしまいそうだ。
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光速は、意外と低速?
携帯や無線LANは相手と直接通信しているのではなく、サーバやネットワーク機器を介するため遅れが出やすい。そこで原始的に、ケーブルを使った場合をシミュレーションしてみよう。
・電波の速さ(光速) … 秒速30万km
・地球1周 … 4万km
で計算すると、信号が地球の反対側である2万km先に届くには1/15秒、およそ66.7ミリ秒かかることになる。2万kmものケーブルで信号を伝えるには大電力が必要だから、実験するなら感電厳禁だ。
音楽のテンポはbpm(ビート・パー・ミニット)、つまり1分間の拍数で決まる。ロックやポップスでは120bpm前後が多く、4/4拍子の曲なら1分間に4分音符(黒ヌリ・棒に旗なし)が120個で、スネアドラムが毎秒1回鳴る。
これを電気が地球の反対に届くまでの66.7ミリ秒と比較すると、
・4分音符 … 500ミリ秒
・8分音符(棒に旗1つ) … 250ミリ秒
・16分音符(棒に旗2つ) … 125ミリ秒
・32分音符(棒に旗3つ) … 62.5ミリ秒
となり、32分音符を超えるズレが生じてしまう。地球の反対にいるひとが、送られてきた音楽に合わせてもすでに遅れているし、その演奏を発信者に送り戻した場合は、16分音符1つ分も遅れてしまい、エコーがかかった状態になってしまうのだ。
インターネットは遅くて当たり前?
インターネットを経由すると、ズレはさらに大きくなる。音声~データ変換やパケット化に時間を要するからだ。
携帯の通話やIP電話では、まず空気の振動である音声をデータに変換することから始まる。現在主流のデジタル方式では0か1のデータに変換される「コーダ処理」がおこなわれ、処理時間が音声の遅れを生み出している。
代表的なコーダと、必要な時間をあげると、
・ADPCM G.726 … (最良)2.5ミリ秒 / (最悪)10ミリ秒
・MP-ACELP G.723.1 … (最良)5ミリ秒 / (最悪)20ミリ秒
と、変換方法だけで2倍もの差が生じる。その後におこなわれるデータの圧縮では、G.726は時間を要さないが、G.723.1では7.5ミリ秒かかる。この時点で、最良でも12.5ミリ秒、最悪のケースでは27.5ミリ秒もかかってしまうのだ。
圧縮されたデータは、パケットと呼ばれる「かたまり」にされ、順次送り出されるのだが、この際にも時間がかかる。
・ADPCM G.726(32Kbps) … (80バイト)20ミリ秒 / (120バイト)30ミリ秒
・MP-ACELP G.723.1(5.3Kbps) … (20バイト)30ミリ秒 / (60バイト)60ミリ秒
こののちも、順番にパケットを送り出すシリアライゼーション遅延、サーバなどがデータを一時的にため込むバッファリング遅延などが起きるので、ネットワークを経由した音声は「遅れて当たり前」の状態となる。
国際電気通信連合(ITU)が勧告する音声アプリケーションのネットワーク遅延(G.114)では、
・0~150ミリ秒 … 許容範囲
・150~400ミリ秒 … やや難あり(管理者が認識していればOK)
の目安が設けられているが、先のような計算を積み重ねていくと150ミリを超えるケースは少なくない。つまり16分音符1つ分は遅れて当たり前、上限である400ミリ秒=0.4秒は4分音符1つ弱なので、1テンポ遅れてドラムが聞こえることになり、とても演奏とは呼べないレベルになってしまうのだ。
まとめ
・地球の反対側に電気が届くには、0.066秒かかる
・標準的なロックなら、32分音符1つ分遅れる
・インターネット経由では、1拍分ズレても当たり前
発信者の音に合わせて演奏するのは可能だが、第三者が聞いたらアマチュアのバンドよりもヒドいズレになってしまう。
トリックだとわかり少々残念だが、逆に地球の大きさが実感できる実験と言えよう。
(関口 寿/ガリレオワークス)
※この記事は2014年09月25日に公開されたものです