「不調を我慢しないでいい社会」をつくる。漢方のツムラが推進する「#OneMoreChoice プロジェクト」とは?
朝起きた時に感じる倦怠感や通勤時に感じる身体の重さ、仕事中の頭痛……。
「生理前だからかな?」とか「気圧がヤバいのかも」とか、色々と理由を探してみたことがあるのは、私だけではないはず。理由があった方が納得はできるけれど、それでも病気ではないと思い、病院に行くでもなく金曜日までなんとか走りきって、休日は昼まで寝る生活。
この体調不良に名前をつけるとしたら……「なんとなく不調」、そんな言葉がぴったりです。
少しくらい我慢できるからと諦めてがんばっている人も多い一方で「がんばらなきゃいけない世の中を変えたい」と、取り組んでいる会社があります。それが、株式会社ツムラの「#OneMoreChoice プロジェクト」なのです。
不調を我慢しないために「自分の選択肢を増やす」
「誰もが不調を我慢することなく、心地よく健やかに生きられる社会があれば――」
そんな想いで立ち上がった「#OneMoreChoice プロジェクト」。今回はプロジェクトを先導する社員のみなさんに「#OneMoreChoice プロジェクト」立ち上げの経緯でもある「なんとなく不調」を対処するヒントをお伺いしていきます。
――「#OneMoreChoice プロジェクト」立ち上げの経緯を教えてください。
ツムラは主に医療用漢方薬を製造販売する会社です。漢方事業を通し、以前から広報活動の一環として、不調に関する調査を続けてまいりました。調査の結果を見ると、性別問わず不調を抱えながら働いている人が多いという事実が見えてきました。特に女性の方にその割合が高く、かつ心身の不調を我慢して、家事や仕事を続けている人が多いことも明らかになりました。
――本当は休みたくても、「こんなことで休むんだ」と思われたらどうしよう……と考えて頑張ってしまう気持ち、分かる気がします。
それも、ひとつの我慢のかたちですよね。でも、我慢の仕方も人それぞれだし、抱える不調も人それぞれです。一人ひとりが、自分自身に耳を傾け、自分の不調のかたちを知ること。不調を感じた際に隠れ我慢しないための選択肢を増やすこと。そして、隠れ我慢を当事者だけの問題にせず、社会全体として理解し、隠れ我慢させないことも併せて重要だと考えています。それが「#OneMoreChoice プロジェクト」の目的なんです。
――実際どうすれば、自身の不調に耳を傾けることができるのでしょうか。
2021年3月に公開した「隠れ我慢チェッカー」というコンテンツは、SNSを中心に話題を集めました。我慢に隠れている不調は自己判断が難しいので、チェッカーで自身のストレス耐性や隠れ我慢の種類をチェックすることで、まず「自身の隠れ我慢タイプと対処法を知る」ことができます。
――SNSにシェアすることで、自分を知ってもらうきっかけになるし。
まさにそうなんです。自身を知ってもらわないことには、周りに不調を伝えることも難しいです。例えば、生理痛にお悩みを抱えている方も多いですが、痛みの強さも、痛みの種類もそれぞれ違います。だから、2022年には不調による辛さを可視化し、「違いを知ることからはじめよう。#わたしの生理のかたち」というメッセージも発信しました。
生理を経験する人同士でも他人の痛みは分かりませんし、生理を経験しない人からすれば、なおさらですよね。だから、まずはプロジェクトを通じて、自分の不調を知ってもらうこと、そして不調にもいろいろあって、自分とは違う不調を抱える人がいるということを知ってもらえるきっかけを作りたいんです。また、不調による辛さの「かたち」を通して、対話につながることも大切にしました。それが、隠れ我慢の無い社会につながるとも考えています。
不調の多様性を知り、コミュニケーションに活かす
――隠れ我慢チェッカーや不調による辛さの可視化で、生理痛を感じたことがない人や不調があまりない人、自分の我慢に気づかなかった人にも「不調症状の多様性」が伝わりそうですね。実際に自分の不調の種類を知った後は、どのような選択肢が持てるのでしょうか。
私たちは、不調を感じたときの選択肢としては、誰かに相談する、少しだけ働き方を変える、休む、治療をするなど、人それぞれその時々に多様な選択肢があると考えています。
例えば、休むという選択肢に対して、ツムラでは不調症状を感じた際に休暇を取りやすいように、制度を拡充しました。また、「生理休暇」制度はもともとありましたが社内名称を、社員の声をもとに「Femaleケア」に変えました。
ツムラが考える選択肢には、不調を持つその人だけでなく「周りから気遣う」という選択肢もあると考えています。病院に行きづらい、休みづらいと思う人も、周りから「無理をしないで」という一言さえあれば、心の重荷が取れたかのように休みやすくなる場合もあります。なので、コミュニケーションにより、#OneMoreChoice がとりやすくなる場合もあると考えています。「隠れ我慢画」はそんな思いを込めて、更新を続けています。
――そう言われると逆に、日々のちょっとした一言やコミュニケーションから、無理をしようと考える時もある気がしますね。
周りに迷惑をかけるのが嫌だと考える人も多いんです。「大丈夫?」と聞かれると「大丈夫だよ」と反射で返してしまう人もいます。けれど、不調を持つ方には「相手に不調を伝える」という選択肢もあると思っています。
「#OneMoreChoice プロジェクト」の活動を通じて、SNSで「私も周りに不調を伝えてみようと思った」と言ってくださる方もいます。誰もが不調を人に伝えず、自身の中で我慢する社会では、不調は伝えづらくなるばかりです。逆に、不調を周りに伝えてくれる人がいる会社では、周囲の人々も不調が伝えやすくなっていきます。
――なるほど。自分が不調を周囲に伝えることで、周りも不調を伝えやすくなる……みんなのために声をあげようと思えると、最初の一言が言いやすそうですね。
例えばですけど、いつも不調を我慢している先輩や上司の前では、自分の不調も伝えづらくないですか?
我慢を美徳として捉えてきてしまっている人って意外と多いんです。固定観念として「強くないといけないから」などと隠れ我慢に気づかず頑張っている人もいます。今までの当たり前を変えていくためには、性別関わらず社会全体で、我慢に代わる選択肢を提示でき、誰もが選択がとれるようになるとよいのではないでしょうか。
あとは、企業で働く社員の方々の場合は、会社の制度を知ることも選択肢を増やすために大切ですよね。
一人ひとりに見合った「不調に、我慢に代わる選択肢」を
――なんとなく不調を感じたらどうしたらいいのでしょうか?
生理や更年期に関係する症状などでは女性ホルモンが関わっている場合が多いので、婦人科も選択肢の一つになると思います。感じている症状について不安があれば、診察してもらった方が安心できるのではないでしょうか。また、症状を感じた時には、メモを取っておくのもおすすめです。
――最近は大学生対象にも活動を始められましたね。
私たちの調査によると、大学生でも生理・PMSに伴う不調症状を抱えている人が多い一方で、なかなかその症状を相談できないといった現状が明らかになりました。そこで、Carellege Action という取り組みを2023年3月に発表しました。賛同してくださる大学と連携しながら、医師などの専門家に気軽に無料で相談できる機会を提供したり、健康について理解を深めるための「学生向け#OneMoreChoice 研修」を実施していく予定です。
――#OneMoreChoice 研修とはどんな内容ですか?
研修ではライフ、キャリアを考えるときに、ライフステージによる不調も含めて見通しを立てることを伝えています。またそのための、一人ひとりの#OneMoreChoice を考えていきます。
―最後にこの活動を進める皆さんから一言お願いします。
不調症状を感じた際、我慢に代わる選択肢 #OneMoreChoice は一人ひとり、その時々、さまざまです。どのような選択肢であっても、誰もがその選択肢をとれ、提示できる社会にしていきたいと考えています。
#OneMoreChoice プロジェクトは、性別年齢さまざまな人たちで議論しながら進めています。答えは一つではなく、色々な意見を尊重しながら、少しずつ、一人でも多くの方にとって、心地よい社会になるよう、これからも頑張っていきたいです。
(取材・文:ミクニシオリ、撮影:大嶋千尋)