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「アンビバレンス」の心理学的意味とは? 原因や具体例、解消方法も解説

笹氣健治(心理カウンセラー)

「アンビバレンス」とは、相反する感情を同時に抱えている状態を意味します。これが原因で、何かに葛藤している人もいるかもしれません。今回は、アンビバレンスの意味や原因、解消方法について、心理カウンセラーの笹氣健治さんに例を交えつつ解説してもらいます。

「痩せたい。でも、食べたい」

「恋人が欲しい。でも、独りでいたい」

このように、相反する2つの感情を同時に抱えて葛藤した経験を持つ人は多いでしょう。その原因の1つとして、相反する感情を同時に抱く「アンビバレンス」という心理状態があります。

この記事では、アンビバレンスの原因や解消方法について考えてみたいと思います。

「アンビバレンス」な心理状態とは?

アンビバレンスは元々、精神医療の分野で用いられる心理学用語です。日本語では「両面感情」「両面価値」といいます。

今は精神医療の分野だけでなく一般的に使われることも多く、この場合の「アンビバレンス」は「相反する感情が同時に存在する状態」といえるでしょう。

誰もがアンビバレンスな心理状態に陥る、すなわち、相反する2つの感情が生じて葛藤を抱える可能性があります。

そんなアンビバレンスな心理状態は、細かく見ていくと以下の3つのパターンに分けられます。

(1)肯定的な感情と否定的な感情の組み合わせ

まずは、肯定的な感情と否定的な感情が同時に存在するパターンのアンビバレンスについて解説します。

具体例

「好きなのに嫌い」(「好き」という肯定的な感情と「嫌い」という否定的な感情が両方存在する)

「食べたいけど食べたくない」(「食べたい」という肯定的な感情と「食べたくない」という否定的な感情が両方存在する)

これらは一見、矛盾しているように見えますが、よく考えるとそうではありません。

「好きな部分もあれば、嫌いな部分もある」

「食べたい気持ちは強い。でも、食べると太ってしまうから食べたくない」

といったように、肯定と否定の感情を同時に抱く明確な理由があるのです。

この場合は、自分にとって都合が良い方やメリットのある方を選択することで、アンビバレンスを解消できるでしょう。

(2)否定的な感情の組み合わせ

次に、否定的な感情の組み合わせによるアンビバレンスについて解説します。

具体例

「飲み会に行きたくない。でも、行かないと自分の立場が悪くなる」

「今日は会社に行きたくない。でも、行かないと仕事が終わらない」

まさに、「前門の虎、後門の狼」です。どちらを選んでも、自分にとって良いことがないでしょう。

しかし、必ずどちらかを選ばなければならないのだとしたら、どちらがマシなのか考えて、自分にとってダメージが少ない方を選ぶのが得策だといえます。

あるいは、「なるようになれ」と割り切って、自分の気持ちに正直になるのも1つの方法です。

このアンビバレンスを解消するには、「どちらかを選んだ時に訪れるかもしれない最悪の結果」を受け入れる覚悟が必要となります。

(3)肯定的な感情の組み合わせ

最後に、肯定的な感情の組み合わせによるアンビバレンスについて解説します。

具体例

「痩せたい。でも、食べたい」

「恋人が欲しい。でも、独りでいたい」

これは、自分にとって価値があるけれど両立しない2つのものを欲している状態です。

どちらも欲しい。でも、同時に手に入れることは不可能。そのため、どちらを選ぶかなかなか決められず、悶々としてしまいます。

これは、ここまで紹介してきた3つの中で、最も悩ましいアンビバンレスです。

ちなみに、例に挙げた「痩せたい。でも、食べたい」は、前述の「食べたいけど食べたくない」と同じに見えるかもしれませんが、少し違います。

「痩せたい。でも、食べたい」というのは(3)の「肯定的な感情の組み合わせ」にあたり、どちらも自分にとって価値があるけれど両立しない2つの欲求が拮抗している状態です。

一方、「食べたいけど食べたくない」というのは、(1)の「肯定的な感情と否定的な感情の組み合わせ」によるアンビバレンスで、食べたいという感情と食べてはいけないという意識がせめぎ合っている状態です。

とはいえ、実際には、「否定=肯定を別角度で説明したもの」というケースは多く、(1)と(3)がほとんど同じような「両立しない2つの欲求によるアンビバレンス」になるケースがあります。

こういったアンビバレンスは結構やっかいです。そのため、このアンビバレンスについては後ほど詳しく解消方法を説明したいと思います。

日常生活におけるアンビバレンスの具体例

前段の(3)で紹介した、肯定的な感情の組み合わせからくるアンビバレンスについて、シーン別のさらに詳しい具体例を挙げてみます。

あなたにも当てはまるものはあるでしょうか?

仕事におけるアンビバレンス

まずは、仕事におけるアンビバレンスを紹介します。

(1)「この仕事を辞めて楽になりたい。でも、この仕事を続けたい」

毎日忙しくて残業が多かったり、身体的につらい仕事をしていたりすると、「この仕事を辞めて楽になりたい」と思うことがあるかもしれません。

でも仕事自体は嫌いではないし、自分に合っていると思うので、この仕事を続けたい気持ちは強い。

そんな時は、楽になりたい気持ちと仕事を続けたい気持ちの間で、アンビバレンスな状態になる場合があります。

(2)「この会社で働き続けたい。でも、別の会社でも働いてみたい」

給料面や仕事の内容に満足しており、今の会社でこのまま働き続けたい気持ちは揺らがない。

でも、まだ若くていろいろチャレンジできるうちに、自分の幅を広げるために別の会社で働いてみたい気持ちもある。

このように、どちらを選べば自分にとってより良いキャリアを歩めるか判断できず、アンビバレンスに陥る場合があります。

他人から見ればぜいたくな悩みだと思われるかもしれませんが、一度きりの人生だと考えると、本人にとっては大いに迷うところでしょう。

恋愛におけるアンビバレンス

次に、恋愛におけるアンビバレンスを紹介します。

(1)「恋人が欲しい。でも、まだまだ独りでいたい」

恋人がいる友人の話を聞いていると、「自分も恋人が欲しい」という気持ちになることもあるかもしれません。

でも、独りでいれば時間もお金も自由に使えるし、休日は気楽にのんびりすることができる。

それを考えると独りの状態も捨てがたく、「まだまだ独りでいたい」とも思うかもしれません。

「体が2つあったらいいのに」、などと都合の良いことを考えたくなるのは、アンビバレンスに陥っているからだといえます。

(2)「恋人にするなら見た目が好みの人が良い。でも、中身も重視したい」

恋人が欲しいと思っていたとしても、付き合えれば誰でも良いというわけではないでしょう。

「恋人にするなら、やっぱりルックスは気になる」という人もいると思います。とはいえ、外見が好みなだけではダメで、もちろん中身も大事。

ルックスも中身も自分好みの人に巡り合えれば良いのですが、どちらかを優先しなければならないとなると、難しい問題になるかもしれません。

私生活に関するアンビバレンス

最後に、私生活に関するアンビバレンスを紹介します。

(1)「痩せたい。でも、好きなものを好きなだけ食べたい」

「雑誌やテレビ番組で紹介されているような、おいしそうなスイーツを好きなだけ食べたい」「でも、そのためには痩せることを諦めないといけないのだろうか……」

これは、ダイエットをしたいと思っている人にとっては、非常に悩ましいアンビバレンスといえます。

(2)「今度の連休は家でのんびりしたい。でも、旅行もしたい」

1年に何回あるかどうか分からない貴重な連休。せっかくだから、日頃できないことをやりたい。

そう思ってワクワクする反面、「混んでいるところに行って疲れるくらいなら、日々の疲れを癒やすために家でのんびり過ごしたい」という気持ちもあるかもしれません。

限られた時間に、体は1つ。これもまた、悩ましいアンビバレンスだといえるでしょう。

(3)「独りで自由に暮らしていきたい。でも、結婚して家族を持ちたい」

自由を求める気持ちは、自然な感情でしょう。

一方、家族を持ちたい気持ちがある人も少なくないはず。

両方の気持ちがある人は珍しくないのですが、家族を持つと自由が制限される場合もあり、両立が難しいことも多いので少々やっかいです。

しかも、本人に「○歳までに結婚したい」という希望があり、そのタイミングを逃したくないという焦りが働くと、このアンビバレンスはより悩ましいものになる場合があります。

アンビバレンスが生じる原因

ここまでいろいろなアンビバレンスを見てきましたが、なぜこのように「どちらも選べない」といった状況に陥るのでしょうか?

次は、その原因について考えてみましょう。

かなり複雑な原因があるのではないかと思われるかもしれませんが、整理してみると意外にシンプルだということが分かります。

注目すべき点は、アンビバレンスをつくり出している2つの異なる欲求です。

先ほど挙げたケースを使って、具体的に説明します。

「この仕事を辞めて楽になりたい。でも、この仕事を続けたい」というアンビバレンスの場合、背景にあるのは「楽になりたい欲求」と「今の仕事を続けたい欲求」です。

「楽になりたい欲求」は身体的もしくは精神的な欲求であるのに対して、「今の仕事を続けたい欲求」は職業選択に関する欲求ですので、欲求の質が異なります。

つまり、異質な欲求を同列に並べて選択しようとしているために、どちらも選べなくなっているのです。

例えば、「味にこだわらずたくさん食べたいか、少しでも良いからおいしいものを食べたいか」と質問されたら、あなたは何と答えるでしょう?

おそらく、「時と場合による」とか「どちらとも言えない」といった答えになるはずです。

量の問題なのか、味の問題なのか、選択の基準が明確でないと選ぶことはできません。そのため、どちらを選ぶか迷うのは仕方がないことなのです。

このように、本来は比較できない2つのものを比較しようとすると、アンビバレンスに陥ってしまうことがあります。

アンビバレンスな心理状態の解消方法

アンビバレンスの原因が分かれば、それを解消するための方向性も見えてきます。

ポイントは次の2つです。

(1)相反する2つの欲求について、質の違いを理解する

(2)今の自分にとって本当の問題は何かに気づく

先ほど挙げた7つのケースを使って解説していきますので、アンビバレンス解消のコツをつかむヒントにしてください。

仕事におけるアンビバレンスの解消方法

まずは、仕事におけるアンビバレンスの解消方法を解説します。

(1)「この仕事を辞めて楽になりたい。でも、この仕事を続けたい」

このアンビバレンスには、「楽になりたい欲求」と「今の仕事を続けたい欲求」が同時に存在しています。

前者は身体的もしくは精神的な欲求であり、後者は職業選択に関する欲求です。

この場合、自分にとっての本当の問題は「身体的・精神的に楽になることを重視するか、どの職業で働くかを重視するか」にあるといえます。

このように整理すると、問題を解決するにはどうするべきか、冷静に考えやすくなるはずです。

すると、

「この仕事は今の会社でなくてもできるので、今は身体面と精神面を重視して休養することがベターだ」

「仕事量が多いことを会社に相談して今後の方針を聞いた上で、転職するかどうか決めよう」

といったように、現実的で前向きな判断ができるでしょう。

(2)「この会社で働き続けたい。でも、別の会社でも働いてみたい」

この場合、「今の会社で働き続けたい欲求」では給料面や仕事の内容を重視していて、「別の会社でも働いてみたい欲求」では自分の幅を広げることを重視しています。

根底にある問題は、「給料や仕事の内容を取るか、自分の幅を広げることを取るか」です。

ところが、どちらを取っても、うまくいかないリスクはあります。

このような状況でアンビバレンスを解消するには、「自分が今後仕事をする上で何を大切にするか、どのようなキャリアを歩みたいか」というビジョンを明確に持つことがカギとなるでしょう。

恋愛におけるアンビバレンスの解消方法

次に、恋愛におけるアンビバレンスの解消方法を解説します。

(1)「恋人が欲しい。でも、まだまだ独りでいたい」

「恋人が欲しい欲求」で求めているものは、「愛し愛される関係」かもしれませんし、「孤独を埋めてくれる関係」かもしれません。

一方、「まだまだ独りでいたい欲求」では、自由な時間や身軽で気楽な状態などを求めていると考えられます。

どちらもメリットがあることなので、ひとつに絞るのは難しいものです。

それでも選ばなければならないとしたら、今の自分にとって優先順位が高いのは愛し愛される関係と自由のどちらなのかよく考えると、答えがはっきりしてくるはずです。

あるいは、愛情を注ぎ合いながらお互いの自由も大切にできる相手なら問題ないわけですから、そういう人を気長に探し続けてみるのもアリかもしれません。

(2)「恋人にするなら見た目が好みの人が良い。でも、中身も重視したい」

このようなアンビバレンスを抱えている場合、あなたが恋人のルックスを譲れないのはどうしてなのか、まずは考えてみたいところです。

「周りの人からうらやましがられたい」などという恋人の外見への明確な希望があり、それを譲りたくないなら、ルックスを妥協する必要はないかもしれません。

しかし、それほど高望みしているわけではないのなら、ルックスの良し悪しは実際あまり関係ないのではないでしょうか。

むしろ気になるのは、このようなアンビバレンスを抱えることで、現実から目を背けようとしていないか、という点です。

もしかすると、恋人が見つからない不安やお付き合いしてもうまくいかないのではという不安を抱えているのかもしれません。

そして、そこから目を背けるために、恋人を探さない言い訳としてのアンビバレンスを無意識に活用している、という可能性があります。

もしそうだとしたら、本当の課題はもっと別のところにあるかもしれません。例えば、自分に自信がないとか、過去の恋愛における嫌な体験を引きずっている、などが考えられます。

心当たりがあるなら、アンビバレンス解消のためにはそういった課題に向き合う必要があるでしょう。

私生活におけるアンビバレンスの解消方法

最後に、私生活におけるアンビバレンスの解消方法を解説します。

(1)「痩せたい。でも、好きなものを好きなだけ食べたい」

人によって、「痩せたい欲求」はスタイルという見た目の問題だけではなく、自分に自信を持てるかどうかといった自己肯定感につながる重要な意味を持っている場合があります。

「好きなだけ食べたい欲求」は、もし毎日のように強く感じているなら単なる食欲ではなく、何か大きなストレスからきているものかもしれません。

この場合、「痩せたい」という欲求の裏にある自己肯定感の低さや「食べたい」という欲求の原因となるストレスが、解決すべき本当の問題だということになるでしょう。

(2)「今度の連休は家でのんびりしたい。でも、旅行もしたい」

これは、「心身の疲労を回復したい」という生理的欲求と、「楽しいことをしたい」という快楽への欲求がせめぎ合っている状態です。

貴重な連休をどう使うかは、その時のコンディションと相談して決めるのが得策だと考えられます。

疲労の度合いが大きければ静養した方が良いでしょうし、連休以外でも疲労回復のための時間が取れるのであれば、せっかくの機会を普段できないことに使うのも良いでしょう。

このように合理的な判断ができない場合、日常的に大きなストレスを感じているなど、他のことが問題になっているのかもしれません。

例えば、仕事が忙しくてゆっくりもできないし好きなことをする時間もないから、連休にどちらもしたくなり悩んでしまう、といったことが考えられます。

もしそうだとしたら、日頃から自分のストレスや疲労の度合いを意識するようにしてみてください。

そして、適切な方法で回復を図ったり働き方を見直したりすることが、アンビバレンスの解消に役立つでしょう。

(3)「独りで自由に暮らしていきたい。でも、結婚して家族も持ちたい」

「自由を求める欲求」と「家族を持ちたい欲求」という両立が難しいアンビバレンス。これは、今後の人生をどのように生きていくかを決める重要な選択といえるでしょう。

だからこそ、自分の人生についてビジョンを描くことが重要です。

とはいえ、自分が「こうしたい」と決めたからといって、実現できるとは限りません。今後の人生がどうなるかは、人とのご縁や運によって大きく左右される可能性があります。

このような重要な局面では、いろいろな人の生き方を調べたり、経験者から話を聞いたりして、しっかり吟味する必要があるでしょう。

そして、ある程度の方向性を決めたら、後はその時々で起こったことを受け入れて柔軟に対応する、というのが1つの解だといえます。

自分が抱えているアンビバレンスの背景に何か不安や恐れがあるということが分かったら、これを機に向き合ってみると、自分の人生を良い方向に変えるきっかけになるかもしれません。

人生は選択と決断の連続

相反する感情を抱いてしまいどちらを選ぶか迷うのは、的確な選択をして、より良い結果を得たいからだと考えられます。それはとても前向きな態度だといえます。

そして、アンビバレンスには「自分にとって重要な問題だからこそ悩む」という側面もあります。

アンビバレンスに陥った時は、自分の人生にとって何が重要なのかを見つめ直す良い機会なのかもしれません。

人生は選択と決断の連続です。悔いの残らない人生を送れるように、ぜひいっぱい迷って納得のいく決断をしてください。

(笹氣健治)

※画像はイメージです

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