「してください」は正しい敬語? 上司、目上の人への使い方
ビジネスでは社内外問わず「○○してください」と誰かにお願いするシーンが多いもの。さて、この「してください」という表現は正しい敬語なのでしょうか? 今回は、コミュニケーションアドバイザーの松岡友子さんに、「してください」の正しい使い方を解説してもらいます。
ビジネスは、お願いする、お願いされるという関係性の中で成り立つものです。特に若い時には目上の方に多くのことをお願いし、教えを乞う場面も多いはずです。
そのような時に、少しでも印象良くお願いをしたいですよね。そうすれば、相手にも快諾していただくことができ、その後の信頼関係もうまく行くはずです。
今回は、「してください」と、相手に何かをお願いする時の丁寧な表現について考えます。
「してください」は敬語? 目上の人にも使える?
例えば、「話す」の命令形は「話せ」です。「話せ」に比べたら「話してください」は丁寧で、命令の言葉には聞こえないかもしれません。
しかし「してください」を目上の人に使うには少し注意が必要です。
「してください」には命令のニュアンスがある
広辞苑第7版には「ください」は「くださる」の命令形、「くだされ」の口語形と書かれています。
文法的に、「くださる」は動作を受ける側が敬意を表す言葉ですが、「ください」はその「命令形」なのですから、少し上から目線的なお願いの仕方ということになります。
「してください」が使えるシーンも
では、「してください」を使える場面が全くないかというと、そうとも限りません。強制的にでも相手にしてもらわなければいけないことをお願いする場合は、この表現が役立ちます。
例えば、病院で入院や手術をする際、承諾書にサインをもらわなければならない場合などがこれにあたるでしょう。
一刻の猶予を争う場面かもしれません。拒否されては患者も家族も病院も困るのですから、
・入院についての説明書をよく読んでください。
・こちらの書類に直筆でお名前を書いてください。
とお願いすることも可能でしょう。ビジネスなどでも、上記に該当するようなシーンでは「してください」という表現が役に立つ場合があります。
「してください」の間違った使い方
ここ数年「してください」の間違った使い方をよく耳にするようになりました。例えば、以下のような例です。
・契約書の内容をご確認してください。
・住所をご記入してください。
これを正しい言い方に直すと、それぞれ以下のようになります。
・契約書の内容を確認してください。
・住所を記入してください。
または、
・契約書の内容をご確認ください。
・住所をご記入ください。
つまり「ご」と「してください」を併用するのはこの場合間違いであり、「○○してください」のようにシンプルにお願いするのが正しい用法なのです。
「ご(お)○○してください」は基本的に誤用
なぜ「ご(お)○○してください」が、この場合間違いになるのでしょうか。
「ご(お)○○して」の原型は「ご(お)○○する」です。例えば、「ご連絡する」「お聞きする」など。これらは謙譲語、つまり自分が行う動作の敬語です。
例文に挙げた「契約書の内容を確認する」「住所を記入する」のは、全て私ではなく「相手」です。私(もしくは私たち)以外は、謙譲語の主語にはなり得ません。ですから「確認してください」「ご記入ください」というシンプルな表現にする必要があります。
シンプルだと敬意が足りないのではないかと不安になって、敬語表現を盛ることで間違えてしまわないようにしてください。
例外的に「ご(お)○○してください」が使える場面も
ですが、実は例外的に「ご(お)○○してください」が使える場面があります。
これは、第三者が関係する場面です。
例えば、お客様Aさんが来社された時、Bさんにご案内をお願いする場面では、「Bさん、A様を応接室へご案内してください」という使い方は間違いではありません。
もっと丁寧に表現すると「ご○○していただけますか」という言い方も可能です。「ご案内して」はAさんに対する敬語表現、「ください」はBさんに対する敬語表現という、二方向への敬意を表しているので、大変複雑で難しいのです。
「してください」の正しい敬語表現
「してください」を分解すると「して+ください」となります。
「して」の敬語表現は尊敬語の「なさって」ですので、「してください」を「なさってください」と敬意を上げて表現することが可能です。(「して」を「されて」という敬語表現にして「されてください」とするのも間違いではありませんが、「なさってください」の方が一般的です)。
「なさってください」を使った例文
例文としては、以下のように使います。
・退院されたばかりと聞きました。お大事になさってください。
・短い時間ですが、どうぞゆっくりなさってください。
・ご不明点がございましたら、いつでも担当者に質問なさってください。
【否定形であれば】
・当日は荒天が予想されています。くれぐれもご無理なさらないでください。
「してください」の言い換え表現
では、「してください」と相手にお願いしたい時、「なさってください」以外にどのような言葉を使うのが適切なのでしょうか? 「してください」を言い換える表現をいくつか挙げてみましょう。
(1)お願いいたします
何かをお願いする場合、シンプルに「お願いいたします」と願い出る表現が便利です。
これにクッション言葉を添えて丁寧に表現することで、どんな相手にも使える敬語表現になります。
例文
申し訳ございませんが、何卒ご理解いただきたくお願いいたします。
(2)○○していただけますか
「していただけますか」のような表現で依頼するのも好印象です。「いただけますでしょうか」とするとより柔らかい印象になりますので、上司やお客様に対して使っても問題ないでしょう。
例文
・恐れ入りますが、10日までにご返答いただけますか。
・次回は10日にご来社いただけますでしょうか。
この依頼形の表現を口頭ではなくメールなどの文章で行う場合、語尾に「?」をつけないように注意しましょう。
「?」や「!」をつけると、軽い印象を与える可能性があります。改まったメールでは「○○いただけますでしょうか?」などと安易に「?」を使わない方が良いでしょう。
(3)○○していただけると幸いです
「○○していただけると幸いです」のように、「承諾してくれるとありがたい」というニュアンスで伝えるのも効果的です。
例文
・ご検討いただけますと幸いです(でございます)。
・ぜひともご参加いただければ幸甚に存じます。
「してください」を英語で言うと?
「してください」というような依頼を表す英文としては「Please~」を使うのが一般的です。より丁寧さを表現するなら「Would you please~」を使うのが良いでしょう。
例文
Would you please reply by Friday ?
(金曜日までに返信をいただけますか?)
何かを依頼する時は2回のお礼で信頼関係を築く
お願いすることにばかり意識がいってしまい、お礼がおろそかになってしまっては何にもなりません。
お願いを快諾いただいたことに対するお礼はもちろんのこと、一連のプロジェクトが終了した時に「お力添えがあったからこそ成功しました」と、成果と共に伝えるお礼も忘れてはなりません。
「してください」と何かをお願いする時、この「2回のお礼」をすることこそが、次につながる信頼関係となるのです。
(松岡友子)
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