「逃げたい」と感じる心理と対処法8つ
仕事でミスをした、仕事が間に合わない、疲れた……。人生、時には「逃げたい」と思うこともありますよね。今回は心理カウンセラーの笹氣健治さんに、「逃げたい」と思う心理や対処法について解説してもらいます。
仕事をしていて「逃げたい」と思ったことはありませんか?
「つらくて逃げたい」と思いつつ、「周りに迷惑がかかる」「自分の弱さを認めたくない」と考えて、我慢し続けてしまう人も多いかもしれません。
しかし、逃げることは本当に良くないことなのでしょうか? それとも、つらい時は逃げても良いのでしょうか? 「逃げたい」という気持ちとの向き合い方を考えてみましょう。
「逃げたい」と感じるきっかけ
まずは、どういう時に「逃げたい」と思うのか、よくあるケースを挙げてみましょう。
「自分でも甘えているんじゃないかと思う」「ちょっと現実逃避したいだけ」「覚悟を決めてやるしかない」など、本当は自分自身で解決策が分かっているようなものから、「どうして良いか分からない」と悩みそうなレベルのものまで5つ選んでみました。
逃げたい気持ちになる時、どんな思考や感情が生じているのかに注目しながら読んでみてください。
(1)致命的なミスをした
仕事にミスはつきもの。新人だってベテランだってミスする時はミスします。
大抵の場合、ミスをして多少へこむことがあったとしても、少し時間が経てば「次は気をつけよう」と気持ちを切り替えることができます。
しかし、致命的で大きなミスをした時は、なかなかそうもいかないかもしれません。
「やばい、やばい、やばい、やばい」と頭がパニックになって、心臓もバクバク、ただオロオロするばかりで、今後どうするべきかを冷静に考えられなくなることもあるでしょう。
「ミスによって迷惑をかけてしまう相手に早く報告しなければならない」と分かっていても、何を言われるか怖くて行動を起こせない。
誰かに相談するのも気が引けて、「どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう」と思考停止状態に。
大きな問題につながりそうな重圧に耐え切れなくなり、心の中は「逃げ出したい」という気持ちでいっぱいになります。
(2)仕事が多すぎる
退職者が多くて人手不足になった職場。仕事量に対して社員数が足りていない職場。月末などの締め切り前に仕事が集中する職場。
このような職場で働いていると、「どう考えてもこなせない」「やってもやっても終わらない」といった状況に陥ることがあります。
毎日終電で帰るのは当たり前。会社に泊まり込むこともあり、休日出勤をしても仕事が終わらず、身体はヘトヘト。
最悪の場合、「なぜか自分1人だけが大量の仕事を割り振られている」なんてことも。
そんな中、強い責任感で何とか頑張っていても、心や身体に疲労が蓄積していくと「もうこれ以上は無理だ」と限界を感じ、「もう辞めたい」と思って逃げたくなることがあります。
(3)人間関係でトラブルが起きた
退職理由として職場の人間関係を挙げる人は多いですが、人間関係がつらいこともまた、「逃げたい」と思う大きな理由の1つになります。
特に、なぜか自分にだけ意地悪な態度で接してくる人がいたりすると最悪です。
他にも人間関係がつらいケースとして、性格的に苦手な人や、一緒にいてピリピリした空気になる人と働かなければならない場合などがあります。
最初は出社する時に気が重くなるのを何とか我慢できていても、トラブルがなかなか解消されないと「もう耐えられない、逃げたい」という気持ちになってしまいます。
このように、会社にいる間は全く気が休まらず、仕事終わりにどっと疲れが出てくるような毎日が続いたら、「こんな職場は嫌だ」と辞めたくなることもあるでしょう。
(4)理不尽なダメ出しをされた
仕事を一生懸命やっていても、相手が求めるクオリティに達していなければ、ダメ出しされることもあります。
その時は、どこがダメだったのかを確認して次に生かせば良いだけで、人はそうやってレベルアップしていくものです。
ところが、時に理不尽なダメ出しをされることもあります。
どう考えても納得できず、周りの意見を聞いても自分に悪い部分が見当たらない。相手に直接どこが悪いか尋ねても、「自分で考えろ」と突き放される。こちらの言い分を全く聞かず、「とにかくダメなものはダメ」と否定だけを繰り返される。
こういうことが続くとプライドが傷ついてしまい、「もうこの人とは関わりたくない」という気持ちになったりします。
他には、人前であるにもかかわらず大声で怒られた時なども、恥ずかしさと理不尽さに耐えきれず「ここから逃げ出したい」という気持ちになることがあります。
(5)クレーマーに対応しなければいけなくなった
「自分は客なんだからお前は言うことを聞け」、といったような横暴で自己中心的なクレーマーにつかまってしまうと大変です。
「あなただけを特別扱いすることはできない」と、いくら説明しても聞く耳を持たず、自分の要求をゴリ押ししてくる態度にうんざり。
気に入らないなら他に行けば良いのに、なぜかしつこく絡んでくる。あるいは、とても威圧的で、弁が立つクレーマーもやっかいです。
クレームを持ち帰って社内で検討することになっても、「あのクレーマーとまた話さなきゃいけない」と思うと逃げ出したくなります。
話が通じない。常識が通じない。自分勝手で威圧的。こういう人が相手だと、「誰か代わってほしい」と逃げたくなるのは当然だといえるでしょう。
「逃げたい」という心理を生み出す3つの危機
「逃げる」という言葉に対してネガティブなイメージを持つ人は多いかもしれませんが、実は、全くそんなことはありません。
逃げるのは自分を守るための1つの手段であり、生き残るために必要なことも多いからです。
自分の身に何らかの危機が迫っていると感じて、その状況から避難しようとしているわけですから、「逃げたい」と思うのはむしろ身を守ろうとする積極的な気持ちだといっても良いでしょう。
では、「逃げたい」と感じた時、あなたの身にはどのような危機が迫っているのでしょうか?
危機には、「身体的な危機」と「精神的な危機」があります。「精神的な危機」は、さらに「他人との関係性の危機(=人間関係の危機)」と「自分の尊厳に関する危機(=自己尊厳の危機)」に分けられます。
つまり、「逃げたい」という気持ちを呼び起こす危機は「身体的な危機」「人間関係の危機」「自己尊厳の危機」の3つに分類できます。
先ほど挙げた「逃げたいと思うきっかけ」の5つのケースにもこれらが当てはまります。それでは、それぞれどのような点で危機といえるのか、1つずつ説明していきます。
(1)身体的な危機
過剰な残業や休日出勤による長時間労働は、慢性的なストレス状態を生みます。そして、ストレス状態が続くと心身の健康に悪影響をもたらします。
そこで脳は、強い長期のストレスを感じると気分を落ち込ませて行動を抑制し、私たちを危険な状況から遠ざけようとします。
つまり、あまりにも仕事が忙しい時に「逃げたい」と思うのは、長時間労働によって心身に疲労が蓄積する危機から自分の身を守ろうとする本能的な反応だといえるのです。
(2)人間関係の危機
私たちが生きていくには、周囲の人との良好なつながりが必要不可欠です。
周囲から孤立している状態や、身近に脅威となる人がいる状態は、自分にとって危険な環境に身を置いていることになります。
意地悪をされたり、一緒にいて気が休まらない人がいたりする職場は、いわば危険がいっぱいの場所。
そこから「逃げたい」と思うのは、身の安全を確保するためにも、自然なことだといえます。
致命的なミスをした時に逃げ出したくなるのも、自分の立場が悪くなって居場所がなくなることを恐れるからであり、身の危険を感じているということになります。
人とのつながりや自分の居場所がなくなる人間関係の危機は、私たち人間にとっては避けたいものなのです。
(3)自己尊厳の危機
人は自分の尊厳をとても大切にします。
これは極端ですが、「自分の尊厳を守るためには死んでも構わない」と考える人もいるくらいです。
人は誰もが尊重されるべき存在です。そのため、本来は他人を見下したり軽んじたりすることは許されないはずです。
しかし、人は自分を一番大事にする傾向があるゆえに、知らず知らずのうちに他人の尊厳を傷つけてしまうことがあります。
相手の人格を無視して批判する。意見に耳を貸さず有無を言わせず否定する。自分の都合ばかり押しつけて相手の立場を理解しようとしない。
こういったことをされると尊厳が傷つけられ、まるで自分には存在価値がないかのように感じて精神的にダメージを受けてしまうことがあります。
これが、自己尊厳が脅かされる危機的状況であり、そんな時、自分自身の存在を守るために「逃げたい」と思ってしまうのです。
逃げたい気持ちへの対処法8つ
「逃げたい」と思う原因として3つの危機があると説明しましたが、対処法もそれぞれの危機によって異なります。
そこで、それぞれの危機に分けて対処法を説明していきます。
(1)身体的な危機による逃げたい気持ちへの対処法
何といっても、慢性的なストレス状態を解消するのが先決です。
そのためにはとにかく、毎日しっかり休息をとること。できれば残業や休日出勤は当面しないようにして、心身の回復を目指したいものです。
そのためには、会社や上司、同僚の理解と協力を得る必要がありますが、これが一番の難関になる場合もあり得ます。
「疲れているのはお前だけじゃない」とか「みんなつらい中で頑張っているんだから、もう少し頑張れ」と言われてしまうような職場であれば、気力と体力が少しでも残っているうちに本当に逃げ出す準備をすることも視野に入れる必要があるかもしれません。
もし転職することに抵抗やためらいを感じるのであれば、メリット・デメリット分析がおすすめです。
「このまま今の仕事を続けるメリット・デメリット」「転職活動をするメリット・デメリット」をそれぞれ考えてみるのです。
考えた内容を全て紙に書き出して眺めてみると、どちらを選択するにしても一長一短があることが分かります。それらを把握した上で、総合的にどちらが良いのか、納得がいく方に決めましょう。
一度きりの自分の人生なのですから、誰にも遠慮する必要はないはずです。
(2)人間関係の危機による逃げたい気持ちへの対処法
人間関係の危機によって「逃げたい」と感じた時は、以下の方法を試してみてください。
誰かに話を聞いてもらう
人間関係の危機を救うのもまた人間関係です。
自分が置かれている状況にじっくり耳を傾けてくれる同僚、友人、家族などに、今感じていることや思っていることを正直に全て話してみましょう。
肝心なのは、とにかく1人で抱え込まないこと。親身になって聞いてくれる人の存在は、自分の心に安らぎと元気と勇気を与えてくれるはずです。
ちなみに、あなたの考えを無視して正論を押しつけてくる人や、過剰な叱咤激励・批判をしてくる人は、相談相手として向いていないといえます。かえって精神的に追い込まれてしまうかもしれません。
ミスした時は事実を紙に書き出す
仕事のミスはチームで対応するのが組織の基本です。
周囲の人にサポートをお願いする場合には、状況を詳しく説明する必要が出てきます。その準備として、ミスが起きた状況を時系列に沿って紙に書き留めると、伝えやすくなります。
この際、言い訳や反省などの主観は入れず、事実のみを並べましょう。
また、そうやって事実を紙にまとめてみるとパニックで思考停止状態だった頭が冷静さを取り戻して、自分1人でも善後策を思いついたりできるかもしれません。
苦手な人との関わり方を変える
意地悪な人や苦手な人との人間関係は、無理に解決しようとせず、「顔を合わせる時だけの辛抱だ」と割り切るのも1つの考え方です。
今後何十年も一緒にいるわけでないなら、そのように割り切ることで、顔を合わせていない時間にうまく気分転換を図りながら耐えることもできるかもしれません。
あるいは、もし余裕があれば意地悪な人や苦手な人とうまくコミュニケーションする方法を、本やセミナーで学んで試してみるのも良いかもしれません。
そういう人が相手でもうまく対応できるようになったら、将来きっと何かの役に立つでしょう。
(3)自己尊厳の危機による逃げたい気持ちへの対処法
最後に、自己尊厳の危機で「逃げたい」と感じている時の対処法を紹介します。
本当に悩む必要があるのか考える
まずは、傷ついた心を癒すことが必要となります。そこでぜひ考えてみてほしいのが、「本来、悩むべきなのは誰か?」です。
良識ある大人であれば、他人を傷つけるような配慮のない行為はしないものです。
配慮のない人のためにあなたが悩むのは全くおかしな話であり、他人を傷つけている当人こそ、自分の問題点に気づいて悩むべきではないでしょうか?
こう考えれば、少し気持ちが楽になる気がしませんか?
つらい気持ちを吐き出す
自分のつらい気持ちを誰かに聞いてもらうのも有効です。
人には言いづらいこともあるかもしれませんが、自分1人の中でため込まずに吐き出してみると、気持ちがすっきりして心が軽く感じられるようになったりします。
逃げたい気持ちに対処するには、思い切って素直に気持ちを吐き出すことも大切です。
尊厳を傷つけてくる人の言葉は軽く受け流す
ここからは、直面している問題にどう対処していけば良いかを考えましょう。
まず、一方的に批判や否定をしてくる人に対しては、なるべく気にしないようにして受け流すのも1つの方法です。
「よく分からないけど、この人はそういうふうに考えたんだな。考え方は人それぞれだから仕方ない」といったように、その人の発言内容を深く捉えすぎず、「人は人、自分は自分」と考えるのも役に立つかもしれません。
そうやって嵐が過ぎるのを待っていれば、いつかそのうち状況が変わってくるものです。
コミュニケーションスキルを学ぶきっかけにする
批判・否定をしてくる人や、やっかいなクレーマーへは、適切なテクニックを身につけることで対処できることもあります。
つらい体験をバネにして気難しい相手に対するコミュニケーション方法を学ぶのも、スキルアップのためには良いかもしれません。
もちろん、つらい時に無理をする必要はありません。ここまで紹介してきた他の対処法を試して気持ちに余裕が出てきたら、プラスアルファで取り組むことも検討してみましょう。
逃げるのは悪いことではない
人生には楽しいこともあれば、つらいこともあります。時には耐えきれないくらい、つらい試練がやってくることもあるでしょう。
そんな時、逃げる決断をすることは、悪いことではありません。今の自分には限界だと思ったら、どうぞ遠慮なく逃げてほしいと思います。
生きてさえいれば、必ず次があります。とにかく、将来のために生き延びることが、とても重要なのですから。
(笹氣健治)
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