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「お越しになる」の意味は? 「いらっしゃる」との違い、類語を解説

前田めぐる(ライティングコーチ・文章術講師)

ビジネスの場でよく使う「お越しになる」という言葉。「いらっしゃる」など似た意味の敬語も多いですが、意味はどう違うのでしょうか? 今回は、ライティングコーチの前田めぐるさんに、「お越しになる」の使い方を例文や類語とともに解説してもらいます。

「お越しになる」という言葉は、ビジネス、プライベート両方でごく日常的に使われる言葉です。ほとんどの人が「誰かが来る時によく使う言葉だな」とすぐにピンとくるでしょう。

「誰に対してどんな時に使えるのか?」「『来る』の尊敬語以外の意味があるのか?」など、よく使う言葉だからこその疑問も浮かぶのではないでしょうか。

この機会に改めて正確な意味と用法を把握し、スムーズなコミュニケーションに役立てましょう。

「お越しになる」の意味

「お越しになる」の意味を把握するために、まず「越す」の意味を確認してみましょう。

「越す」という言葉について、辞書には次のように書かれています。

こす【越す】

(一)境界などを越えて進む意。
(1)行く。来る。去る。
(2)引っ越す。移転する。

(二)障害や限界をなすものなどをのりこえる意。
(※以下略)

(『広辞苑 第七版』岩波書店)

辞書によれば、「越す」は「行く」「来る」という意味です。

山や谷、川、県や地域の境などの境界を越えることから、「わざわざ行く・来る」という意味を含んでおり、「赴く」「足を運ぶ」というニュアンスに近い言葉といえるでしょう。

また、「お〜になる」は「お+動詞の連用形+になる」で、尊敬語を作るための形です。

「お越しになる」は、「越す」の連用形「越し」に「お〜になる」を加えて尊敬語にしたもの。

来てくれる相手や、どこかに行く相手に対して、敬意や尊重の気持ちを表すことができます。

「お越しになる」はどういう時に使う?(例文つき)

「お越しになる」という言葉は、目上の相手がどこかに行く場合や、こちらに来る場合に使えます。

「来る」「行く」それぞれについて、例文を紹介します。

来客の予定を社内で伝える時

来客の予定を社内に伝える場合、以下のように表現できます。

例文

・本日13時に、○○社の○○部長がお越しになります

取引先に来社の予定を尋ねる時

取引先に「来るか」と確認したい場合、以下のように表現できます。

例文

・近々、弊社にお越しになる予定はおありでしょうか?

来店の人数をお客さまに尋ねる時

お客様に「何人で来るか」と確認したい場合も、「お越しになる」が使えます。

例文

・何名さまでお越しになりますか?

相手の予定について話す時

相手が「来る」「行く」ことは、下記のように表現できます。

例文

・先生のお宅へお越しになるのは明日でしたよね

どこかに行ったことがあるかどうか相手に尋ねる時

「行ったことがある」も「お越しになる」を使って丁寧に表現することができます。

例文

・北海道にお越しになったことはおありですか?

どこに行くのかを相手に尋ねる時

「相手がどこかへ行くこと」は下記のように表現できます。

例文

・どちらへお越しになるのですか?

「お越しになる」を使う時の注意点

ビジネスでもよく使われる「お越しになる」。無意識に間違った使い方をしていませんか? この機会に正しい使い方を確認しておきましょう。

「お越しになられる」は二重敬語

「お越しになる」は、すでに「来る」の尊敬語です。

そのため、さらに尊敬の助動詞「られる」を加えて「お越しになられる」とすることは、二重敬語になり、過剰な表現です。

「お越しになる」だけで十分です。

「お越しできますか?」という表現は誤り

相手に対して「行く(来る)ことができるか」と敬語で尋ねたい場合、「お越しできますか」などと言うのは間違いです。

まず「行く」「来る」の動詞の部分を「お越しになる」と尊敬語にし、その上で可能の表現を加えます。

「れる」「られる」のどちらを使うか迷った場合には、その動詞の活用で判断します。

・五段活用の動詞には「れる」を加える

・上一段活用、下一段活用、カ行変格活用の動詞には「られる」を加える

「越す」は五段活用の動詞なので、可能の意味を表す場合には、「れる」を足します。

例えば「明日10時に来ることが可能か?」を敬語で尋ねると、「明日、10時にお越しになれますか?」が正しい表現です。

「お越しになる」と「いらっしゃる」の違いは?

「行く」「来る」という意味で、「いらっしゃる」もよく使われます。

「お越しになる」と「いらっしゃる」の意味に違いはあるのでしょうか? 使い分けとともに解説します。

「いらっしゃる」の意味

「お客さまがいらっしゃいました」「明日の展示会はいらっしゃいますか?」など、「いらっしゃる」は、書きやすく、言いやすい敬語です。

「いらっしゃる」は「お越しになる」と同様、「行く」「来る」の尊敬語です。

ただし「いらっしゃる」の方は、さらに意味が広く「居る」「在る」の尊敬語でもあります

例えば、在社かどうかを尋ねる時にも、「明日、○○様はいらっしゃいますか?」のように使えます。

また、その人の職業や状態を示す時にも「○○さんはデザイナーでいらっしゃいます」「○○さんはお元気でいらっしゃいますか?」などのようにも使えます。

「お越しになる」と「いらっしゃる」の使い分け

先ほど、「いらっしゃる」には「行く」「来る」だけでなく「居る」「在る」の意味もあると説明しました。

例として、取引先の課長が展示会に来られるかどうかを、その部下である相手に尋ねる場面を考えてみましょう。

あなたが「来社されるか」という意味で、相手に「明日課長はいらっしゃいますか?」と尋ねたとします。

この場合、相手には「明日課長は在社されていますか?」という意味に受け止められる可能性あります。

そして「課長が在社かどうか」について聞かれたと思った相手が「(弊社に)おります」という意味で「はい」と答えた場合、どうなるでしょうか?

「課長が来られるか」という意味で質問したあなたは、「課長が我が社の展示会に来てくださる」という意味に受け取ってしまいます。全く逆の意味になってしまいますね。

こうした行き違いを防ぐ意味でも、ビジネスでの約束をしっかり確認する時には、「お越しになる」を使う方が良いでしょう。

「お越しになる」と「お越しいただく」の違いは?

「お越しになる」と「お越しいただく」は、どちらも相手への敬意を示す言葉です。よく似た言葉ですが、どこがどう違うのでしょうか?

「お越しになる」は尊敬語で、「お越しいただく」は謙譲語です。尊敬語と謙譲語の違いとして、「相手が来る」という場面で考えた場合、次のような違いがあります。

・「お越しになる」→尊敬語。「(相手が)来る」という意味

・「お越しいただく」→謙譲語。「(自分の元へ)来てもらう」という意味

相手の受け止め方にもよるため一概には言えませんが、後者の「お越しいただく」は相手に「来ていただく」ことにより、自分が恩恵を受ける場合に使うと考えられます。

「お越しになる」が、ストレートに相手が「来る」ことを示すのに対し、「お越しいただく」は「来ていただいてありがたい」というニュアンスを感じさせる、というわけです。

例文

A.「本日午後3時、F店の専務がお越しになります

B.「本日午後3時、F社の専務にお越しいただきます

Aは、「専務が来る」ことをそのまま尊敬表現にしたものです。

一方、Bの方は「ただ来てもらう」だけでなく、「何らかの意図があって、来ていただく」ように受け止められることがあります。

もちろん、敬意を示して立てるべき相手はどちらも「専務」であり、敬語として間違いはありませんが、ストレートに来社の予定だけを告げるなら「お越しになる」の方が無難です。

「お越しになる」の類語(例文つき)

ここからは「お越しになる」の類語を紹介します。

「お越しくださる」

「来る」の尊敬語で、「お越しになる」と同じ意味です。

例文

準備がありますので、なるべく早めにお越しくださると助かります。

「来られる」

「来る」の尊敬語で、「お越しになる」と同じ意味です。

例文

・そんなに早く来られたのですか?

「見える」

「来る」の尊敬語です。

例文

・取材の方が見えました

「お見えになる」

前出の「見える」だけで尊敬表現として成り立つので、「お見えになる」は本来二重敬語です。ただし、慣用的に許容されており、よく使われています。

例文

・お客様がお見えになりました

「いらっしゃる」

「居る」「在る」「来る」「行く」の尊敬語。

例文

・○○さんが明日弊社にいらっしゃる際に、お渡ししたいものがございます。

「おいでになる」

「おいで」は「出る」「行く」「来る」「居る」の尊敬語です。

例文

・退社後、先輩にお目にかかりたいのですが、どちらにおいでになりますか

「お運びになる」

「来る」の尊敬語です。

例文

・ぜひ、弊社の催事にもお運びになってください。

「お越しになる」はビジネスシーンで最もよく使う言葉

「お越しになる」のように「行く」「来る」という意味が含まれている表現は、日程を組む場合にビジネスシーンでよく使われます。

また、意味のところで述べたように「わざわざ」というニュアンスが含まれるので、来てくれる相手を尊重する気持ちもさりげなく伝えたい場合に適しています。

頻出ワードだからこそ、意味を正しく理解して効果的に使いこなしたいですね。

(前田めぐる)

※画像はイメージです

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