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【File15】“大人の男性”へ憧れを抱き過ぎた恋

#イタい恋ログ

神崎メリ

今振り返れば「イタいな、自分!」と思うけれど、あの時は全力だった恋愛。そんな“イタい恋の思い出”は誰にでもあるものですよね。今では恋の達人である恋愛コラムニストに過去のイタい恋を振り返ってもらい、そこから得た教訓を紹介してもらう連載です。今回は神崎メリさんのイタい恋。

199X年。
私は日本の端っこにある南の島で高校生活を送っていた。

安室ちゃんや華原のともちゃん、DA PUMPに日本中の女子高生が熱狂していたあの夏。キャミソールにゆるめのデニムでストリートファッションをキメた私の気分は、間違いなくSPEEDもどきだった。

「はい、あんたも写真に落書きして」「Forever friends……。ハイビスカスも描く?」

ポスカをカシャカシャと振りながらせっせと写真に落書きをしていると、その時一緒にいた友達のカズヨ(仮)に同級生のテツジ(仮)から電話がきた。

「うちのホテルにバイトで来てる大学生とこれから一緒に遊ばない? どうせメリと一緒にヒマしてんでしょ?」

テツジの親は島で大きなホテルを経営していて、夏になると島の外から大学生を住み込みバイトとして雇っていた。

え? これって本州の男性と知り合うチャンス⁉ (ごくり)。

カズヨの部屋の壁一面には、eggやストニューの切り抜きがコラージュしてあった。キムタクそっくりのスーパー高校生が特にお気に入りらしい。

きっとこういう人たちは島の男性とは違って、スマートにエスコートしてくれるのだろう。うちらも卒業したら上京するし、今からでも本州の大人な男性に慣れておかんと……(にやり)。

私は壁を見ながらカズヨに指でOKサインを出した。

「テツジ、何時にホテル行けばいい?」
「俺らホテル前の海岸いるから適当に来て〜。じゃ、また」

199X年! 世紀末のご到来、アバンチュールの匂いがしてきたぜ!

「カズヨ、ワキシュー貸して! あと化粧品も」
「ちょっとシャワー浴びてくるから、適当に借りといて」

憧れの「本州の大学生」との出会いに向けて、私たちは爆速で準備をしたのであった。

どストライクのイケメン降臨!

ホテル前の海岸に原付で乗り付けると、テツジはマリングッズの片付けをしていた。

その刹那。
さらっさらのロン毛をなびかせながら、彼は振り返った。
海んちゅ育ちなら分かる、丘サーファーなんかじゃない、本物の潮焼けした茶髪だ。

切れ長の瞳、高い鼻、さっぱりと整った顔立ち。(今なら韓流の塩顔イケメンとでも言ったところだろうか……)引き締まった肉体は真っ黒に焼けている。

あの頃は濃い顔をした男性がイケメンともてはやされて大ブームだったけど、島んちゅの私たちからしたら、濃い顔をした男なんてもう心底飽き飽き!!!

顔が薄い男性(女性)はそれだけで、島では強烈なモテアドバンテージを放っていた。

いっ
いっ
いっ
イケメンじゃーん!
(大感動&興奮! しかし悟られるなポーカーフェイス死守!)

「あ、ケイです……」彼は控えめな佇まいで頭をぺこりと下げた。
「メリです♡」あぁ、ここぞのキメ顔だ。

「お! 女の子来たんけぇ! でかしたぞテツジ! ささ、暑いからコテージ行くけぇのぉ」
「メリーちゃんと、君は?」
「カズヨです!!!」
「ワシ、ヒロミチ。ヒロ兄って呼んでぇ♡」

カズヨはというと、チャラそうなオーラと先輩風を吹かすその男性にすっかり瞳がハートマークだった。

コテージの中では紅茶花伝を片手に、ケイ君と好きな歌手なんかについて話をした。
「ケイ君、誰の曲聞くん?」
「GLAYば聞くよ」
「え〜意外! DA PUMPとかそっち系かと思ったよ!」
「俺、中学までギターやっとったんだ! 今は波専門ばってん(笑)」
「ケイ君、どこの人なの?」
「福岡! でもいい波乗りたかけん、宮崎の大学にしたっちゃんね」

これはこれは、イケメンタイコじゃありませんの〜(謎)。私はケイ君の話に夢中なフリをしながら、横目でじっくりと観察していた。

は〜本州から来た男性はお肌がキレイだがね〜!
髭ボーボーしてないし、毛穴無くてつるっつる!
しかも、なんね? このサラサラの髪は!
潮焼けしていてこんなにキレイな髪の人、そうそうおらんわ〜(謎方言&煩悩炸裂)。

か、彼女おるんかね〜?
おるよね、おるおる! こんなイケメンに女がおらんわけないがよ!

「メリーちゃん」
「ん⁉(やべっ! じっくりと見過ぎた⁉)」
「明後日の花火大会、一緒に行かん?」
「え⁉ 良いよ(行く行く行く! おっしゃ! 行くぜ〜!)」

この夏、でっかい花火打ち上げちゃう予感しかない!

「メリ! そろそろ帰らなきゃ」
「待って! 一緒に帰るよ」

原付に跨っている私のところにヒロ兄が小走りで駆け寄ってきた。

「メリーちゃーん、ケイと花火大会行くんか?」
「あ、はい……」
「そりゃええことじゃ! 実はテツジに同級生の写真見せてもらってのう、ケイがメリーちゃんに会いたがったんじゃ!」

えええええ? マジか? これは勝ち戦か⁉

「でな、でな、あいつチェリーなんじゃよ! よろしゅう頼むわ〜(笑)」

えええ? あんなイケメンが⁉
んなバカな! 私のことからかっているんだこの人。
ていうか、本州の男性ってなんでメリーって呼ぶわけ? メリだっちゅうねん。
……ま、どうでもいいわ! それよりもう絶対に両思いっしょ!!
あーーーー! ドキドキ止まんな〜♡

アバンチュールな妄想をしながらウッキウキで帰宅をしたのでありました。

ついに花火大会。……本気の恋って?

花火大会は浴衣で……♡ なんて、超暑い南国じゃ浴衣着ている女子は皆無! 3秒で滝汗流れて、はだけるつうの。

私はハイビスカス柄のワンピースに青いアイシャドーをまぶたにこれでもか! と塗ったくり、ケイ君のお迎えを待っていた。

「お待たせ!」

おおおお! 70ccのバイクで登場や! 50ccの原付免許しか取れない、島の高校生とは違う! 大人や! カッコいいいい♡

「後ろに乗って」と渡されたヘルメットをすっぽりと被り、ケイ君の背中に掴まって、秘密の花火鑑賞スポットに向かった。

夜の海岸通りを走る。
打ち上げられた花火が黒い海面に反射してキラキラしている。
遠くで歓声が聞こえて、祭りのボルテージは最高潮。

ケイ君のサラサラの髪の毛が私の顔をくすぐる。この胸のドキドキが背中越しに伝わっていると思うと恥ずかしくてたまらなかった。

秘密の花火鑑賞スポットには、案の定誰もいない。岩場にあるほんの4畳くらいの砂浜だもの。そこに二人で座って花火を見上げた。ここが今夜の決戦場(?)かぁ……♡

ドーン

「キレイだね」
「うん、キレイ!」

ドーンパラパラパラ

ドーンドンドーン

ドンドン

……。

おい。いつになったらいいムードになるんや?
脳内ではすでに肩を組まれ、おキッスしている予定なのだが。

それなのにケイ君は手を握ってくるどころか、ずっと花火を見上げていて私のこと見もしないじゃないか。

ドンドンドンドーーーーーーン

花火がフィニッシュしてしまった。

やっとケイ君がこちらを向いた。

ドキドキ……。

「送っていくばい」

どぅえええええええええ正気か⁉
私は心の中で叫んだ。

さっきまでドキドキワクワクした夜の海岸通り。今はむなしい気持ちでケイ君の背中に掴まっている。盛大にしょんぼりした気持ちでバイクから降り、ケイ君にヘルメットを渡した瞬間、腕を掴まれ引き寄せられた。

「キ、キスしてよか……?」

ケイ君、まさか緊張してる……⁉ 私が答える前にケイ君はどんどん顔を近づけてきて、唇を重ねてきた。

むっちゅううううう。

サラサラすべすべで清潔だったケイ君。
緊張からかぎこちなくて、唇をタコみたいに突きだして、汗ばんでいて……。

生々しくてなんかキモっ!!!

私をエスコートしてくれるスマートな大人の男性はそこにはいなかった。

いや、はじめからそんな人はいなかったんだ。大人の男性にエスコートして欲しいなんて一方的な願望だったんだ。

ケイ君は顔を真っ赤にして「俺、メリーのこと好いとーから」と言いバイクにまたがると、こちらを振り向かず指でグッドサインをつくり立ち去った。

だっさ!!!!!!

後日、カズヨと「あの夜の報告会」をした。

「メリどうだったのよ?」
「ないわ、なんかキスしたらキモくて! そっちはヒロ兄と花火行ったんでしょ?」
「行ったよ、そしたらなんと彼の地元から彼女が偵察に来てて修羅場! 私何もしてないし!」

“恋に恋い焦がれ恋に泣く〜”
CDデッキからはGLAYが流れてきた。

その後、ケイ君からの電話に盛大に居留守を使い(連絡手段が家電だったのです)、「俺、メリーのこと絶対迎えに行くけん!」なんてどアツいラブレターをもそっ閉じスルーし、恋の花火はあっさりと散った。

「あ〜!! 本物の恋がした〜い!」

イタい恋から得た教訓「恋はするものではなく、落ちるもの」

恋がしたい、彼氏が欲しい。そんな気持ちで動いても恋に恋しているだけなんだなぁ。やっぱり恋というのはするものではなく、落ちるものなのです。ゆえに、恋に落ちてないとほんの少しのことで、気持ちは萎えてしまうのですよね。

目の前にいるのは等身大の大学生男子なのに、「大人の男性」「垢抜けてる」「エスコートしてくれそう」とフィルタリングをした上に理想化し、相手のことを何ひとつ見ていなかった私。

「ハイスペが良い!」と理想の男性を探している貴女、外側ばかりを見るのではなく等身大の本質を見なくては、相手のことを傷つけてしまうだけだとお伝えしたいです。

男性というのは、好意のある女性に対して背伸びして良いカッコをしたいものですから、その背伸びの部分を相手の等身大だと思い込んでしまうのではなく、「私のために背伸びしてくれているのね」と気がつかないフリをして愛でてあげるのが大人の女ちゅーことでしょうな。

今や大人チェリー坊やにドン引きするどころか、「おほほほ、怖くないわよぉ」とウェルカムな大人になってしまいました。あれから2X年、嗚呼遠くへ来たものだなぁ(トオイ目)。

皆様、今しかない青春をお楽しみくださいませ。
どでかい恋の花火を打ち上げんだぜ。

(文・神崎メリ、イラスト・菜々子)

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