僥倖とは。意味・由来・言い換え表現を紹介
藤井聡太さんや『賭博黙示録カイジ』に使われたことがある「僥倖」。本記事では読み方や意味、言い換えについて翻訳者でもあるライターの小坂井さと子さんに説明してもらいます。
僥倖とは「思いがけない幸せ」を意味する言葉です。画数も多い漢字で、見るからに難解そうな言葉ですよね。
ただ、難しそうな見かけに反して、意外と目にする機会が多い言葉でもあります。
藤井聡太棋聖が、連勝記録を伸ばしていた時に「連勝できたのは僥倖としか言いようがない」と答えたことで、「中学生なのに難しい言葉を知っているなあ」と話題になったことを記憶している人もいるかもしれません。
本記事では「僥倖」の読み方や意味、類義語や対義語、また英語表現も併せて紹介します。
僥倖とは
最初に「僥倖」という言葉の基本的な意味や漢字の成り立ちを、辞書で押さえておきましょう。
僥倖の読み方は「ぎょうこう」
最初に「僥倖」の読み方と意味を、辞書で確認しておきましょう。
僥倖(ギョウコウ)
1.思いがけない幸い。偶然に得る幸運。
2.幸運を願い待つこと。
『デジタル大辞泉(小学館)』
僥倖の意味は「思いがけない幸い」
辞書の意味からも分かる通り、僥倖は思いがけず幸運が舞い降りたことを指した言葉です。
例えば受験で努力した結果、合格を勝ち取った時の「幸せ」ではなく、記念受験ぐらいの気持ちで受けた大学に合格してしまったような「幸せ」をいうことが分かります。
僥倖という漢字の成り立ち・由来
僥倖の「僥」も「倖」も普段、なかなか目にする言葉ではありません。漢和辞典でそれぞれの漢字を見ておきましょう。
僥(キョウ、ギョウ)
もとめる、ねがう
倖(コウ)
1.さいわい。思いがけないさいわい。
2.へつらう。したしむ。また、お気に入り。
3.こいねがう。願い望む。
『新漢語林』
「願う」という意味の「僥」と「幸い・思いがけない幸い」という意味の「倖」が結びついた熟語だということが分かります。
僥倖の使い方
ここからは例文を提示しながら、「僥倖」の使い方を説明します。
「思いがけない幸い」という意味で使われる場合
「僥倖」が「あてにしても得られないような思いがけない幸運」という意味で使われた場合の例文を見ておきましょう。
例文
・こんなにすばらしい指導者に出会えたのは全くの僥倖でした
偶然の出会いがもたらした幸運を「僥倖」という言葉で表現しています。
藤井聡太さんが使った「僥倖」の例文
・連勝できたのは僥倖としか言いようがない
絶体絶命の状況から大逆転で勝利を収めたことを、藤井四段(2017年当時)はこのように表現しました。当時14歳の少年が「僥倖」という難解な言葉を使ってその時の自分の心情を的確に表現したことで、話題になりました。
「幸運を願い待つこと」という意味で使われる場合
この場合は「僥倖する」のように「する」をつけた動詞として使われることがほとんどです。
例文
・生死の境の中に生きることを僥倖しなければならない運命
(有島武郎『生れ出る悩み』より)
小説の中では、生活のために危険な漁をしなければならない貧しい漁師たちが、危険の中で「何とか生き延びたい」と必死で願う様子を表しています。
【例文あり】メールで使う場合
「僥倖」を使う機会は、今日ではほとんど手紙やメールなどの文章に限られます。目上の人へのお礼などの場合にぴったりな表現なので、下記のメール例文を参考に使ってみてください。
例文(定年退職する上司に送るメール)
〇〇さま
ご定年おめでとうございます。
公私にわたり大変お世話になったこと、心から御礼申し上げます。
入社間もない私が、数多くの経験を積まれてこられた〇〇さんの下で仕事のノウハウを学ぶことができたのは、僥倖としか言いようがありません。
これから先も「〇〇さんに鍛えていただいた」と胸を張って言えるように、教えていただいたことを生かして頑張っていきたいと思っています。
本当にありがとうございました。
感謝の気持ちを込めて、ささやかですが記念の品をお送りいたします。これからもどうかお元気でお過ごしください。
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僥倖の類義語・対義語とは
「僥倖」を別の言葉で表現したり、逆の意味を持つ言葉を紹介します。
僥倖の類義語・言い換え表現
「幸せ」を表す熟語は数多くありますが、「僥倖」に対応するような「思いがけない」というニュアンスのこもった言葉は、熟語よりも慣用句が当てはまります。
勿怪の幸い(もっけのさいわい)
「もっけの幸い」とひらがなで書く方が多い表現です。「思いがけない幸運」という意味を表します。
例文
・このところ疲れていたので、風邪気味だったのをもっけの幸いと休みを取った
僥倖を使って言いかえると「このところ疲れていたので、風気味だったのを僥倖として休みを取った」となります。
棚から牡丹餅(たなからぼたもち)
「たなぼた」という省略形があるほど、私たちの日常になじんだ表現です。「思いがけない幸運を得る」という意味を表します。
例文
・辞退者が出たおかげで、たなぼた式で合格できた
「たなぼた」は「僥倖」に比べてカジュアルな表現なので、直接置き換えると、少し不自然になります。こんな時は「辞退者が出たことを僥倖として、合格がかなった」というと、不自然でない表現になります。
僥倖の対義語
「僥倖」と反対の意味を持つ言葉を見ておきましょう。
奇禍(きか)
「僥倖」が思いがけない幸運であるのに対し、「奇禍」は思いがけない災難を指します。日常ではほとんど使いませんが、手紙などで伝える際に、災難の内容についての言及を避けたいような時に使います。
例文
・旅先で先生の奇禍を耳にし、取り急ぎお便りいたしました。お加減はいかがですか?
この表現では、先生が何かの災難に遭い、体を悪くしたことを気遣っています。
僥倖の英語表現
最後に、「僥倖」の英語表現を紹介します。
「思いがけない幸運」という意味の「僥倖」
「僥倖」に相当する英語として、luckやwindfall、unexpected good luckがあります。
luck(幸運)
”luck”は幸運を意味する一般的な表現です。
例文
・It was sheer luck that I was able to get the ticket.(そのチケットがとれたのは、全くの僥倖だった)
windfall(たなぼた)
”windfall”とは風を意味するwindと、落下や落下物を指すfallが組み合わさった言葉です。元々は、「風が吹いて偶然、果物が落ちてくる」という意味の、「たなぼた」に近いニュアンスの言葉です。
例文
・Don’t rely on a windfall. Success is something you have to create for yourself.(僥倖を当てにしてはいけません。成功は自分自身で生み出すものです)
unexpected good luck(予期しない幸運)
”unexpected”とは「予期しない、意外な」という意味の言葉です。「僥倖」の「思いがけない幸運」を英訳した言葉となります。
例文
・It was an unexpected good luck to be mentored by you.(先生のご指導を受けることができたのは僥倖でした)
chance(機会・好機)
機会・好機という意味合いのあるchanceも僥倖と似た意味合いで使うことができます。「思いがけない」というニュアンスを含ませるなら「by chance」という言い回しをすると良いでしょう。
例文
・She could have succeeded by chance.(彼女が成功できたのは僥倖だった)
「僥倖」など大人の語彙力を身につけよう
本記事では「僥倖」の読み方や意味、使い方、類義語と対義語、英語表現を見てきました。
「思いがけない幸せ」を意味する「僥倖」は、「ラッキー」などと比較すると、重い言葉で、それだけに深いニュアンスを伝えることができます。
努力の末につかみ取った勝利を、「僥倖としか言いようがない」と表現した藤井聡太四段(現八段)の言葉は、将棋の奥深さと同時に、藤井四段の謙虚な人がらを伝えるものでもありました。
僥倖が使われた『賭博黙示録カイジ』の一場面のキャプチャがSNSなどで使われるのも、言葉の重さと使われる場面のギャップがおかしく感じられるからでしょう。
言葉は意味だけでなく、使う人がどのような人かを伝えるものでもあります。「読める」「意味が分かる」だけでなく、ここぞという場面で「僥倖」が使えると良いですね。
(小坂井さと子)
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