認知的不協和とは? 意味や活用例&注意点を紹介
「認知的不協和」とは何か知っていますか? 自分の感情や思考、行動が矛盾した時に生じる不快感のことを、認知的不協和といいます。今回は心理カウンセラーの高見綾さんに、認知的不協和の意味や活用例を解説してもらいました。
矛盾した気持ちを抱えて戸惑ってしまうことはありませんか?
自分の考えや行動が矛盾した時に生じる不快感を、「認知的不協和」といいます。
今回は、この心理効果について、意味や具体例を詳しく解説します。ビジネスシーンや日常生活で活用する方法、その注意点についても併せて紹介します。
心理学用語「認知的不協和」とは?
まずは、認知的不協和の意味や概念を見ていきましょう。
「自分の考えや行動が矛盾した時に生じる不快感」を指す
認知的不協和とは、自分の感情や思考・行動が矛盾した時に感じる不快感のことをいいます。
私たちはこの不快感を解消するために、つじつま合わせを行おうと自分を正当化したりすることがあります。
これを「認知的不協和理論」といい、米国の心理学者レオン・フェスティンガーによって提唱されました。
フェスティンガーによる認知的不協和理論の実験例
前述のフェスティンガーと米国の社会心理学者メリル・カールスミスが行った有名な実験があります。
まず、被験者にひどく退屈な課題を長時間やってもらいます。被験者の一部には報酬を与えた上で、他の被験者に「これは面白い課題だ」とうそをついてもらいました。
そして最後に、「この実験が楽しかったかどうか」を全員に評価してもらいます。その結果が、以下の通り。
1グループ目:うそなし・報酬なし →「楽しくなかった」と回答
2グループ目:うそあり・1ドルの報酬 →「楽しかった」と回答
3グループ目:うそあり・20ドルの報酬 →「楽しくなかった」と回答
1つ目のグループは、うそをつかず報酬もありませんので、正直に「実験は楽しくなかった」と答えました。
2つ目のグループは、「周りの被験者にうそもついたのに、報酬はたったの1ドル」という不快感を、「実験は楽しかった」と自分の考えを変えることで解消しました。
3つ目のグループは、「周りの被験者にうそをついたけど、それは20ドルの報酬のためだから仕方ない」と正当化することができたため、「実験は楽しくなかった」と正直に答えました。
人が不快感を解消しようとする理由
このように、自分の中に相反するものが生じた場合、「自分の考え方や行動を変える」もしくは「自分の考え方や行動を正当化する」のどちらかを選択することになります。これにより、矛盾した心理を解消して、不快感から抜け出そうとするのです。
フェスティンガーによると、人は自分を否定したくないため、正当化する要素を付け加えることで不快感を解消するケースが多いとされています。
認知的不協和の具体例
次に、私たちの身近にある認知的不協和の具体例を紹介します。
ダイエット
身近な具体例として、ダイエットが挙げられます。
ダイエットしてきれいになりたいと思いつつも、甘いものが大好きで、目の前にあるケーキが食べたいと思ったとします。
ダイエットするためには、甘いものは控えた方がいいですよね。しかし、ケーキをどうしても食べたいと思うと、「今日ぐらいは自分にごほうびをあげてもいいよね。ダイエットは明日から再開すればいいんじゃない?」と自分を正当化するような考え方を持つようになります。
仕事への不満
他のケースでは、例えば、新しい職場で仕事を頑張っているとします。でも異動したばかりで慣れないことが多く、なかなかはかどらない。
「一生懸命やってるのに全然ダメだ」とガッカリした時に、「先輩の教え方が下手だから、なかなかできるようにならないんだよね」と誰かのせいにしてみたり、「新しい環境で慣れるのって大変だから仕方ない」と自分を納得させてみたりして、不快感を解消しようとするのです。
認知的不協和を上手に活用する方法
では、認知的不協和を有効に使う方法はあるのでしょうか?
活用方法とその効果を、シーン別に見ていきましょう。
ビジネスシーンでの活用例
まずはビジネスシーンでの活用方法の例を紹介します。
(1)キャッチコピーで人に興味を持ってもらう
痩せたいけど食べたい、勉強しなきゃいけないけど時間がない、頑張りたくないけどお金はほしいなど、私たちは相反する心理を抱えることがあります。
そこで、認知的不協和を生かします。
例えば「時間がない人の超効率勉強法」などのキャッチコピーを付けることで、消費者は「どういうことだろう?」と興味を引かれ、ついつい内容を確認したくなるのです。
(2)購入するべき理由を提示する
物やサービスを購入する際には、「値段が高いから、買って後悔しないかな?」「欲しいけど、本当に必要なものだろうか?」など、さまざまなことを考えて悩みますよね。
そんな時に、購入するべき理由を提示することができると、矛盾が解消されて購入に至りやすくなるでしょう。
例えば、欲しいけど高くて迷っている人に対して、「いつも頑張っているあなたに。たまにはぜいたくをして息抜きしましょう」「これを買えば、なりたい自分になれますよ。そうなれば値段以上の価値が手に入りますよね」というようなメッセージを発信することも、1つの方法です。
恋愛など日常生活での活用例
続いて、恋愛などの日常生活における活用方法の例を見ていきましょう。
(1)なりたい自分に「すでになっている」ことにする
お店のトイレに「いつもきれいに使っていただきありがとうございます」という張り紙があるのを見たことはないですか? 実は、これも認知的不協和の解消に役立っているのです。
こんなふうに、「早起きして勉強を頑張りたい」「お部屋の掃除をしていつもきれいな状態でいたい」という目標があれば、すてにそうなっていることにしてしまいましょう。
「私は早起きして勉強頑張っています」「お部屋はいつもきれいです」と口に出したり、紙に書いて貼っておいたりすると、そうじゃない状態の時は、自分の中で矛盾が生じて解消したくなるのです。
(2)あえて親密な行動を取る
恋愛シーンでは、まだ相手と親しくない時から「あえて親密な行動を取る」ことにより、結果として「ここまでしているなら、自分たちって親しいはずだよね?」と相手に思わせてしまうという方法があります。
例えば、親しい関係なら会う回数も多いはずですし、頼み事をすることもありますよね。これを逆手に取り、会う回数を増やして、本の貸し借りをするなど、ちょっとしたお願いを聞いてもらうことで、認知を修正していける可能性があります。
認知的不協和を活用する上での注意点
認知的不協和を解消することは、自分の心を守る行動なので、それ自体には何も問題はありません。
ただし、「てっとり早く不快感を解消しようとして合理的ではない判断をしてしまうことがある」という点には、注意が必要です。
うまくいかないことを受け入れてみたり、自分の考えや行動を変えた方が良かったりする場合であっても、受け入れずに誰かのせいにしたり、やらなくて良い理由を見つけて自分を正当化してしまったりすると、後々自分が困ることになります。
信頼できる相手に相談したり、客観的なデータを元に検討してみたりするのも良い方法です。特に重要な判断をする際には、いつもより慎重になって、自分の選択が合理的なものなのかじっくり考えてみるのがおすすめです。
合理的な判断をするように意識しよう
自分の中で相反するものが生じる認知的不協和は、日常のさまざまなシーンで見られるものです。
不快感を解消する行為は、自分の心を守るために必要なもの。考え方や行動を変える際には、その判断が合理的なものかどうか、長い目で見た時に自分にメリットがあるのかどうかを考えたいものです。
なりたい自分に近づくためにも、認知的不協和を上手に活用していきましょう。
(高見綾)
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