ラポールとは? 意味や使い方&形成する方法
ラポールとは、相手との信頼関係を指す心理学用語。ラポールを形成すると、ビジネスや恋愛などさまざまなシーンで役立ちます。今回は、心理カウンセラーの浅野寿和さんが、ラポールの意味や使い方、コミュニケーションを円滑にするテクニックを解説します。
「ラポール」とは、人と人とのつながりを構築する相互の信頼関係のこと。ラポールを形成すると、格段にコミュニケーションの質が上がります。
今回は、ラポールを形成する方法について解説します。
「ラポール」とは? 言葉の意味
「ラポール」とは心理学の用語で、主にカウンセリング時のセラピストとクライアントの信頼関係を指す言葉です。
フランス語で「橋を架ける」という意味があり、信頼関係によってお互いに心が通じ合い、相手を受け入れている状態を指します。
最近では、カウンセリング分野に留まらず、ビジネス、家族、夫婦間などの人間関係を改善する目的で用いられる言葉でもあります。
また、ラポールとは「目に見えない感覚的な要素」です。例えば「何となく気が合う」「不思議と自分のことを話したくなる」「自然と心を許せる」といった感覚に近いものです。
そのため、ラポールは相手の話を聞いたという事実だけで形成されるようなものではなく、人と人が触れ合い、心がつながっていく中で生じるものといえます。
ラポールを形成するメリット
では、ラポールを形成するメリットにはどのようなものがあるのか、詳しく見ていきましょう。
(1)対人関係が円滑になる
人は、他人と気持ちがつながり、親密な感覚を抱いている時に安心する傾向にあります。
つまり、ラポールを形成することは、相手に安心感を与えられ、自分自身への信頼感を高めることにつながります。
また、ラポールが形成されてお互いの思いが通じやすくなると、より前向きな会話や気持ちのやり取りが生まれます。
このようなことから、ビジネス・恋愛・夫婦・家族などあらゆる人間関係においてラポールの形成には大きなメリットがあるといえます。
(2)説得力や影響力、評価が高まる
ラポールの形成は、説得力や影響力、人事評価などにもポジティブな影響を与えます。
人は、自分を受け入れてくれる相手や、本音で話し合える人の意見を受け入れやすいもの。
そのため、説得力・影響力が高まり、ビジネスシーンでの提案や意見も受け入れられやすくなるでしょう。その結果、自分の評価も高まっていくと考えられます。
(3)相手の本音・ニーズを聞き出しやすくなる
ラポールを形成すると、相手の警戒心や不信感を無意識のレベルで取り除くことが可能になります。それにより、相手の本音や深層心理を引き出すこともできるようになっていきます。
いわば、相手の「ここだけの話」「本当の悩み」などを聞き出しやすくなるのです。
人は本音が話せる相手を大切にしたいと思う傾向にあります。この気持ちをお互いに感じる関係であれば、強い信頼の中で関わることができますね。
ラポールを形成する方法
では、ラポールを形成するにはどうしたら良いのでしょうか。ラポールを形成するための心理テクニックを5つご紹介します。
(1)キャリブレーション
「キャリブレーション」とは、しぐさや表情・雰囲気・姿勢など、言葉以外の情報から相手の心理状態を探るテクニックです。
相手の細かい情報をヒントにしてコミュニケーションを取ることで、相手が「こちらの心情を察してもらえた」「受け入れてもらえた」と感じ、ラポールの形成に近づきます。
キャリブレーションのやり方
まずは、「相手は今こう考えているのでは」という先入観を捨てましょう。その上で、相手の顔色や表情・しぐさなどを注意深く観察します。
例えば、相手が「大丈夫です」と言っていても、声のトーンや様子、表情などから本当は体調が悪いのでは? と気づけることがありますね。
また、こちらの発言に対して、相手が「承知しました」と答えていても、どこか納得していない様子が伝わってくることもあるでしょう。
ただし、キャリブレーションは誰にでもフィットする方法ではありません。特に初対面の人にはあまり効果を発揮しない傾向にあります。
しかし、一度でも面識がある人ならば、前回の印象と比較して声を掛けてみるのも良いでしょう。
(2)ペーシング
「ペーシング」とは、相手の話すスピードやトーンなど、相手と「ペース」を合わせるコミュニケーションスキルの一つ。
人は好意を感じる相手といると、無意識的にその行動を似せようとする心理が働くと考えられています。
ペーシングを行うことにより、相手は無意識に「自分と似ている」という感覚を覚え、より安心感を抱きやすくなります。こうしたことも、ラポール形成に役立つでしょう。
ペーシングのやり方
ペーシングをする時は、まず視線や視線の高さを合わせることから実践してみましょう。続いて、声のトーンや会話のテンポ、話す時のテンションをなるべく相手に合わせてみてください。
難しく考えずに、相手を真似することから始めてみましょう。
(3)ミラーリング
ミラーリングは、相手のしぐさや表情など、視覚情報を真似するペーシングスキルの一つです。
(2)で解説したペーシングと併せて活用すると、より相手に安心感や信頼感を与えられ、ラポールの形成に近づくことができるでしょう。
ミラーリングのやり方
例えば、相手が首を傾けていたら、さりげなく自分も合わせて傾けます。また、相手が特に目立った行動をしていない時も続けていきます。例えば、呼吸のタイミングや姿勢、手の位置、細かくなると、まばたきのペースなども合わせていきます。
ただし、不自然に相手の行動を真似ると相手に気づかれてしまい逆効果になることもありますので、その点は注意しましょう。
(4)マッチング
マッチングは、相手の声の大きさや、話し方などの聴覚情報を合わせるテクニックです。
こちらもペーシングスキルの一つで、ミラーリング等と併せて活用するとより効果的。相手の警戒心を解くことにつながるでしょう。
マッチングのやり方
例えば、相手の話すテンポに合わせてこちらも話すようにする、相手と声のトーンを合わせる、声の大きさも合わせるなどです。
相手に同調することがポイントです。
(5)バックトラッキング
これは「オウム返し」と言われている方法です。相手が会話の中で使った言葉をそのまま返すというテクニックです。
相手が使った言葉をさりげなく繰り返すと、相手は「この人は自分の話を聞いてくれている」と感じられます。
こうすることで信頼感が増し、ラポールを形成するきっかけになります。
バックトラッキングのやり方
バックトラッキングのポイントは、相手が使った言葉をそのまま返すこと。ですが、一言一句、同じ言葉を返す必要はありません。
例えば、相手が「やっぱり職場では信頼関係がないと困りますよね」と話したとしたら、「そうですよね。信頼関係がないと困りますよね」と返すイメージです。
ただし、少しでもニュアンス(相手の意図)の違う言葉を返してしまうと、逆効果となります。
相手に興味を持って話を聞き、言葉だけでなく、背景にある出来事、意図、感情などまで汲み取っておくことがポイントです。
ラポールを形成する時の注意点
ラポール形成の大前提は「相手を尊重する気持ち」と、「誠実に相手との信頼関係を築きたい」という思い・スタンスです。自分のメリットだけを目的に行動しても、恐らく失敗するでしょう。
だからといって、過剰に気を使いすぎたり、自分の価値観を否定したりする必要はありません。相手の価値観を尊重し、相手をより大切に扱いたいと願うことがポイントです。
また、自分自身が魅力的な人間であるために、日々自分を磨くのも重要です。自分に魅力を感じていないと、自ら「どうせ相手は喜ばないだろう」と思い込み、ラポールの形成が難しくなります。
ラポールは相手を思いやる気持ちそのもの
ラポールを形成のために具体的なテクニックを知ることはとても重要ですが、最も大切なのは「心から相手を尊重する気持ち」です。
自分自身が人から向けられてうれしいと感じることを相手に与えることで信頼関係が構築できますよ。
(浅野寿和)
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