「よしなに」の意味や語源は? 使い方や例文・言い換え表現を解説
「よしなに」という言葉を知っていますか? 古風で柔らかい響きを持つ言葉ですが、ビジネスシーンなど具体的な伝達が必要な場面では、使用を避けた方がいいことも。今回はライティングコーチの前田めぐるさんに、「よしなに」の意味や使い方を解説してもらいました。
「よしなに」は、最近ではあまり見聞きしなくなった言葉なので、関西弁などの方言かと思う人もいるようです。
しかし、以前は主に年配者からの手紙で「どうぞよしなに」と結んであるのを時折見かけたものです。
「どうぞよろしく」とほぼ同じ意味ですが、古風で柔らかな印象を感じさせますね。どのように使えば良いか、考えてみましょう。
「よしなに」の意味
「よしなに」とは、次のような意味です。
よしなに
よいように。よろしく。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)
上記のように、一般的には「よしなに」とひらがなで書くことがほとんどです。
ただし、『角川類語新辞典』(角川書店)のように漢字表記で「良しなに」と載せている辞書もあるため、漢字を使っても問題はありません。
つまり「よしなに」とは、「都合良くなるように。不都合が生じないように。よろしく」という意味です。
「どうぞよしなに」「よしなにお取り計らいください」などと使います。
「よしなに」は方言ではなく和語・古語の1つ
「よしなに」には古風な響きがあり、一般的にひらがなで書かれることが多いため、関西弁などの方言や大和言葉(日本古来からある言葉)だと思う人も多いでしょう。
しかし、方言の辞典には掲載されていないので、方言ではないようです。
また、厳密な意味での大和言葉として位置付けるほどには古い時代のものでもないようです。そのため、一般的な和語・古語の1つと考えるのが良いでしょう。
江戸時代の文献に「よしなに」を使ったものがあり、この頃にはすでに使われていたことが分かります。
十難を一つ一つよしなに言いなし、ここが大事の胸算用
(井原西鶴『世間胸算用・二』)国へはよしなに言い遣って
(近松門左衛門『心中刃は氷の朔日』)
「よしなに」の語源
語源についてはさまざまな説がありますが、辞書に以下のような記述があります。
よしなに
よいように。適切に。語源については、形容詞「良し」に接尾語「な」と断定の助動詞「なり」の連用形に「に」が付き一語化したものとする説(角川古語大辞典)があるが、「な」の素性が必ずしもはっきりしない。
この「な」に関して、『大言海』は「ナは、あんな・こんなのナにて、様(やう)の意」ととくが、疑問である。
(『新明解語源辞典』三省堂)
「な」の部分は諸説あるようですが、全体は以下の成り立ちだと考えられます。
・形容詞「良し」+接尾語「な」(あるいは「様」の意)+助動詞「なり」の連用形「に」
「よしなに」を使う上でのポイント
ここでは、「よしなに」を使う際のポイントを紹介します。
具体的な伝達が必要な場面では使用を避ける
「よしなに」は、「都合良くなるように。不都合が生じないように。よろしく」という意味です。
具体性に欠ける言葉であるため、仕事を具体的に進めるべき場面では使わない方が良いでしょう。
例えば、仕事を依頼する時、「この資料をよしなに仕上げてください」とは言いませんよね。
「この資料を明日10時の会議までに20名分コピーを取っておいてください」と具体的に指示するはずです。
「よしなに」は、相手の判断に委ねる性格の強い言葉であるため、上記のような場面で使うことは、おすすめできません。
具体性が必要ない場合には使える
冒頭で、私信の最後に「どうぞよしなに」と結ぶことがあると書きました。
以下のように、終わり方を丁寧に言えば、目上の人にも使えます。
ただ、使う場合には述語までしっかり述べる方がいいでしょう。手紙に限らず、会話の場合も同様です。
例文
・今後ともどうぞ、よしなにお付き合いいただければ幸せです。
・奥さまにも、どうぞよしなにお伝えくださいませ。
「よしなに」はどんな時に使えるのか?(例文付き)
ここまで説明したように、「よしなに」は「よろしく」と同じような意味を持つ言葉であり、基本的に「よろしく」を使う場面では、同じように使えます。
ただし、意味を知らない相手に使っても、通じません。
次の点を押さえて使いましょう。
・日頃から共通言語の多い、意味が通じそうな相手を見極めて使う
・以心伝心に頼らず、相手が推量しやすいように、具体性を交えた一文を加えて使う
・通じなくても大きな問題がない時に「よろしくお願いします」と同様のあいさつ語として使う
仕入れ先に見積書をお願いする時
いくら「よしなに」とはいえ、相手任せにしておくと、予想外に高額な見積書が届くかもしれません。
そのため、自社(自分)の希望を表す一文を添えて使いましょう。
「“よしなに”とはどのように考えれば良いか」の方向性を示すこともでき、効果的です。
例文
・弊社としては、前年より予算が厳しいのです。ご面倒をおかけしますが、どうぞよしなにお取り計らいください。
「よろしくお伝えください」の「よろしく」の代わりに使う時
その場にいない第三者のことを「○○さんによろしくお伝えください」と言うことがよくあります。
「よしなに」も、「よろしく」の代わりとして使うことができます。
ただしこの場合、第三者が相手より同等以上の目上の人であることが条件です。
例文
・本日は遠路お越しいただき、ありがとうございました。○○様にもどうぞよしなにお伝えください。
「よしなに」の言い換え表現
ここでは、「よしなに」と似た意味を持つ言葉を紹介します。
「よろしく」
「適当に・程良く」という意味で、幅広く使えます。
例文
・御社のご判断でよろしくお進めください。
「あんじょう」
「あんじょう、頼んまっせ」は、「よろしく頼みます」という意味の関西弁です。
「味よく」が短くなって「あんじょう」となったもので、「味よく、うまく、具合よく」という意味です。「よしなに」「よろしく」と同じように使えます。
ただし、通じそうな年代や地域を選んで使いましょう。
例文
・例の件、あんじょうお願いいたします。
使い慣れない言葉は、まずプライベートで試してから
今回は、古風な響きのある「よしなに」を取り上げましたが、いかがでしたか?
具体性が必要なシーンでは不向きですが、ポイントを把握して効果的に使えば、ささやかな和みをもたらすこともでき、プラスにもなります。
心配な場合には、まずプライベートで試すなどして、使い慣れていくのも方法ですね。
(前田めぐる)
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