「割愛」の意味とは? 「省略」との違いや例文・言い換え表現を解説
「割愛」という言葉はビジネスシーンでも使う機会の多い言葉ですが、「省略」との違いを正しく理解していますか? 今回はライティングコーチの前田めぐるさんに、「割愛」の意味や「省略」との違い、使う上での注意点や言い換え表現について教えてもらいました。
もしも仕事で「せっかくですが、割愛します」と言われたら、どんな気持ちがするでしょうか。残念? それとも仕方がない?
実は、この「割愛」という言葉は、単に「省略」「削除」というだけの意味で使うものではありません。以下に解説します。
「割愛」という言葉が持つ意味
「割愛」は「かつあい」と読み、次のような意味があります。
かつあい【割愛】
(1)愛執を断ち切ること。
(2)惜しく思うものを思い切って手放したり省略したりすること。
(3)大学など公的な組織が、他の組織からの要請で人材を手放すこと。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)
この記事では、ビジネス文書や口頭でよく使われる(2)の意味と用法について説明します。
辞書からも分かるように、「割愛」とは、「手放したくない、省くには惜しいと思いつつも、思い切って手放したり削除したりする」という意味です。
ちなみに人材を手放す場合の(3)でも、「本来は手放したくないが、惜しみつつ」という意味が含まれています。相手先から能力を買われた優秀な人材を、組織にとって有益となるよう転籍させることを「割愛人事」といいます。
「割愛」と「省略」の違いとは?
「割愛」と同じような意味で「省略」という言葉があります。
しょうりゃく【省略】
簡単にするために、一部分を略して省くこと。せいりゃく。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)
上記からも、「省略」とは不要な箇所やことを取り除き、全体を簡単に略すことであり、「割愛」のように惜しむ気持ちは含まれていないことが分かります。
例えば「この部分は省略します」と言えば、文字通り「この部分は省いて短くします」という意味です。残念だと惜しむ気持ちは含まれず、単に「省略する」という事実だけを表しています。
一方、「この部分は割愛します」と言えば、「惜しいけれど、この部分は削除します」という意味を示しています。
つまり、両者の違いは以下の通りです。
「割愛」=惜しみつつ、全体のために、あるいは訳あって省くこと。
「省略」=簡単にするために、一部分を省くこと。
「割愛」が使える場面
「割愛」という言葉を使うビジネスの場面で最もなじみが深いのは、文書上で言葉を省いて短くする時です。
文書やメール、メッセージの他にも、口頭で詳しい説明を省く時や、時間割やコースなどを省く時にも使います。
何らかのやむを得ない事情がある場合がほとんどです。
例えば、次のような場面で使えます。
・文書や動画などで、一部の内容を、記載するスペースや編集上の都合で省く場面
・食事のメニューやコースなどの内容を、予算や時間の都合で省く場面
・詳しい説明や紹介を、時間や進行上の都合で省く場面
いずれも、「本来は紹介したい、省きたくない」という惜しむ意味合いにおいて使います。
「割愛」を使った例文
意味や使用にふさわしい場面が分かったところで、実際に「割愛」という言葉をどのように使えばいいか、紹介します。
言葉や文章を省く時
例文
・せっかく加筆していただいたのですが、紙面の都合上割愛することになりました。
紹介を省く時
例文
・その他多くのご弔電を頂戴しておりますが、時間の都合上お名前のみご紹介申し上げまして、電文は割愛いたします。
内容を省く時
例文
・本日は、○○資料館も見学予定でしたが、悪天候による到着の遅れにより、コースの内容から割愛させていただきます。
「割愛」の誤った使い方
前段の例文からも分かるように、「割愛」は、やむを得ない事情で惜しみつつ省く時に使うのが正しい用法です。
やむを得ない事情とは、例えば、予算の都合、時間の都合、紙面の都合、顧客の要望などさまざまです。
したがって、もともと不要であったり、重要度が低かったりする時に「割愛」という言葉を使うことはふさわしくありません。
例えば、「以下の部分は、重要ではないので説明を割愛します」「次の段落は、冗長につき割愛しました」などの使い方は誤りです。
「割愛」の言い換え表現
ここでは、「割愛」と似た意味を持つ言葉を、例文と共にいくつか紹介します。ふさわしい場面で活用してみましょう。
「省略」
「しょうりゃく」と読みます。
「簡単にするために、一部分を略して省く」という意味です。
例文
・私から皆さまへの自己紹介は、お手元の用紙に掲載しておりますので、省略します。
「端折る」
「はしょる」と読みます。
「一部を省いて短くする」という意味です。
例文
・長くなりますので、次の項目は説明を端折ります。
「飛ばす」
「間を省いて、一足飛びにその先に移る」という意味です。
例文
・毎月の定例会については、8月を飛ばして、9月の涼しくなった時期にしましょう。
「省筆」
「しょうひつ」または「せいひつ」と読みます。
「差し支えのない範囲で、語句や詳しい描写を省くこと」という意味です。
例文
・今回の提案には省筆が多いので、もっと意図を詳細に説明すべきだ。
「抜く」
「省く」という意味です。「抜きにする」という使い方もできます。
例文
・詳しい説明を抜いて(抜きにして)、要点のみ読み上げます。
「スキップ(skip)」
「(無関係な箇所を)飛ばして進める」という意味です。
例文
・動画をチェックする時は、いつも時間がなく、広告をスキップしている。
共感を深めるためにも知っておきたい「割愛」という言葉
いかがでしたか?
「割愛」を単に省く時の決まり文句のように使ったり、あるいはやむを得ず省く場合に「省略」と使ったりしていた、ということはありませんでしたか?
省略するという事実は同じでも、「割愛」という言葉を使うことで、本来は省きたくない内容であることや、惜しんだり残念に思ったりしている気持ち、やむを得ない事情があることが相手に伝わります。
共感度の高いコミュニケーションを取るためにも、「割愛」という言葉を使いこなしたいですね。この機会にぜひ用法をマスターしておきましょう。
(前田めぐる)
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