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セックスの時に濡れないのは体質?  5つの理由と解決法

宋美玄(産婦人科医・医学博士)

セックスの時に濡れにくいという悩みを持っていませんか? そのせいで性交痛を感じる人も多いそう。濡れない理由は一体何なのでしょうか。産婦人科医・医学博士の宋美玄先生に原因と解決法について伺ってみました。

セックスの時に濡れないことで悩んでいる人は、意外に少なくありません。感じているはずなのに濡れなかったり、自分でする時は濡れるのにセックスになると濡れなかったりという人も。

調査によると、約1割の女性がセックスの時「濡れない」「濡れにくい」ことに悩んでいます[*1]。濡れないのは体質なのでしょうか? それとも感じていないからなのでしょうか?

そもそも「濡れる」とは

まずは「濡れる」という状態について知っておきましょう。

濡れるというのは、女性におこる性反応の一種です。セックスや裸体に関する映像、画像を見たり、うなじや乳房、耳などの性感帯を愛撫されたりといった性的な刺激を受けると、体には性反応と呼ばれる変化が現われます。

全身では皮膚の紅潮、発汗、心拍数の増加などが生じるほか、性器周辺では血流が増加して、クリトリスや小陰唇がふっくらし、腟粘膜から体液(潤滑液)が分泌されていきます。この潤滑液が腟内に満たされることで「濡れる」という状態になります。

潤滑液はペニスをスムーズに受け入れ、セックスの摩擦を軽減することを目的に分泌される体液です。男性器の勃起がセックス(生殖)のためにおこるのと同様、女性の潤滑液もセックスのために分泌されます。

腟が濡れない5つの理由

セックスになると濡れるはずの腟がなかなか濡れない、ということもしばしばあります。その理由として、以下のようなことが考えられます。

(1)興奮もしくはコミュニケーション不足からくる性反応の不足

腟が濡れない理由として多いのは、前戯が十分でないなど、セックス前のコミュニケーションが不十分なことによる性反応の不足です。

ムードの盛り上がりに欠けていたり、愛撫の時間が短かったり、性的興奮を十分に得られていないと性器の充血や潤滑液の分泌などの性反応がしっかりおこらず、濡れにくいということが多々あります。

(2)エストロゲン不足

エストロゲンは女性ホルモンの一種で、生殖には欠かすことのできない存在です。エストロゲンはさまざまな働きを持っていて、その中には腟粘膜を厚くしたり、性的興奮時に潤滑液を分泌させたり、腟内の清浄度を保ったりなど、スムーズにセックスを行えるようにするというものもあります。

このエストロゲンの分泌が大きく減ってしまうと、腟のうるおいも減ってしまいます。エストロゲン不足になる原因として多いのは更年期ですが、20~30代の若い世代でも急激なダイエットなどをすると、エストロゲン不足に陥ることがあり、注意が必要です。

(3)乳がん治療の影響

乳がんの薬物療法により卵巣機能が低下し、濡れにくくなることがあります。通常、そのような場合にはエストロゲンの補充療法を行うのですが、エストロゲンは乳がんの発生に関わりがあるため、乳がん患者にはそれができません。そのため乳がん患者の術後の注意には「性交痛がある場合は潤滑ゼリーを使用すること」という項目が示されています。

そうした腟環境の変化については乳がん患者自身が自覚していることも多く、「腟の中が乾いている感じがする」「下着におりものがつかず、すれる感じがする」といった感想を持つ人も少なくないようです。

(4)水分不足

乾燥や水分不足も濡れにくくなる原因となります。腟の潤滑液は水分ですから、若い世代の女性でも水分が不足し、脱水状態に近くなると体液が分泌されなくなり、濡れにくくなることがあります。

(5)セックスへの嫌悪感やストレス

身体的原因だけでなく、心理的な原因でも「セックスで濡れない」状態はおこります。何度もお伝えしているように、腟の潤滑液は性的興奮反応によって生じます。したがって適切な性的興奮が得られれば、潤滑液は分泌されるはず。

なのに「濡れない」ということは女性が楽しみ、性的興奮が得られるようなセックスができていないと考えられます。その裏にはセックスへの嫌悪感やストレスなどが隠れている可能性もあるでしょう。

濡れないことで何が起きる?

適切な性的な刺激を受けても濡れない、もしくは濡れにくい場合、体にはこんなことが起こるかもしれません。

(1)性交痛が起きやすくなる

性交痛とは、セックスの際に感じる痛みのことです。女性の6割以上がセックスの際、なんらかの痛みを感じるとされており[*1]、その原因のひとつに、腟が濡れにくいことによる摩擦があげられます。

腟の潤滑液の分泌が少ないと、ペニスを挿入したりピストン運動をしたりする際に摩擦がおこり、痛みが生じやすくなるのです。

(2)女性器が傷つくことも

潤滑液の分泌が不十分なままピストン運動などを繰り返すと、摩擦により腟の内壁が傷つくことも考えられます。そこから腟に炎症などが生じると、ますますセックスへの嫌悪につながる可能性もあります。

(3)性欲が低下しやすくなる

濡れにくい状態が続くと、性交痛が繰り返されることも多くなります。性交痛が繰り返されるということは、セックスのたびに痛みを感じるということ。それは性的興奮が冷めやすくなるばかりか性欲の低下にもつながりやすくなり、セックスレスの原因となることも多いのです。

濡れやすい体になるための解決法

このようにセックスの際、濡れにくいことには何かとデメリットがあります。それらを避けるためにも、濡れやすい体になることはできるのでしょうか?

じつは性的刺激への反応には個人差があり、女性全員がはじめから濡れやすいわけではありません。性的刺激に慣れたり、経験を重ねたりすることで徐々に濡れやすい体になっていきます。そのための方法をいくつか紹介します。

(1)潤滑ゼリーや保護用ジェルを使う

物理的にうるおいを足せばすべてが解決するわけではありませんが、潤滑ゼリーは「感じているのに濡れにくい」という人にとって、セックスを円滑に進めるための潤滑剤となり得ます。性的興奮を感じているのに濡れにくいという場合、濡れないことにストレスや緊張を覚え、さらに濡れにくくなることも少なくありません。潤滑ゼリーはそうしたストレスの解消につながります。

決して使うのが恥ずかしいものではなく、無理して痛みを我慢するくらいなら、ゼリーを使って徐々に体を慣らしていくほうがよいでしょう。

なお、潤滑ゼリーに抵抗があるならば、その代わりとして使える、腟の保護を目的とした保湿効果のあるジェルもあります。保湿ジェルであればスキンケアと同様、デリケートゾーンのお手入れとして日常的に使えるので、恥ずかしさが少し軽減されるかもしれません。

(2)セルフタッチングで性的興奮をしやすくなる

セルフタッチングとは自分の性器に自分で触れる、セックスセラピーの手法のひとつ。意味としては、自慰をあらわす「マスターベーション」とほぼ同じです。濡れやすい体になるには、女性もセルフタッチングを通して「気持ちよくなる」感覚を身につけておくのが有効です。

自分自身で触れてみることで、気持ちいいと感じるポイントがわかったり、性的刺激にも慣れたりして、濡れやすくなっていくでしょう。

(3)気持ちいいポイントをパートナーに伝える

セルフタッチングで自分の気持ちのいいポイントがわかったら、それをパートナーとのセックスでも得られるようにしましょう。パートナーからの性的刺激が気持ちよければ「そのまま」や「続けて」と伝えたり、刺激が強いと感じたら「もう少しやさしく」や「ソフトに」と言ってみたり、刺激する場所を変えてほしい時は「もう少し上にして」と伝えたりするとよいでしょう。

ただし、パートナーがアダルトコンテンツの過剰な演出に影響されて、あまりに強くクリトリスを刺激するなど、女性の性器の適切な刺激の仕方をわかっていない場合は正しい知識を身につけてもらう必要があるかもしれません。

その時はセクシャルヘルスリテラシーについて書かれた本やDVDを一緒に見てみましょう。女性の体の反応を知り、正しい性的刺激の方法を学んでもらうのが近道です。

(4)セックス前には水分を積極的に摂取する

腟の潤滑液は水分です。乾燥や水分不足でも体液の分泌が少なくなり、濡れにくい状態になることがあります。のどの渇きを感じていない場合でも、意外と水分不足に陥りがち。セックスの前にはしっかりと水分補給を行いましょう。

(5)必要に応じて婦人科治療も

人によっては、エストロゲンの不足など体のトラブルが影響して、濡れにくい状態になっていることも考えられます。エストロゲンの不足は腟や膀胱、尿道組織を萎縮させ、腟の乾燥感、外陰部のかゆみ、刺激症状、性交痛などの症状を引き起こすことがあります。

思い当たる症状があったり、生理不順があったりする場合は婦人科を受診してみましょう。隠れているトラブルを解決することで、セックスライフが充実することもありますよ。

一気に全部行おうとせず、自分が無理なくできることから、少しずつトライしてみましょう。

濡れない自分を責めないで

先ほどもお伝えしましたが、女性全員がはじめから濡れやすいわけではありません。性的刺激に慣れたり、経験を重ねたりすることで濡れやすい、性的刺激に反応しやすい体になっていくのです。

ですから、濡れない自分を責めたり、経験が浅いことを恥じたりする必要はまったくありませんが、潤滑液が適切に分泌されることは腟の潤滑力を高め、気持ちのよいセックスにもつながります。

改善したい気持ちがあれば、先に紹介した解決法のうち、できるものに少しずつトライするほか、必要に応じて婦人科も適切に受診しましょう。信頼のおける婦人科医は、セックスのことのみならず、あなたにとっての頼れるサポーターになってくれるはずです。

(文・構成:山本尚恵、監修:宋美玄先生)

※画像はイメージです

参考文献

[*1] ジェクス ジャパンセックスサーベイ2020
https://www.jfpa.or.jp/sexsurvey2020/

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