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セックスをすると痛い。性交痛を感じる場所と痛みの理由&対処法

宋美玄(産婦人科医・医学博士)

セックスをすると痛みを感じる……。そんな経験をしたことがある人は意外と多いもの。なぜ痛くなってしまうのでしょう? 実は痛みを感じる場所ごとに原因が違うと産婦人科医・医学博士の宋美玄先生は言います。どんな理由があるのでしょうか、またその対処法とは?

「セックスをすると気持ちいい」「セックスのときは感じるもの」「セックスを楽しめてこそ大人の女性」――そんなイメージを抱いている人は決して少なくないでしょう。

もちろん、普段からセックスを楽しめているという人もいます。しかしその一方で「セックスが痛い」という人も、実は意外と多いのです。

なぜ? セックスで痛みを感じる理由

セックスで感じる痛みのことを「性交痛」といいます。

性交痛を感じる人は思いのほか多く、成人男女を対象としたセックスに関する大規模な調査『ジェクス ジャパン・セックスサーベイ2020』によると、セックスの時に痛み(性交痛)を感じることがあるかという問いに対して、「いつも痛い」「だいたい痛い」「たまに痛いことがある」と回答した人は、女性の全年代で62.4%、20代で74.1%、30代で63.5%でした[*1]。

すなわち女性の6割以上が、セックスの際に痛みを感じているということになります。

多くの女性から性交痛にまつわる相談を受けているという宋美玄先生によると、性交痛を感じる場所やタイミング、痛みの度合いなどは人によってさまざまであるものの、大きくは「腟の入り口付近が痛む場合」と「腟の奥や内部が痛む場合」とに分けられるといいます。

それぞれの場所ごとに、性交痛を感じやすい主な原因を確認してみましょう。

腟の入り口付近が痛い場合

腟の入り口付近が痛む主な理由には、以下のようなものが考えられます。

・興奮もしくはコミュニケーション不足からくる性反応の不足
・女性ホルモン(エストロゲン)の不足
・加齢による乾燥
・水分不足
・物理的刺激によるかゆみや炎症

一般的に、女性が性的な刺激を受けて興奮すると、性器周辺の血流が増加し、クリトリスが充血してふくらんだり、小陰唇がふっくらしてきたりします。また、腟粘膜から体液(潤滑液)が分泌されて、いわゆる「濡れる」という状態になるなどの性反応が現れてきます。

これらの反応は、ペニスを受け入れるための準備として起こるのですが、なんらかの反応が現れたからといって、すぐに準備が整うわけではありません。個人差があるものの、ペニスを挿入できるようになるまでにはもう少し時間がかかるのですが、性反応がまだ十分でない状態のうちに挿入をしようとすると、摩擦などで痛みを感じてしまうことがあるのです。

腟の入口付近が痛む性交痛はそうした、挿入を焦ることがきっかけとなって起こることが少なくありません。

しかし、中には「興奮もしていて性反応も起きているのに、なんらかの原因で潤滑液がうまく分泌されないために痛みを感じる」というケースもあります。

その原因とは、女性ホルモンの一種であるエストロゲンの不足や乾燥、水分の不足です。エストロゲンには腟粘膜の厚さを保ったり、性的興奮時に潤滑液を分泌したり、セックスをスムーズに行える状態を維持する役割があります。しかしエストロゲンの分泌量が不足すると腟粘膜が萎縮し、潤滑液が十分に分泌されない状態になることがあります。

40代後半を過ぎた更年期に差し掛かる年代に起こりやすいのですが、若い女性でも極端なダイエットなどをしているとエストロゲンが不足して濡れにくくなり、性交痛を引き起こすことがあるのです。

また、意外なところでは乾燥や水分不足も性交痛の原因となります。腟の潤滑液は水分ですから、水分不足で体が脱水状態に近くなっていると、体液が分泌されなくなって痛みの原因になります。加齢に伴って乾燥しやすくなることはもちろん、若い世代でも水分が不足すれば体液が分泌されにくくなります。

そのほか、きつい下着や生理のときのナプキンなどが刺激となって腟周辺にかゆみや炎症が起こり、結果として痛みが生じることもあるでしょう。

腟の中や奥が痛い場合

一方で腟の中や、腟の奥の子宮に近い部分に痛みを感じるという人もいます。宋先生いわく、「性交痛があるとして相談にくるケースで多いのは、腟の入り口付近よりも、中や奥が痛むという悩み」とのこと。その場合の主な原因としては、以下のようなものが考えられます。

・子宮内膜症などの病気
・子宮後屈など内臓の位置関係によるもの
・パートナーと自分の体格差
・婦人科手術や骨盤内感染の後遺症
・コンドームなどのアレルギー

腟の奥、子宮に近い部分がセックスの際に痛むことの原因として多いのが、子宮内膜症です。

腟の奥のお腹の中にはダグラス窩という子宮と直腸の間のすき間があります。ここは子宮内膜症ができやすい部分で、子宮内膜症によって子宮と直腸の癒着が起こることがあります。セックスのとき、癒着した部分にペニスが当たると性交痛を感じることがあるのです。

「特定の体位になると性交痛がある」という場合は、子宮後屈(しきゅうこうくつ)の可能性が考えられます。子宮後屈とは、上のイラストのように本来、体の前側に向かって傾いているはずの子宮が、背中側に向かって傾いている状態のことをいいます。

子宮後屈そのものは、特別な異常がない限り治療が必要なことではありませんがセックスの際、子宮体部の方向にピストンを運動されると痛みを感じることもあります。

またレアケースではありますが、ペニスの長さと腟の長さが合わないことで痛みにつながったり、ゴム(ラテックス)アレルギーがある人はコンドームの素材によって腟に炎症が起き、痛みが生じたりすることもあるようです。

腟にうるおいを足すために使う潤滑ゼリー(ローション)も、素材によっては粘膜に炎症などのトラブルを発生させ、性交痛の原因になることも。

そのほか、子宮頸がんの円錐切除や尿失禁の機能再建手術など婦人科手術の術後合併症として性交痛が生じることも少なくありません。

「性交痛をなんとかしたい」。痛みをなくすための対処法

セックスはパートナーとの大切なコミュニケーションのひとつです。せっかくだから気持ちのよいセックスをしたいのに、痛みがあって楽しめないのはつらいですよね。その悩みを解決するための方法をいくつかあげてみました。

腟の入り口付近が痛いとき

・前戯に時間をかける
・排卵日前にセックスをしてみる
・水分をたっぷりとる
・潤滑ゼリーを使ってみる

先ほども説明したように、腟の入り口付近に痛みを感じる理由の多くは、ペニスを受け入れるための準備が不足していることに起因しています。まずは前戯に時間をかけ、しっかりと性反応が起こってから挿入するようにしてみてください。

興奮を感じているのに濡れにくく、痛みが生じやすい場合は、腟からの分泌物が多くなる排卵日付近にセックスをしてみるのも、ひとつの解決策として有効です。ただし、妊娠の可能性が高まるので、妊娠を望まない場合はいつも以上に避妊に気を配りましょう。

そのほか水分を十分にとったり、潤滑ゼリーを使ってみたりするのもいいですね。潤滑ゼリーは「かぶれにくい」などの表記があって、なるべく刺激が少なく、使用感が長続きするものを選ぶとよいでしょう。

腟の中や奥が痛いとき

・婦人科を受診する
・体位を変えてみる
・体格差をカバーする

腟の奥のほうに痛みを感じる場合は、先ほども説明したように子宮内膜症などの病気が隠れている可能性が考えられます。まずは一度、婦人科を受診してみてください。

腟の奥のほうは自分では見えない場所のため、「病気かも」といわれると受診するのが怖くなるかもしれません。しかし、一生付き合っていく自分の体です。放っておかずに大切にしてあげましょう。最初のハードルを越えてしまえば、その後は何かあったときに、かかりつけの婦人科として気軽に頼れるようになるはずです。

軽度の子宮内膜症や子宮後屈の場合、痛い箇所に当たらないような体位を探してセックスを楽しむことが可能です。

また、特に病気や異常でない場合でも、腟の奥のダグラス窩あたりに痛みを感じる場合は、ペニスの当たり方に原因があることも考えられます。痛みを感じる部分に当たらないような体位を探してみましょう。

例えば同じ正常位でも、パートナーが上半身を起こした姿勢と、体を寝かせて女性に抱きつくような姿勢とでは、ペニスの当たる位置が変わります。クリトリスをはじめとした女性の性感帯は、基本的に体の手前側に集中しているので、奥に当たらない体位でも快感を得ることはできます。

性交痛のある場合には、女性がうつぶせになった後背位、いわゆる「寝バック」の体位が痛みを感じにくいとされています。体位を工夫してみましょう。

体だけでなく心理的な原因の場合も

性交痛の中には、過去の経験における心理的な原因によって痛みを感じているケースもあります。

過去にセックスをしたときに痛みがあり、それがまた今回も起こるのではないかという気持ちから、体がこわばって痛みを感じてしまうことも少なくありません。そうしたことを繰り返すことで徐々に性的興奮が起こりにくくなり、ますます痛みが生じたり、性欲自体の低下につながったりすることもあるでしょう。

心理的なことによる痛みはなかなか解決が難しいのですが、「挿入をしなければ痛みがない」という場合は、挿入なしのラブコミュニケーションをはかるという選択肢もあります。

挿入だけがセックスではありません。パートナーのペニスを受け入れることだけにこだわらず、2人で楽しめる方法を試しながら、少しずつセックスの痛みがなくなる方法を探していきましょう。

(文・構成:山本尚恵、監修:宋美玄先生)

※画像はイメージです

参考文献

[*1] ジェクス ジャパンセックスサーベイ2020
https://www.jfpa.or.jp/sexsurvey2020/

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