楽しさが一緒よりも、寂しさが一緒のほうが大切だと思う
時は江戸時代。刀ではなく“包丁侍”として藩に仕え、料理で動乱を乗り越えた実在の家族を描く映画『武士の献立』。剣の腕は立つのに、料理はからっきし苦手な舟木安信を演じるのは、本作が初の時代劇本格出演となる高良健吾さん。料理修業のエピソードや、理想の夫婦像など、映画にまつわる高良さんの想いを語っていただきました。
【プロフィール】
高良健吾さん
1987年生まれ。熊本県出身。2006年に『ハリヨの夏』で映画初出演。『M』(07)で第19回東京国際映画祭“日本映画・ある視点”部門特別賞受賞以降、数々の映画作品を中心に活躍。NHK朝の連続テレビ小説『おひさま』(11)で第36回エランドール賞新人賞・テレビガイド賞受賞、主演映画『軽蔑』(12)で第35回日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞。『横道世之介』、『千年の愉楽』、『県庁おもてなし課』、『潔く柔く』、『ルームメイト』、『かぐや姫の物語』(13)などの出演作品ほか、今後は『私の男』(14)などが公開予定。▼高良健吾 オフィシャルサイトはこちら
Text:Kumi Mizuno
安信は子どもっぽくて不器用でも、気持ちはわかります
映画『武士の献立』で高良健吾さんが演じる舟木安信は、由緒ある“包丁侍”の舟木家の跡取りでありながら、料理は大の苦手。安信の父の意向で、料理上手の出戻り娘・春(上戸彩)と結婚し、ぶつかり合いながらも夫婦二人三脚で成長していく姿を描きます。安信の印象については、「子どもっぽくて、すごく不器用」と話す高良さん。「でも、気持ちはわかります。春と結婚したのは自分の望んだことではないし、家族のために夢や好きな人を諦めなきゃいけなかったり。安信はそういう想いが態度や口に出てしまって、不器用なんだけど、すごく素直だと思います」そんな安信を演じる上で、見せ場となるのは数々の料理シーン。それまで、ほぼ料理をしたことがなかったという高良さんは、クランクインの2カ月前から料理の練習を行ったそうです。「教えてくれた先生がすごくいい方で、かならず1回は失敗させてくれるんです。何も言わずに見ていてくれて、自分が止まったり、あれ? と思ったときに、なぜこうなったかというのをわかりやすく教えてくれて。僕はその先生が好きだったから、料理が好きになれたし、一緒に練習していて楽しかったです」その成果もあり、魚をさばくシーンもカッコよく披露されていましたね!「思ったより難しかったけど、苦手意識はなくなりました。僕が思うに、安信はセンスがあると思うんです。それは家柄や血筋なのかもしれない。でもそこに対して向き合わなかったからできないわけで。ちゃんと向き合ったらできる。それは人に対してもそうだし、自分の夢に対しても同じだと思うんです」
ちゃんと会話がある夫婦っていいなと思いますね
高良さんは、安信の妻・春を演じる上戸彩さんの印象を、「やっぱりプロですね。スイッチのオンオフもすごいし、現場でのあり方も堂々としていて。イヤなことも修羅場も、半端なくくぐり抜けてきている方だと思う」と、感服された様子。そんな上戸さん演じる春は、料理上手で安信の4歳年上、しかもちょっぴり気が強い出戻り娘。安信を一人前の包丁侍にすべく、積極的に料理指南をしていきます。「女性が男性につっかかるなんてことは、昔だったらあり得ないですよね。でも、この映画の中ではありなんです」と笑う高良さん。そんな春と安信の夫婦像を、高良さんはこうとらえたそうです。「お互いを埋め合っている感じがするし、とにかく安信が春に支えられている感じがすごくします。僕は、楽しさが一緒というよりも、寂しさが一緒というのがすごく大切だと思う。この夫婦にも、それがきっとある気がします。自分で演じると客観的になれなくて、『安信はステキな嫁さんもらったなぁ』という感じですね」では、高良さんご自身の理想の夫婦像とは?「会話がある夫婦。会話は、たくさんしゃべればいいとかではなくて、ここはちゃんと話し合わなくてはいけないというときにちゃんと話し合いができたり、互いに話を聞いてほしいときには聞いてあげたり。そういう会話がある夫婦が理想です」安信と春の会話では、ときに「ナツ殿」「ハルです……」なんて、くすっと笑ってしまうユーモアもたっぷり。高良さんも「ステキな嫁さん」と語る春の姿からは、奥さんとしてのヒントがもらえそうです。
大人を極めている人たちにはちゃんと子どもの心がある
11月に、26歳の誕生日を迎えたばかりの高良さん。映画を中心にますますご活躍中ですが、今年公開のご出演映画だけでも、なんと9本!「15歳の役のあとに、いきなり武士、みたいな(笑)。けど、そこに違和感はないんです。たくさん作品をやることがいいこととは思わないけど、切り替えに1カ月準備があろうと1日だろうと、自分の気持ちを持っていく事でしかないので。その役に対して準備するというよりは、毎日仕事だから普通に生きている中で常に何か準備してなくてはいけない。それが仕事だと思う。楽しいことだけではないし。でも幸せは感じます」一つひとつの仕事に真剣で、見た目以上にエネルギッシュな高良さん。好奇心旺盛な性格は、子どものころから変わらないと言います。「いろんなことに興味を持つところや、わくわくするところは幼稚園のころから変わってないですね。でも、昔は無意識にできたことが大人になるといろいろ気づいていくから、常に“意識すること”は必要だと思うんです。毎日が勝手に来るのではなく、自分たちから行かなくてはいけないと思う。ちゃんと大人を極めている人たちには、ちゃんと子どもの心があると思うんです」今回も、時代劇というご自身の新境地を開いた高良さん。映画『武士の献立』について、「『加賀の誇りを料理で取り戻す』というセリフがあるんですが、相手を斬るのではなくて“おもてなし”というか、料理で誇りを取り戻すというのがおもしろいなと思います。チャンバラだけが、その時代のすべてではない」と、魅力を語ってくださいました。
『武士の献立』(配給:松竹)
すぐれた味覚と料理の腕を持つが、気の強さが仇となり1年で離縁された春(上戸彩)。加賀藩の料理方である舟木伝内(西田敏行)にその才能を買われ、息子・安信(高良健吾)の嫁にと懇願されて2度目の結婚を決意。舟木家は代々、藩に仕える由緒ある包丁侍の家。しかし、夫となる跡取りの安信は料理が大の苦手、しかも4つも年下。春は姑の満(余 貴美子)の力も借りながら、必死に夫の料理指南をはじめるが……。夫・安信とぶつかり合い、時にすれちがい、次第に心を通わせながら夫婦愛と家族の絆を深めていく、ユーモアあふれるヒューマンドラマ。加賀藩に実在した舟木親子が残す献立集をもとに、江戸時代の武家や庶民が実際に食べていた料理を、スクリーンで忠実に再現する。●12月14日(土)より全国ロードショー。12月7日(土)石川先行ロードショー▼『武士の献立』公式サイト