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【#4】「家の呪縛を断ち切りたい」地元の男尊女卑から解放された紗希子さんの場合・前編

#母にならない私たち

月岡ツキ

高橋千里

“子どもを持たないこと”を選択した既婚女性への匿名インタビュー連載「母にならない私たち」。その決断をした理由や、夫との関係性、今の心境など……匿名だからこそ語れる本音とは?

結婚するかしないか、子どもを産むか産まないか。女性に選択肢が増えたからこそ、悩んでしまう時代。本連載では、子どもを持たないことを選択した既婚女性に匿名インタビューを実施。

「どうして子どもを持たないことを選択したの?」「パートナーとどう話し合った?」「ぶっちゃけ、後悔してない?」……などなど、顔出しでは言えないような本音まで深掘りします。聞き手は、自身もDINKs(仮)のライター・月岡ツキ。

藤森紗希子さん(仮名/37歳)は関西在住、放送業界でプロデューサーをしている。2つ年上でディレクターとして働く夫とは、仕事の都合で別居婚をしているものの、とても仲が良い夫婦だそう。

いつもマメに連絡を取り合い、「一緒にいられて本当に幸運だと思えるくらい気が合う」という二人が「子どもを持たない」と選択した理由は、「“家の呪縛”から解放されたいから」というものだった。

別居婚でも仲良し。「夫婦」というより「パートナー」

私は放送業界でプロデューサーとして働いています。同じ業界でディレクターとして働いている夫とも、仕事を通じて知り合いました。お互いまだ20代前半の若手だった頃に出会って、長く付き合ってから結婚したので、もう15〜16年は一緒にいます。

結婚生活のうち、数年間は一緒に海外に住んで映像の仕事をした時期もありました。今は仕事の都合で別居婚という形を取っていますが、よく行き来しますし、しょっちゅう連絡を取り合うくらい仲が良いです。

「今日これ食べておいしかった」とか「テレビでこんなのやってる」とか、取り留めのない連絡をいつも取り合っています。電話したら余裕で2〜3時間は経ってしまうくらい。

夫と私は本当に気が合う者同士で、「夫婦」というより「パートナー」という関係性がしっくりきます。外交的でポジティブな私と、内向的でクリエイター気質の夫。それぞれがお互いにないものを持っているので、足して2で割るとすごくちょうど良い。「私たちって、本当に相性が良いね」とよく夫婦で話しています。

結婚するときも「結婚したからといってお互いを“家族”として縛ることはせず、お互い自由な者同士として、何も変わらないでいたいね」と話していました。

お互いが「自由」でいることと、それを尊重し合うことが、私たち夫婦のキーワードだと思います。

夫を苦しめる「本家の長男」という呪縛

そんな私たちですが、お互いの親族に関するゴタゴタは、若い頃から一緒に乗り越えてきました。

というのも、夫も私も九州出身なのですが、それぞれの実家がかなり古い“家父長制・男尊女卑”体質なんです。しかも、どちらも長女と長男。二人とも子どもを持ちたくないと思っているのは、それぞれが幼い頃から家族に縛られて、自由に生きられなかったことが大きく影響しています。

私は長女で、弟がいるのですが、いつも男である弟の方がさまざまな面において優先されていました。

大学受験のとき、私は両親から「浪人はダメ」と言われていたのに、弟は浪人が許されていたり、私だけ「お姉ちゃんなんだから、将来は親の近くに住むのが当然」と言われたり。「お姉ちゃんなんだから」「女の子なんだから」をしきりに言われ、弟がしていない我慢をずっとさせられてきました。

私の家だけでなく、同郷の女友達の中には、東大に合格したのに親に許してもらえなくて結局入学できなかった子や、「娘は手元に置いておきたいから」と親に阻まれて故郷から出られなかった子もたくさんいるので、男尊女卑体質は私の地元の地域全体にあったんだと思います。こういった話は、私の周りには数えきれないほどあります。

一方で、夫の実家はいわゆる「本家」なので、長男である夫には「家を継いで親の面倒を見るという期待」があったようです。

ちなみに「本家の嫁」であった夫の母親は、親戚との関係性が原因で離婚し、家を出ています。そのときも夫は「本家の長男だから」ということで、父親の方につかざるを得なかったそうです。

私は「本家の長男の嫁」にあたるわけですが、交際中から義実家の行事の手伝いに駆り出されていましたし、結婚報告で各親戚の家を回ったときには、一言目に「いつこっちに引っ越してくるの?」と言われました。

私も夫も仕事で全国各地や海外を飛び回っているのに、何を言っているのか? と思いましたが、親戚の皆さんにとっては「長男夫婦が本家に戻ってくる」のは疑う余地もないことなんですよね。

結局、私も夫も実家には帰らずに暮らしていますが、今でも親戚からは「アホな嫁が本家の長男をたぶらかしているせいで、長男夫婦が本家に戻ってこない」という認識になっていると思います。

田舎のお葬式で受けた「嫁いびり」

同居はしていないものの、夫の父親、私にとっての義父は体調が思わしくないため、義実家の法事やお葬式などのイベントは全て「跡継ぎ」である夫が仕切らなければなりません。

結婚してすぐ義祖母のお葬式があり、二人で準備をしなければならなかったときは本当に大変でした。夫の田舎のお葬式ってすごく盛大で、しかも葬儀場でなく本家に人を集めてやることになったので、一大イベントでした。

私も夫も放送業界の人間なので、「プロジェクト:お葬式」と銘打って香盤表を作り、買い出しや業者の発注をし、さながら番組制作の裏側のようでした。

親戚からは「お茶の入れ方が良くない」とか「用意した菓子がおいしくない」とか、私へのいびりがキツく、体力的にも精神的にもかなりしんどかったです。

でも、合間に夫とコンビニへ買い出しに行って、車でこっそりおやつを食べたり、「もはや自分たちがドラマの主人公みたいだ」なんて言って笑ったりして、なんとか二人で乗り越えました。大変でしたが、夫婦の結束が強くなった出来事だったと思います。

その後も法事などのたびに義実家に帰省して、働いては親戚にいびられることが続いたのですが、見かねた夫は「俺がやれば誰も文句言わんやろ」と、嫁がやるべきとされているさまざまなことを自分でやってくれるようになりました。

夫は、自分の母も古い家のやり方や親戚付き合いに耐えかねて出て行ってしまったのを見ていたので、「また同じことを繰り返すのか」と憤ったのだといいます。

それ以来、私は一切法事に行かなくて良いことになり、親戚にも会わなくなりました。夫に対しても親戚は何かと口うるさかったのですが、LINEをブロックして連絡も取らないと宣言し、義父以外の親戚とは絶縁状態です。

その義父自身も、自分の両親の面倒を見るために本家に残らなければならず、やりたかった仕事を諦めた過去があったと後から知りました。だから、本家に縛られるつらさは義父が誰よりもわかるはずなんです。

“家の呪縛”を断ち切りたいから「子どもはいらない」

夫は、そうやって連綿と続いてきた「家」の呪縛を断ち切りたいから、子どもはいらないと言っています。「家のことで本当に苦しめられてきたから、もう自由になりたい。この苦しみは俺で終わりにしたい」と。

私も夫も、大人になってようやくそれぞれの「家」から解放されて、自由を手に入れました。子どもがいる生活も楽しいだろうとは思うのですが、それよりもやっと手にした自由を大切にしたい。それが、私たちが子なしを選んでいる理由です。

今は、私がどうしてもやりたい仕事が遠隔地にあり、夫も今住んでいる場所で大事な仕事があるので、一時的に別居婚の形をとっています。しかし、お互いの家族の問題を一緒に乗り越えてきた「戦友」でもありますし、離れていても夫婦仲はすごく良好です。

そんな私たちですが、子どもがいない夫婦でかつ別居婚をしていることで、とある疑いをかけられたことがありました。

(後編につづく)

「子なし夫婦」かつ「別居婚」であることでかけられた“疑い”とは? 後編の記事はこちらから。
https://woman.mynavi.jp/article/241225-3_12000673/

(取材・文:月岡ツキ、イラスト:いとうひでみ、編集:高橋千里)

※この記事は2024年12月24日に公開されたものです

月岡ツキ

1993年長野県生まれ。大学卒業後、webメディア編集やネット番組企画制作に従事。現在はライター・コラムニストとしてエッセイやインタビュー執筆などを行う。働き方、地方移住などのテーマのほか、既婚・DINKs(仮)として子供を持たない選択について発信している。既婚子育て中の同僚と、Podcast番組『となりの芝生はソーブルー』を配信中。創作大賞2024にてエッセイ入選。2024年12月に初のエッセイ集『産む気もないのに生理かよ!』(https://amzn.asia/d/7nkb2q6)を飛鳥新社より刊行。
X:@olunnun
Instagram:@tsukky_dayo
note:https://note.com/getsumen/

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高橋千里

高橋千里(たかはし ちさと)

2016年にマイナビ中途入社→2020年までマイナビウーマン編集部に所属。タレントインタビューやコラムなど、20本以上の連載・特集の編集を担当。2021年からフリーの編集者として独立。『クイック・ジャパン/QJWeb』『logirl』『ウーマンエキサイト』など、紙・Webを問わず活動中

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