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【#3】夫の闘病の末、“子なし”を選択。「幸せの価値」に気づいた由衣さんの場合・後編

#母にならない私たち

月岡ツキ

高橋千里

“子どもを持たないこと”を選択した既婚女性への匿名インタビュー連載「母にならない私たち」。その決断をした理由や、夫との関係性、今の心境など……匿名だからこそ語れる本音とは?

結婚するかしないか、子どもを産むか産まないか。女性に選択肢が増えたからこそ、悩んでしまう時代。本連載では、子どもを持たないことを選択した既婚女性に匿名インタビューを実施。

「どうして子どもを持たないことを選択したの?」「パートナーとどう話し合った?」「ぶっちゃけ、後悔してない?」……などなど、顔出しでは言えないような本音まで深掘りします。聞き手は、自身もDINKs(仮)のライター・月岡ツキ。

エンタメ関連の会社で若くして管理職として働く高見由衣さん(仮名/33歳)は、夫の難病をきっかけに子どもを持たない選択を取ることになった。

闘病生活が落ち着き、今は夫婦二人暮らしを楽しんでいる由衣さんだが、病と闘う夫を支える経験から、気づいたことがあったという。

前編の記事はこちらから

https://woman.mynavi.jp/article/241124-2_12000673/

妊娠・出産を知らされず、疎遠になった友達

子どもを持たないと決めたあとショックだったのが、子どもを産んだ友達と疎遠になったことです。

その友達とは、もともとすごく親しい間柄でした。ですが、妊娠・出産を知らされず、距離を取られているような感じがありました。彼女に子どもができたと知ったのは、SNS経由でした。

彼女は、夫の闘病の末に私たち夫婦が実子を授かりにくくなったと知っていたので、自分に子どもが産まれたことで気を遣ったのかもしれませんが……虚しい気持ちになりました。

他にも、年齢的に同世代が続々と親になってきているので、インスタグラムの投稿は友達の子どもばかり。「友達の○○ちゃん」じゃなくて「△△ちゃんのママ」になっちゃったんだな……と距離を感じることもあります。

子育て中の人にとっては子どもが生活の中心で、喜びも悩みも子どもに関することばかりになるのもわかります。

でも、私がフォローしているのは友達本人のSNSであって、友達の子どものSNSではありません。正直「興味があるのは子どもじゃなくてあなたなんだけど……」と思うこともあります。

私も私で、子どもがいる友達は「忙しそう」「大変そう」という印象が強いため、育児の合間を縫って会う時間を作ってもらうのはなんだか申し訳なく、食事や遊びにはどうしても子どもがいない人を誘いがちです。

自分から距離を取ろうとしているわけではないものの、こうして、子持ちの友達とは疎遠になるのかもしれません。

管理職として、子持ち社員に感じること

私の職場は男女ともに子どもがいる人が多く、産休・育休を取ったり、オフィスに子どもを連れてきたりと、子育て社員に寛容な空気だと思います。

業界や職場の環境的に、誰かが子どもの用事で休んだ穴を他の人が埋める、ということが発生しにくいので、子持ちの社員にモヤモヤすることはあまりないですね。

でも、すごく真面目な打ち合わせをしているときにお子さんがZoomに入ってきたりすると、正直「ちょっと今は和んでいる場合じゃない……!」と思うことはあります(笑)。

また、うちはエンタメ系の会社なので、仕事柄、社員は今流行っているコンテンツをある程度は知っておくことが大切なのですが、子育て中の人はどうしても映画やドラマを見る時間が取れないようで、若干の情報格差があると感じます。

「子育て経験が仕事に活きる」という考え方もありますし、実際にキッズ向けコンテンツの解像度が上がって、新しい領域に活躍の場を広げているクリエイターも見かけます。

一方で、寝不足や体調不良が増えたり、打ち合わせ時間が取りにくくなったりと、大変そうな子育て中の社員も一定数います。

管理職としては、社員それぞれの事情に合わせて、任せることを変えたり、打ち合わせの時間を調整したりと、なるべく寄り添いたいとは思っています。

闘病中の夫を支えてわかった「人と向き合うこと」の重要性

でも、私も「闘病中の夫」というケアが必要な存在と一緒に暮らした経験があるので、子持ちの社員の気持ちが少しわかるようになった気がするんです。子どものケアと大人のケア、どちらも経験したわけではないので、同じと言えるかは分かりませんが。

夫が闘病する前は、自分で言うのもなんですが、私はあまり優しい人間とはいえませんでした。他人のことに無関心だったり、誰かに相談事をされてもどう向き合えばいいかわからなかったり、連絡を無視してしまったり。他者に積極的に関わっていくタイプではなかったんです。

でも、夫の病気が分かって闘病を支えるようになってから、「人と向き合うってこういうことなんだ」「相手を大事に思う気持ちはこうすれば伝わるんだ」と、たくさんのことに気付かされました。

「あなたを気にかけていますよ」という姿勢を見せたり、ちょっとした声掛けをしたりする気遣いができるようになって、人との関わり方が変わったと思います。相手への関心を持ち続けて、関係性を諦めない粘り強さを持てるようになりました。

「子どもを育てることで人として成長できる」という言説がありますが、私は子どもに限らず「一人の人間としっかり向き合う経験」こそが、人を成長させるんだと思います。

子どもがいたとしても、いい加減に関わっていたら人は変われないし、子どもがいなかったとしても、パートナーや家族や友人、もしかしたら動物でも、他者とコアの部分でしっかり対峙できたとしたら、その経験が人を成熟させるのだと。

人には一人ひとりに違う感情があって、それぞれに嫌なことや嬉しいことがある。その気持ちを尊重するコミュニケーションは、夫との生活の中で学びました。

仕事中心の生活をしている私ですが、時に仕事よりも大切な相手との時間を優先できる人の方が、人として信頼できるのではないかと最近は思います。他者に寄り添うことで得られる成長は、仕事で得られる成長とは違う種類のものなんですよね。

子どもを残さない人生で「後世に残したいもの」

私の人生の中で、後世に「子ども」を残せないのだとしたら、別の何かを世の中に残したい気持ちが強いです。

私自身が幼少期や思春期の辛かった時期にエンタメに救われた経験があるので、自分の仕事でそういうコンテンツを残せたらいいなと思っています。仕事を通して世の中を少しでも良くできたらと。

私が関わったコンテンツで誰かの人生が良い方向に動いたり、救われたりしたとしたら、社会に少しは貢献できたと思える気がしています。

あとは、このまま夫と仲良く元気に暮らせたら何も言うことはないですね。なんでもない普通の日を一緒に楽しく過ごしながら、ずっと元気でいてほしいです。

インタビュー後記(文:月岡ツキ)

「子育てで人は成長する」というのは本当なのかもしれないけれど、子どもを産んだら自動的に人が成長するわけではない。

子どもを持ってこそ一人前だ、と言う人は「どのような子育て経験が人間的成長に繋がるのか?」 ということまでは教えてくれないが、由衣さんの話のなかで出てきた「『一人の人間としっかり向き合う経験』こそが、人を成長させる」という言葉はすとんと腹に落ちた。

そもそも、人として成長するために他者と関わるわけではないのだけれど、誰かのコアな部分と粘り強く対峙することで、人間の多面性を知り、他者に寛容になれたり、ものごとの見方が広がったりする。そういう経験がひいては自分自身を助けるのだと思う。

由衣さんは、「闘病中の夫」というケアが必要な人と暮らす経験をしていて、それは側から見れば大変そうなのだけれど、由衣さんは「夫のおかげで人としてバランスが取れるようになった」「夫と関わったから人に優しくなれた」と言う。

それは「ケアが必要な人と暮らしているから人として成長した」ということではなく、由衣さんが逃げず怯まず、夫と関わり続けたからこその結果だ。

子育てをしている人と距離ができたり、分かり合えなかったりすることも確かにある。しかし、それは子どもの有無に起因する分かり合えなさというより、そもそも他者と関係を保ち続けるには、相手がどのような属性であってもそれなりに労力がいるというだけのことではないか。

大切なのは粘り強く他者と対峙して、関係性を築くのを諦めないこと。そんな当たり前のことに気づかせてくれるインタビューだった。

(取材・文:月岡ツキ、イラスト:いとうひでみ、編集:高橋千里)

※この記事は2024年11月25日に公開されたものです

月岡ツキ

1993年長野県生まれ。大学卒業後、webメディア編集やネット番組企画制作に従事。現在はライター・コラムニストとしてエッセイやインタビュー執筆などを行う。働き方、地方移住などのテーマのほか、既婚・DINKs(仮)として子供を持たない選択について発信している。既婚子育て中の同僚と、Podcast番組『となりの芝生はソーブルー』を配信中。創作大賞2024にてエッセイ入選。2024年12月に初のエッセイ集『産む気もないのに生理かよ!』(https://amzn.asia/d/7nkb2q6)を飛鳥新社より刊行。
X:@olunnun
Instagram:@tsukky_dayo
note:https://note.com/getsumen/

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高橋千里

高橋千里(たかはし ちさと)

2016年にマイナビ中途入社→2020年までマイナビウーマン編集部に所属。タレントインタビューやコラムなど、20本以上の連載・特集の編集を担当。2021年からフリーの編集者として独立。『クイック・ジャパン/QJWeb』『logirl』『ウーマンエキサイト』など、紙・Webを問わず活動中

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