仕事はやり方より「あり方」を大切に。エムスリーソリューションズ株式会社 取締役・小泊瑠美子さんの素顔
経営者やいわゆる「リーダー」って、どうしても私たちとは違う世界の人……と思ってしまいがち。でも、リーダーたちも毎日寝て、起きて、ご飯を食べて……そして仕事をしている普通の人。そんなリーダーの素顔を探るべく、「子どもの頃はどんな子だった?」「毎日どれくらい働いている?」「やっぱりタワマン住みですか?」など、素朴な疑問をぶつけます。
取材・文:ミクニシオリ
撮影:大嶋千尋
編集:松岡紘子/マイナビウーマン編集部
あなたは、働く中で会社のやり方、チームのルールに疑問を感じたことはありますか?
「もっといいやり方があるのに」、そう感じながらも目の前の成果を出し続けなければならないのは苦しいですよね。理想と現実の狭間で自身のキャリアやスキルを磨き、とある企業で役員までに上り詰めた女性がいます。
エムスリーソリューションズ株式会社で取締役を務める小泊瑠美子さんは、31歳で母となった後も仕事に向き合い続けてきました。幼い頃から正義感が強く、葛藤することもあったという彼女ですが、部活や受験での挫折、人生における先輩との出会い、そして出産を経て、メンバー時代を働き抜き、リーダーとして活躍しています。
「まず任された領域で結果を出さねば、発言権はなかった」と語る小泊さん。子育てと仕事を両立しながらも、彼女が取締役となるまでキャリアを築けた理由を探ります。
小泊瑠美子(こどまりるみこ)さん
1977年生まれ、長崎県佐世保市出身。新卒でリクルートに入社後、制作や営業、新規事業の立ち上げ・推進などに従事。その後、日本M&Aセンターではインサイドセールス部隊を立ち上げ、統括するポジションを担当する。2022年にエムスリーソリューションズ入社。2023年7月より取締役に就任。プライベートでは中3男子と小5女子の2児の母。
人生の大先輩との出会いと、出産が大きなターニングポイントに
Q.1 幼少期はどんな性格でしたか?
小学校の通知表を見返してみると「責任感」や「コツコツした努力」を評価してもらうことが多かったみたいです。考えごとが好きで、ひとり図書館にこもってミステリーや歴史小説、宇宙の本を読みふけっていました。幼いながらに周りの子とはちょっと違うように感じていたかもしれません。
Q.2 思春期は学校でどんな存在でしたか?
中学校ではスポーツにも注力してみたくなって、バレーボールの強豪チームに所属し、人生ではじめての挫折を経験しました。勉強は比較的できたので、生徒会を任されたりしていましたが、バレー部ではどんなに努力しても、球拾いから抜け出すことができませんでした。生活面では、正義感が強いところがあり、素行の悪い生徒に注意をして怪我をしたり、九州男児の強面の父に正面から口答えすることも増え、母をヒヤヒヤさせていたようです。
Q.3 学生時代に注力したことはなんですか。
中学の部活動で挫折し、高校では勉強にも集中できなくなってしまって、受験は上手くいきませんでした。国立大学に進学しましたが、仕送りをしてもらってまで大学に通う意味を見出せませんでした。そんな時、地元の先輩に「世界は広いということを忘れないで」というアドバイスをもらい、縁あって始めたNGO活動が私の人生のターニングポイントになりました。
フィリピンでストリートチルドレンの支援をしながら、滞在費がなくなったら帰国して、バイトを詰め込む日々でした。充実していましたが、将来を描けない自分もいました。そこでNHKの現地リサーチャーをしている日本人女性と知り合い、こう助言を受けました。自分の生活すら賄えない若い人がボランティアなんてとんでもない、まずは日本でしっかりと社会人経験を積みなさい、それからでも遅くない、と。その言葉がすとんと腑に落ち、急いで帰国し就職活動をしました。
Q.4 これまでのキャリア変遷を教えて下さい。
新卒時は高校の時によくしてくれた先生の出身でもあった、リクルートへ入社しました。NGO活動で出会った女性のアドバイスを参考に、女性でも前線でしっかりと仕事をさせてくれそうな職場を選びました。自分の足で立ちたい、という一心でした。
リクルートでは制作や営業職として忙しく働き、6年目からはずっとやりたかった当時新規事業であった、「スーモカウンター」というサービスの立ち上げにイチから携わりました。今思い返すと、20代から厳しく育ててくれたリクルートには感謝しかありません。その後31歳で出産し、40代を目前に違う環境でも通じるか試してみたくなって、39歳の時に日本M&Aセンターに転職。6年後に、現在の株式会社エムスリーソリューションズに転職しました。
キャリアにおける大きな転換期は、妊娠と出産でした。それまでは一生懸命になりすぎて空回りし、仕事の結果や上司、先輩から思ったような反応がないとモチベーションダウンしていました。しかし子育てによって時間の制約が生まれ、何もかもを完璧にやれなくなったことで、肩の力が抜けました。価値や貢献に集中するようになりましたね。働き方に雑念がなくなり、シャープになったと思います。
リーダー職の方が、メンバー時代より「自分らしく働けた」
Q.5 取締役になった時の心境を教えてください。
改めて強く思ったのは、社会に出た時から現在に至るまで、「いい仕事がしたい」「一人前になりたい」という想いにずっと変化がないということです。新卒社員として東京にやってきたあの日から、その思いで突き進んできましたし、役職に関わらず大切にし続けたいですね。
Q.6 リーダー職についてから大変だったことはありますか?
私個人としては、リーダー職に就いてからの方が働きやすいです。メンバー時代の方が、不遜にも「もっといいやり方があるのに」と思うことが多く、理想と現実、全体最適と個別最適、組織と個人の狭間で惑うことも。逆にマネジメントする側になってからは、情報量や影響力が増し、自分で考えた打ち手を実践できる場が広がり、より自分らしく働けているように感じます。
Q.7 リーダー職として気をつけていることはありますか?
異業種から役員としてジョインしたので、業務理解や人間関係は一から積み重ねる必要がありました。これまで、二度の産休育休からの復職と転職が1回あり、短期での業務キャッチアップは慣れていましたが、今回は責任の伴う転職だったので、求められる役割と責任をしっかり果たすことを心がけています。また、時間の許す限りメンバーと会話し、一次情報を拾うようにしています。エムスリーはもともと風通しのいい協力的な風土の会社なので、大変助けられています。
Q.8 仕事でやりがいを感じるのはどんな時ですか?
エムスリーソリューションズにジョインしてから、人材の採用や育成に注力してきたので、医療DXに熱意のある方に面接で出会えた時は嬉しいですし、自身が採用した方の成長を見聞きしたり実感したりした時も、大きな喜びを感じます。また、私自身は戦略を練るのが好きなので、自分が思い描いた通りにマーケットや物事が動くと、ニヤリとしてしまいますね。
Q.9 仕事終わりやお休みの日は何をされていますか?
仕事中は30分単位で予定が入っているのですが、アウトプットは日中で終わらせ、家には持ち帰らないようにしていますが、仕事は好きなので、夜は考えを巡らせたり、インプットしたりする時間にあてています。
最近は寝る前にマンガアプリでマンガを読むのがちょっとした楽しみで、深夜12時に最新話が更新されるので、ついつい読んでしまいます。
子どもたちも随分手が離れてきて、休日はそれぞれ遊びに行くことが多いので、美容院に行ったり本屋に行ったり、比較的自由に過ごしています。コロナ以降、在宅で仕事をする機会も増え、ワークライフバランスは整いつつあります。
「何をするか」より「どんな自分でいたいか」を軸に突き進む
Q.10 マイブームはありますか?
最近は運動不足の解消を目的に、VRゲームの『Beat Saber』をやっています。なかなかストレス解消になりますよ。あとは、お世話になった前職の社長が「仕事ばかりしていると、自分とは違う世界や立場の人の気持ちが分からなくなっていくから小説を読むといい」とアドバイスしてくださったので子ども時代に戻って小説を読むようにしています。最近は辻村深月さんの『傲慢と善良』という小説が面白かったです。婚活中の主人公が見せる二面性が面白く、教訓もありました。
Q.11 プライベートのお悩みはありますか?
これからの日本は試練が続くと思うので、そんな日本を生きていく子どもたちに、どんな教育環境で何を経験させるといいのか、どんなスキルを身に着けるといいのか……。親ができることは大してないのかもしれませんが、自立できるよう、家族会議ではたいてい、このあたりが議題に上がっていますね。
Q.12 今後の展望を教えてください。
私は、仕事もプライベートも日々の「あり方」を大切にしています。常にリミットを外して、正しいことを正しく行うことや、いい仕事をすることを変わらず大切にしていきたいです。取締役としては、もっとメンバーに貢献していきたいですね。メンバーたちが抱える課題に一緒に向き合い、チームとしての結束を深めていきたいです。
※この記事は2024年02月15日に公開されたものです