「法律のプロ」から、企業の経営層へ。株式会社LIFULL CLO・平島亜里沙さんの素顔
経営者やいわゆる「リーダー」って、どうしても私たちとは違う世界の人……と思ってしまいがち。でも、リーダーたちも毎日寝て、起きて、ご飯を食べて……そして仕事をしている普通の人。そんなリーダーの素顔を探るべく、「子どもの頃はどんな子だった?」「毎日どれくらい働いている?」「やっぱりタワマン住みですか?」など、素朴な疑問をぶつけます。
取材・文:ミクニシオリ
撮影:洞澤佐智子
編集:松岡紘子/マイナビウーマン編集部
エンジニアや編集職など、個人で案件を進める時間が長い専門職のプレイヤーとして働いていると、なかなかリーダー職になった時の予測がつかないもの。
法律事務所に所属する弁護士としてキャリアをスタートし、現在は企業内弁護士として活躍する平島亜里沙さんも、リーダー職としての自分のあり方を模索しているといいます。
法律のプロとして法律事務所でキャリアをスタートした平島さんは、なぜ今、企業で働き、法務の最高責任者であるCLO(チーフリーガルオフィサー)に大抜擢されたのでしょうか。今回は、LIFULLでCLOとして活躍されている平島さんに、法務部としての苦労や人生の目標をお伺いしました。お話を聞いていくうちに、専門職のプロとしての「学び続ける」という、平島さんならではのリーダー像も見えてきました。
平島亜里沙さん
2003年10月弁護士登録。長島・大野・常松法律事務所でM&A・コーポレート案件を担当。2009年6月UC Berkeley School of Law卒業(LL.M.)。2010年米国ニューヨーク州弁護士登録。オハイオ州の法律事務所でトレイニーとして勤務。2011年6月日本マイクロソフト株式会社に入社し、主にコンシューマー向け製品等に関する法務業務に従事。2017年11月LIFULL入社。2018年2月よりグループ経営推進本部法務グループ長。2024年4月より現職。
幼少期から志した弁護士までの道のり
Q.1 幼少期はどんな性格でしたか?
サラリーマンの父とパート勤めの母の元に生まれ、4つ歳下の妹がいます。運動は得意ではなかったのですが、外でよく遊んでいましたね。でも、勉強するのも嫌いではなかったです。親からとやかく言われた記憶はないのですが、やればやっただけ身につくのが楽しいと思っていました。
Q.2 思春期は学校でどんな存在でしたか?
中学では新体操部に入ったのですが、土日も練習に行くことが多かったです。数学の女性の先生に憧れて、その人と話がしたくて職員室に通っていました。目立ちたがり屋だったので、合唱コンクールなどでは仕切る側に回っていましたし、先生からすると優等生に見えたかもしれませんね。
Q.3 学生時代に注力したことはなんですか。
幼い頃から「経済的に自立した人になりたい」と思っていて、割と早いタイミングから弁護士を目指そうと思っていました。資格を取れる仕事の方が続けやすくて安定しているだろうと思ったからです。
大学ではオーケストラ部に入り、1~2年の間はオーケストラ部の練習中心の生活でした。2年生からは予備校に通って司法試験に向けた勉強をしていましたが、大学受験が終わったと思ったらすぐまた勉強で、結局あまり身が入らず、4年生の時に受けた司法試験は不合格に。翌年再受験し、無事合格できました。
Q.4 これまでのキャリア変遷を教えて下さい。
2003年に弁護士登録し、国際的に活躍できる企業法務の弁護士を目指して入所した大手の法律事務所では、M&Aやコーポレート案件を中心に担当していました。その後、事務所のサポートを得てアメリカに留学し、ロースクールに通いました。卒業後にニューヨーク州司法試験に合格して、オハイオ州の法律事務所でトレイニーとして経験を積みました。
法律事務所に所属していた時は国内外の案件を担当し、かなり仕事に打ち込んでいましたが、留学を経て、ワークライフバランスと今後のキャリアの方向性を考慮した結果、企業内弁護士になる選択をしました。6年ほど大手外資系企業で働いた後、LIFULLに入社して法務グループ長を務め、2024年4月から法務部長・CLOに就任させていただきました。
Q.5 社会人になってから大変だったことはありますか?
小さい頃にはそこまで考えが至らなかったのですが、弁護士は一生勉強を続けていく必要があるのというのが、やはり大変ですね。受験~司法試験までもそうでしたが、留学のためにTOEFLにも挑戦する必要がありましたし、法律は変わっていくものなので「一度資格を取ったら終わり」ともいきません。
法律事務所時代は、普通の会社ほど先輩が丁寧に色々教えてくれるわけではないので、最初はとても不安でした。一つの文書をつくるのに何度も参考書や論文を読み直し、徹夜して作った資料が要件と合っていないといってパートナー弁護士から差し戻されたこともありました。
弁護士時代の苦労を企業法務としても生かす
Q.6 企業弁護士に魅力を感じたきっかけはなんですか。
アメリカから帰ってきた当時は子どもを生むかどうかを考えていたので、法律や英語に関わる仕事を続けながら子育てを両立するために、企業内弁護士に転向した方がよいのではないかと考えました。前職は外資系企業だったので、法務関係もアメリカ本社の決定比重が比較的高く、もっと自分のやっている仕事に自信ややりがいを感じたくて、日本企業への転職を決意しました。
また、転職理由の一つとして、自身の子どもに仕事の楽しさややりがいを伝えていきたいという想いもありました。転職活動をしていく中でLIFULLと出会い、「社会課題を事業を通じて解決する」という理念に惹かれ、この会社で働くことで社会貢献につながっていることをより強く感じながら仕事ができるんじゃないかと思い入社を決めました。今は、大きくなった子どもが弊社のテレビCMを見て「ママの会社だ!」と言ってくれるのも、やりがいにつながっています。
Q.7 現在のお仕事内容を教えてください。
メンバーはそれぞれ、各部署から来る法務相談や契約書のチェック、M&Aや新規事業案件の対応を日々こなしています。株主総会、取締役会など企業として必要な会議体の運営や規程管理も担当するメンバーもいます。私もメンバーと同じように担当をもちつつ、メンバーの案件をマネジメントしながら、CLOとしての役割を模索しています。
CLOというポジションは、本来社長や経営陣に法務観点から経営アドバイスを提供するものですが、弊社では新設ポジションということもあり、現在は会社とともにその役割を考えているところでもあります。まずは様々なセミナーに参加し、他企業のCLOや法務部のあり方をインプットしながら考えています。
Q.8 リーダー職に就いた時の心境を教えてください。
転職時はメンバーの募集を見て面接を進めていたのですが、たまたまマネージャーのポストに空きが出たということで、入社前に次期リーダーとしてのお誘いを受けました。まだ子どもも手を離れていませんし、リーダーの経験はなかったので不安はありましたが、今後のキャリアを考えた時に、管理職にチャレンジしてみたいと考えました。
Q.9 リーダー職に就いてから、大変だったことはありますか?
基本的には各メンバーの仕事をマネジメントしながら自分も担当案件をいくつか持っているので、プレイヤーとマネージャーのバランスをとることが難しいです。とはいえメンバーそれぞれの案件状況を把握する必要があるので、メンバーとのコミュニケーションは密に取るよう気をつけています。
また、私が管轄する法務グループは、ちょうど私が入社したタイミングで複数の部署が合併したんです。元々別の部署なので仕事のやり方なども違い、同じ部署になっても分断されている感じがしました。中には私自身も対応したことがない業務もあったので、その業務を担当している人に聞いて他のメンバーに共有し、グループ内でサポートができる体制をつくりました。そうした経験から、やはりコミュニケーションの重要性を実感しています。
Q.10 毎日のタイムスケジュールを教えてください。
一番長いのはミーティング時間ですね。社内で法務相談に乗る時、文書だけが送られてきて「チェックしてください」と言われることが多いのですが、きちんと話を聞いて前提を理解してからでないと、適切な答えを返すことができないんです。
法律事務所でのアソシエイト時代、パートナー弁護士の先生から依頼される資料作成がうまくいかなかった時に学んだのは、事前のヒアリングが大切だということでした。案件の内容や不安な点、相手がいる場合は先方の意見など、様々な部署と連携しながら要件をまとめ、回答していくので、ミーティングと資料作成の時間が長くなります。
日々精進。人生を通して、学び続けていく
Q.11 仕事でやりがいを感じるのはどんな時ですか?
複雑な内容の法務相談だと、すぐに回答を提供できない時もあるのですが、時々頭の中で点が線になって、その場でうまく回答できる時があるんです。それで案件がうまくいったと報告されると、嬉しいですね。お互いに社内の人間ということもあり、企業内の法務はより親身な立場で相談に乗ることができるので、案件の事情を深く知ることができるのが面白いです。早い段階から相談してもらえるとサポートもしやすいですし、誰かを助けられたという思いを強く感じられるのも嬉しいですね。
Q.12 仕事終わりやお休みの日は何をされていますか?
子育てがまだ落ち着いていないので、ゆっくり勉強したり本を読んだりする時間をとることがなかなか難しいのですが、家事をしながら本を朗読してくれるオーディオブックを聞くことが多いです。
Q.13 マイブームはありますか?
休日に一人になれる時は、家でヴァイオリンを弾いています。オーケストラ時代はトランペットで、弁護士になりたての頃に少しヴァイオリンを習っていたのですが、一人で楽しむ趣味として、最近再開しました。現在はワークライフバランスも比較的安定していますし、管理職なので早朝に仕事を始めるなど調整もできるので、子育てが落ち着けばもっと自分の時間が持てるようになると思っています。
Q.14 今後の展望を教えてください。
CLOとしては、経営陣の一員として法務の立場から会社運営や事業推進をドライブしていけるように尽力していきたいです。LIFULLのCLOとして自分が何をしていくべきなのか、自分にしかできないことは何なのかを追求してチャレンジしていきたいです。今後も情報のキャッチアップを続けながら、前例のない問題にも立ち向かっていきたいですね。
※この記事は2024年08月21日に公開されたものです