新型コロナウイルスの流行により、私たちの働き方は急激な変化を遂げました。毎日定時に出社することが当たり前ではなくなり、入社以来一度も会っていない同僚がいるなんていう話も珍しくなく、副業が許される企業も増えました。
しかし、様々な働き方が選択できるようになった一方、会社の規則や労働法でもカバーできない問題点も出てきました。これはOKなのか? NGなのか? そうした職場の労務にまつわるモヤモヤとした悩みを、社労士の村井真子さんが解説する『職場問題グレーゾーンのトリセツ』(アルク)より一部をご紹介します。
仕事中に私用のスマホを見てもいい?
【相談】仕事中にスマホを見てばかりの同僚。新人への悪影響が心配です。
⇒【アドバイス】勤務時間内のスマホの私的利用は、原則として認められません。
多くの企業では、服務規律や情報漏洩リスク防止の観点から、勤務時間中のスマホの私的利用を原則禁止としています。特に会社が貸与しているスマホは会社として守るべき情報にも多くアクセスできるため、利用範囲を限定していることもあります。就業規則に規定があれば、スマホの私的利用について懲戒処分をすることも可能です。
労働契約を結んだ段階で、労働者は会社に対して、職務専念義務を負うとされます。これは仕事の時間内は仕事に集中するという意味で、その対価として給与の支払いが行われます。ですから、スマホばかり見ているのは問題があると言えます。
仕事上の必要があってスマホを操作しているとしても、第三者からは何のために触っているのかがわかりません。したがって、基本的には私的利用は控えたほうがいいでしょう。実際に、トイレで1日20分程度のスマホゲームをしていた職員が戒告処分を受けた例(※1)もあります。
でも、家族や子どもに関する緊急の連絡が入ったり、こちらから家族へ連絡しなければならないことも十分想定できます。緊急やむを得ないスマホの利用は一定の範囲内で許されるべきだと思います。例えば、会社のパソコンを利用して業務中に私用メールを送る行為について、常識的に許される範囲であれば認められるべきだとした裁判例(※2)もあります。
スマホは高度な情報機器なので、本人が意図せずとも情報漏洩が行われたり、うっかり誤送信をする可能性もあります。勤務時間中はスマホをカバンから出さない・持ち込まないなどのルール作りや、勤務中の私用スマホは特定の場所でのみ認めるといった工夫によって、コンプライアンス意識の向上を見込めるといいですね。
※1 埼玉県の飯能市で2015年に行われた処分です。処分を受けた職員は1年にわたり1日3〜5回、1回5分程度スマホゲームをしていました。公務員には地方公務員法で職務専念義務が定められており、その違反として懲戒処分を科された例です。
※2 グレイワールドワイド事件(東京地判平成15年9月22日)
会社のパソコンを使った私用メールの送信が職務専念義務に違反するか否かが争われた事件です。判決では、労働者といえども個人として社会生活を送っている以上、就業時間中に外部と連絡を取ることが一切許されないわけではないとされ、業務に支障をきたさない程度の私用メールは許容されると判断されました。
※本記事は『職場問題グレーゾーンのトリセツ』村井 真子(アルク)より一部抜粋・編集しています
『職場問題グレーゾーンのトリセツ』村井 真子(アルク)
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「知らなかった」で損をしない、働く人の必携書
日本社会はかつてない速度で変化し、多様な働き方が定着しつつあります。でも、法律は現場の変化に追いついていません。また、法律を学ぶ間もなく、ぶっつけ本番で社会に出る人もたくさんいます。
例えば、何はセーフで、何がアウトでしょうか? 本書は、職場の問題に悩むビジネスパーソンのみなさんの参考になればと書きました。知識を武器に、自分の環境を整えたり、トラブル時に応急処置ができることを願っています。今日も明日も明後日も、みなさん一人一人が安心して働き続けていけますように。
※この記事は2023年07月03日に公開されたものです