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【vol.1】毎日数分だけ遅刻してくる後輩

#職場問題グレーゾーンのトリセツ

社会保険労務士・村井真子さんの著書『職場問題グレーゾーンのトリセツ』(アルク)をお届けします!

新型コロナウイルスの流行により、私たちの働き方は急激な変化を遂げました。毎日定時に出社することが当たり前ではなくなり、入社以来一度も会っていない同僚がいるなんていう話も珍しくなく、副業が許される企業も増えました。

しかし、様々な働き方が選択できるようになった一方、会社の規則や労働法でもカバーできない問題点も出てきました。これはOKなのか? NGなのか? そうした職場の労務にまつわるモヤモヤとした悩みを、社労士の村井真子さんが解説する『職場問題グレーゾーンのトリセツ』(アルク)より一部をご紹介します。

数分の遅刻でも契約違反になる?

【相談】毎日数分だけ遅刻してくる後輩。モヤモヤします。

⇒【アドバイス】決められた契約を守れないと、懲戒の対象になります。

会社と労働者は「雇用契約」という契約関係にあります。簡単にいえば、「会社の命令に従って労働力を提供します。その代わりに会社は給与を支払います」という約束を交わしている状態です。そして、遅刻はこの約束を破っていることになります。例えば、毎日午前八時から仕事を開始する、というのが始業時刻として定められているのなら、八時には仕事を開始できる状態でなければなりません。

ですので、毎日遅刻している後輩の人は契約違反の状態です。就業規則の懲戒の項目として多いのは、「遅刻・早退・欠勤が多いとき」です。これは遅刻している事実そのものに対する制裁という面もありますが、一人に遅刻されることによって会社全体の「勤労に向かう雰囲気」が乱れることを懸念している面もあります。たった数分だからと遅刻を見逃していると、まじめに定時出社している他のスタッフに示しがつかなくなります。会社にこのような規定があれば、懲戒処分を受ける可能性が高いでしょう。

また、「ノーワーク・ノーペイの原則(※1)」というものもあります。これは民
法に根拠があり、労働者側が会社に対して給与を請求できるのは労働を提供した後だというものです。つまり、企業が遅刻された時間の給与をカットすることは合法(※2)
です。実際、月給制であっても欠勤分を控除する「日給月給制」を採用している企業がほとんどですので、遅刻分の給与が差し引かれるのは制裁ではなく、単純にこの原則によるものです。

「でも、電車が遅延するんだけど……」という場合もあるでしょう。これも程度によります。通勤時間帯の電車はダイヤが乱れることも多く、車通勤でも「この道はいつも混む」というポイントはあるものです。しかし、それが頻繁に起こることであるなら、それを見越して少し早く出ることも可能です。たかが遅刻、されど遅刻。社会人としての常識を疑われる行為ですので、後輩の人が考えを改められるといいのですが。

※1 ノーワーク・ノーペイの原則は、民法第624条の次の記載が根拠とされます。「労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない」

※2 三協工業事件(東京地方裁判所昭和四一年(ヨ)二二八四号判決)は、遅刻による勤務態度不良に関する懲戒を認めた裁判例です。この事件では遅刻だけではなく仕事に対して熱心でも誠実でもなかったため、会社の信用問題や経済的な不利益も発生していました。したがって会社による解雇処分は合法とされました。

※本記事は『職場問題グレーゾーンのトリセツ』村井 真子(アルク)より一部抜粋・編集しています

『職場問題グレーゾーンのトリセツ』村井 真子アルク

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URL:https://www.alc.co.jp/entry/7023008

※この記事は2023年06月30日に公開されたものです

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