「そこはかとなく」の意味とは? 意味や使い方・類語【例文付き】
「そこはかとなく」は、「どこがどうというわけではないが、何となくそう感じられる」という意味の言葉です。古風な表現なので、その意味や使い方に自信がない人もいるかもしれませんね。今回は「そこはかとなく」の使い方や例文、類語・言い換え表現を紹介します。
「そこはかとなく」は、「理由や原因は定かではないが、どことなくそんな雰囲気が感じられるさま」を表す言葉です。古風な表現で聞き覚えがなく、正しい意味や使い方が分からない人も多いのではないでしょうか。
この記事では、「そこはかとなく」の意味や使い方、語源などについて、例文を交えて説明していきます。
また、「とりとめなく」などの類語・言い換え表現とのニュアンスの違いについても取り上げるので、ぜひ参考にしてください。
「そこはかとなく」の意味や語源とは?
「そこはかとなく」は、明確な理由や原因はなく、何かが「何となく感じられる」ことを表す言葉です。
もともとは形容詞「そこはかとない」であり、「そこはかとなく」はその連用形。辞書には「そこはかとない」の形で、以下のように掲載されています。
そこはかとない
1.所在や理由がはっきりしないが全体的にそう感じられるさま。どこがどうということではない。
2.どうということはない。とりとめもない。
3.際限がない。無限である。
(三省堂『大辞林 第四版』)
漢字表記は「其処は彼と無い」
「そこはかとなく」は漢字だと「其処は彼と無い」と表記します。
「其処(そこ)」は「そこ、それ」という意味、「彼(か)」は「あそこ、あれ」という意味の代名詞です。
つまり、「そこはかとなく」とは、「そことあそこの区別がない」という意味であり、「違いは分からないけれど、何となくそう感じられる」と意味が変遷していったものと推察されます。
また、「そこにいるのが誰だか分からない」という意味とするなど、諸説あります。いずれにしろ、「そこはかとなく」が明確な理由や原因のない物事を表す点は間違いないでしょう。
「そこはかとなく」の歴史
「そこはかとなく」という言葉の歴史は長く、古くは平安時代から使われていたようです。
「そこはかとない」の古語表現である「そこはかとなし」は、平安時代を代表する文学作品『源氏物語』においては、「そこはかとなき虫の声々聞こえ(どこで鳴いているかはっきりしない虫の声)」と使われています。
「そこはかとなく」の使い方
「そこはかとなく」は、明確な理由や原因が分からないながらも、「何となく感じる」と肯定的な意味で使える表現です。
ただし、理由や原因を明言できないため、プレゼンなどの厳密性を重んじるシーンで使うのは好ましくありません。そのため、「そこはかとなく」を使うのは、日常会話やビジネスでの世間話など、カジュアルな会話シーンに留めておくのが無難だといえるでしょう。
「そこはかとなく」の例文
「そこはかとなく」の具体的な使い方を、以下の例文で確認しておきましょう。
・この会場は、そこはかとなく良い香りがしますね。
・彼の発言には、そこはかとなく知性が感じられます。
・空気の中に、そこはかとなく夏の気配が含まれているような気がします。
「そこはかとなく」の類語・言い換え表現
「そこはかとなく」には、いくつかの類語・言い換え表現が存在します。
どの言葉も、はっきりしない様子を表す点では共通していますが、表すニュアンスが少しずつ異なっています。それぞれの違いを理解し、適切に使い分けていきましょう。
「とりとめなく」
「とりとめなく」は、「そこはかとなく」と同様に漠然とした物事を表すことができます。
「とりとめ」は漢字で表すと「取り留め」で、取って留めたまとまりのあるものを表します。「とりとめなく」はそれを否定するので、「まとまりのないもの」や「漠然として要点がつかめないもの」を指して使われます。
「そこはかとなく」と「とりとめなく」の違いは、修飾する対象にあります。「そこはかとなく」は香りや空気、雰囲気などの「感じられるもの」を修飾しますが、「とりとめなく」は議論や会話などの「話」を修飾することが大半です。
そのため、「とりとめなく感じる」と「そこはかとなく話す」という表現は、それぞれ不自然に響くので注意しましょう。
「心なしか」
「心なしか」は、「そこはかとなく」と同じように、理由や原因がはっきりしない物事を表せる表現です。
「心なしか」は「自分の気のせいでそう思えること」という意味です。
「そこはかとなく」が物事を肯定的に表すのに対し、「心なしか」は肯定的から否定的まで幅広く使えます。そのため、例えば「心なしか気分が悪い」は自然ですが、「そこはかとなく気分が悪い」は不自然になるので注意しましょう。
「おぼろげに」
「おぼろげに」は、物事がはっきりしない様子を表し、「そこはかとなく」と似たニュアンスで使われます。
「おぼろげ」は漢字だと「朧気」と書きます。「朧(おぼろ)」は月が雲などでかすんでいる様子を指し、「おぼろげに」はかすんだ月のように、物事の輪郭が曖昧だという意味を表します。
「おぼろげに」は、物理的な輪郭を持つものにも使えますが、実際は「おぼろげに覚えている」のように、比喩的な形を指して使われることが多いです。
「そこはかとなく」と「おぼろげに」は、はっきりしない対象に違いがあります。「そこはかとなく」ではっきりしないのは「理由や原因」ですが、「おぼろげに」ではっきりしないのは「それ自身」です。
そのため、例えば「そこはかとなく上品」とは言えますが、「おぼろげに上品」は不自然になります。前者の場合、理由ははっきりしないものの「上品」なのは間違いありません。しかし、後者では「上品」という事実自体が曖昧なことになってしまいます。
「漠然と」
「漠然と(ばくぜんと)」も、「そこはかとなく」と似た意味で使われる表現です。
「漠然と」とは、「ぼんやりとしてはっきりしないさま」を表します。
「そこはかとなく」が肯定的な意味で使われるのに対し、「漠然と」は主に否定的なニュアンスで使われます。そのため、「そこはかとなく不安」や「漠然と優雅」という表現は、それぞれ不自然に響きます。
「何となく」
「そこはかとなく」とほとんど同じ意味で使われる表現に「何となく」があります。
「何となく」は、「どことわざわざ取り上げることなく」という意味で、取り立てて理由のない物事を表す際に広く使われます。
「そこはかとなく」と「何となく」の違いは、そのニュアンスにあります。「そこはかとなく」に古風でフォーマルなニュアンスがあるのに対して、「何となく」は非常にカジュアルです。そのため、使用シーンに応じて使い分けるとよいでしょう。
「そこはかとなく」は理由のないことを上品に表現できる言葉
「そこはかとなく」は、明確な理由や原因のない物事を表す表現です。平安時代から使われ続けている古風な言葉であり、主に肯定的な意味で使われます。
明確な根拠を求められるビジネスシーンには適さないものの、それ以外の会話では広く活用可能です。今回紹介した類語・言い換え表現と合わせて、適切に使い分けていきましょう。
(にほんご倶楽部)
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※この記事は2023年06月02日に公開されたものです