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ロボット掃除機「ルンバ」が日本でバズった意外な背景

#バズりの裏側

瑞姫

日々の生活を楽にしてくれる家電はさまざまありますが、中でも現代の「三種の神器」のひとつともいえるのがロボット掃除機ではないでしょうか。

これまでは子どもやペットがいる家庭や共働き夫婦などの利用が多い傾向がありましたが、最近では独身の社会人だけでなく、学生の利用も増えてきています。もちろん、忙しい日々を送るマイナビウーマン読者の皆さんの中にも日常的に使用している人がいるかもしれませんね。

一家に一台とまではいかないものの、利用者数が右肩上がりのロボット掃除機。今回はそんなロボット掃除機「ルンバ」を展開するアイロボットのPR担当・村田佳代さ
にインタビュー。「バズりの裏側」について伺いました。

バズり商品になるまでの苦労

そもそもアメリカで開発されたルンバがいつ日本に上陸したのか聞いてみると、意外にも約20年前とのこと。しかし、最初は日本での展開に苦労したようです。

村田さんはそのことについて「“ロボットが掃除をする”という概念がそもそも無かったので、まずはそれを受け入れてもらうのに時間がかかりました。約20年前なので、ロボットと言われると皆さんがイメージするのはアニメや映画の中の世界だったんです」と回答。

確かに、今から約20年前は“家事をアウトソーシングする”という概念すらほとんど無く、ましてや“ロボットが掃除をしてくれる”なんて、近未来的なイメージだったかもしれません。

また、日本での展開に苦労したのは、日本人の“掃除”に対する向き合い方も大きかったそう。

「アイロボット本国のアメリカは合理性を重視するところがあるので、ロボットが家を掃除するっていうこと自体にはそんなに抵抗は無かったようなんです。

けれど、日本では学校で掃除の時間が決められているように、“掃除は自分たちでするもの”という観念があるので、それをロボットにお願いすると『サボってる』と言われてしまう。そういった固定観念みたいなものを変えていくのはハードなチャレンジでした」

そこからどのようにして日本でも受け入れられるようになったのか尋ねると「地道に販売店でデモンストレーションをやったり、いろいろなマーケティングの施策はやったりしたんですけれども、最初は『使って良かった』という購入者の口コミ効果が大きかったです」と話してくれた村田さん。

日本でのヒットは、地道な努力や口コミによって世間にルンバが受け入れられたタイミングで、TVCMが公開された2009年。そこから認知度は大幅に上がっていったそうです。

ヒットしたというよりは、みんなに“ロボット掃除機”という存在を受け入れてもらうのに7年の月日が掛かったという方が正しいかも知れません。ルンバの日本での人気は、お客様に育てていたようなものです」

ルンバのミーム化は日本特有のもの

ルンバは確かな機能性はもちろんですが、“部屋を踊るように掃除する”という意味でつけられたキャッチーな名前が覚えやすいことや、ルンバ自体に名前をつけたり、家族の一員のように扱う様子がSNSで拡散されたりと、日本で“ミーム化”されていることも近年のヒットの要因の一つではないかと思います。

特に、ルンバが障害物に引っかかった際、ルンバの連携先の端末に「エラーが起きました」「動作が停止しました」ではなく、「助けを求めています」という通知がくることも、「思わず助けたくなる」「かわいい」とSNS上では話題になりました。

家電に名前をつけるというのはかなりユニークな発想に思いますが、それは「1990年頃に『たまごっち』が流行った際、名前をつけて愛されて、どんどん育っていくという発想がすばらしいと思った開発者がインスパイアされたことがきっかけ」だったそう。

しかし、ルンバの「助けを求めています」という文言については単に英語の直訳であり、意図してなかったと村田さんは言います。

ルンバに対しての“かわいい”というイメージは日本人特有のものなんです。欧米では家電に名前つけてかわいがるというケースはあまり聞きません。ルンバがミーム化しているのも、私たちからするとすごく意外でした」

最初こそ日本ではなかなか受け入れられなかったものの、意図せぬ方向で“バズる”ことになり、ミーム化されたことによって、どんどんと日常に取り入れられるようになったルンバ。

アップデートによって、どんどんと避けられる障害物が増えていくのも、学習することによってだんだん賢くなっていくペットのようです。

「ルンバは全世界で累計4,000万台を販売していますが、その多くがスマートフォンを通してお客様と繋がっています。お客様のルンバの利用データがどんどん蓄積されていくので、使えば使うほど、どんどん進化していく。ユーザー参加型AIなので、お客様と一緒に成長していくんです」

将来的には「ルンバの存在感が無いことが一番良い」

家事は女性の役目というイメージが強かった日本ですが、夫婦共働き家庭の増加により、家事は協力してやるものという認識に切り替わってきています。結婚や出産をしても働く女性が右肩上がりに増えているこの国で、家事を家電に任せるという選択肢を与えてくれるルンバはかなり大きい存在です。

村田さんは「家庭内にはプラスの家事とマイナスの家事があると私たちは考えているんです。例えば、掃除や濯物、掃除は汚れを取るのでマイナスの家事。一方、料理や裁縫はクリエイティブなプラスの家事。マイナス家事はできるだけ自分でやらずにロボットに任せて、その分プラスの家事の時間や自分の自由時間にしてほしいなと思っています」と話します。

実際、アイロボットには利用者からの機能的なフィードバックの他に「時間が増えて気持ちに余裕ができた」「家族の時間が増えた」「夫婦げんかが減った」という声が多く届くそうです。

そしてそれは、元々産業用ロボットを作っていた開発者が、「もっと人が喜んだ顔が見たい」と、人の生活の助けになるルンバを開発したきっかけであり、願いでもあります。

最後にアイロボットとして、ルンバを通してどのような社会になっていくことが理想かと尋ねると、村田さんは「開発のトップがいつも言っているのは、ルンバの存在感が無いことが一番良いということなんです。知らない間に全部やってくれて、好みに合わせてくれて、手を煩わせない。この3つがポイントなのですが、そうしていくとルンバ自体の存在が無くなる。けれど、それこそが究極の形かなと思うんです」と語ってくれました。

インタビュー冒頭、「バズりの裏側」について尋ねると「正直、何かおもしろいストーリーがあった訳ではなく、今でも“バズっている”とは思っていないんです」と答えていた村田さん。

確かに、ルンバが日本に上陸した際のことや、ヒットした際のことはあまり記憶に無いかも知れません。気づけば“日々の生活を楽にする選択肢の一つ”としていつの間にか存在していたという方が正しいでしょう。

しかし、その“いつの間にか存在していた”という日常への溶け込み具合こそが、「ルンバ」の「バズりの裏側」であり、毎日の生活を楽にしてくれる、これからも成長し続けていくであろうルンバの魅力のように感じました。

(取材・文:瑞姫、撮影:三浦晃一、編集:錦織絵梨奈/マイナビウーマン編集部)

※この記事は2023年05月20日に公開されたものです

瑞姫

フリーランスの取材・インタビューライター、コラムニスト。主にエンタメ、トレンド、グルメ、ビジネスカテゴリで活動中。

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