自然体で生きているだけ。池田エライザから感じる“強い軸”の正体とは
あこがれの人、がんばってる人、共感できる人。それと、ただ単純に好きだなって思える人。そんな誰かの決断が、自分の決断をあと押ししてくれることってある。20~30代のマイナビウーマン読者と同世代の編集部・ライターが「今話を聞いてみたい!」と思う人物に会って、その人の生き方を切り取るインタビュー連載。
取材・文:ねむみえり
撮影:大嶋千尋
編集:杉田穂南/マイナビウーマン編集部
スタイリスト:福田春美
メイク:豊田千恵
女優だけでなく、モデルや歌手、映画監督など、多岐にわたって活躍している池田エライザさん。やりたいことに対して前向きに挑戦し才能を発揮してきた彼女には、どこか”強い軸”が備わっていると思っていた。
しかし、今回のインタビューを通して、それは備わっているものでもなければ、作り出そうとして作り出したものでもないのではと感じた。
では、彼女に感じる”強い軸”の正体は何なのだろうか――。
うまく生きるために残酷になりすぎる必要はない
映画『ハウ』で、田中圭さん演じる主人公・民夫に寄り添う、同じ職場で働く女性・桃子を演じた池田さん。
桃子については、「寄り添うことがすごく優しいことであるというところまでは考えてないと思うんです。ただ、日常の中で自分が気づいてしまったことを無視するほどひどい人じゃない。すごくシンプルで人間のあり方としてピュアだ」と感じたと言う。
そんな桃子と交流を深める民夫については、「脱皮した皮を捨てられない蛇みたいな感じ。もともとは自分の細胞だったし、これを捨てたら自分を捨てることになるのかとか考えてしまう。残酷になれない人」と述べていた。
池田さんの言葉で出てきた「気づいてしまったことを無視するほどひどい人じゃない」、「残酷になれない人」という表現は、もしかしたら普段”気にしすぎ”や”真面目すぎ”と言われることがあるような人にはより深く響く言葉なのかもしれない。
そういう人間は、一体どうしたらもう少し日々を過ごしやすくなるのだろうかと尋ねてみると、「例えば脱皮した皮が捨てられないなら、鱗を一枚だけ取ってお守りにしておくとか。うまく生きるって、残酷に全部切り捨てるだけじゃなくて、捉え方を変えるっていうことでもあると思う」と答えてくれた。
“残酷に0か100かじゃなくていい。大事なのは、その事実とどう向き合っていくかを考えること”。そうやって割り切って考えれば、心が少し楽になる人も多のではないだろうか。
自分の居場所や見られ方よりも大切なもの
映画『ハウ』では、民夫の大切なパートナーである犬のハウが、あらゆる人の転機に居合わせる。転機は人それぞれ、何かを乗り越えて成長する人もいれば、何かを受け入れて前を向く人もいる。
では池田さんの経験した“大きな転機”はどこなのかを尋ねると、「これからじゃないですかね」とすぐに言葉が返ってきた。
「自分の転機は自分で作らないと」という彼女の話を聞いていくと、彼女がいかに同時多発的にあらゆることに関心を持ち、そのどれをもおざなりにしていないことがよく分かる。
やりたいことはもともと沢山持っているという池田さん。しかし、「やりたい」という気持ちで動き出すことはないそう。
「『これをやりたい』だけだと、そこにエゴが入ってきそうだから、環境が整った時に、さあ始めましょうっていう感じです。でも、1つの仕事でもできることは沢山あるんですよね。だから今は、自分は複合施設みたいな感じになってると思うんです。複合施設に入れられるんだったらそうするし、何かテーマパークみたいなものがやりたくなったら、そっちに移行するし」
さらっと池田さんは述べているが、テーマパークに移行するには、今彼女がなっている複合施設を閉めることになるかもしれない。
「動物の保護活動とかを手伝っていたりもするので、今の仕事と同時多発的になるのか、それをやめなきゃいけないほどそちらに気持ちが向くのかは全く分からないですけど、その比重が変わってきた時に、転機が来るんじゃないかなと思います」
池田さんの話を聞いていてずっと感じていたことは、池田さんがあまり「居場所」に固執してもいなければ、自分の「見られ方」についても固執していないということだ。
「どう見せても見る人によって見え方は違うし、『余計なお世話ね』と思うこともあるけど、それは全く気になってないんですよね。そこにいちいち対応するよりも、もっと目を向けて勉強するべきことがある。『女優なのに……』って言われることもあるけど、やらなきゃと私は思っていて、それが自分らしいところなのかなって」
自分の「居場所」や「見られ方」よりも、池田さんにとって大切なことは「自然体でいること」なのだ。彼女は、自然なこととして、関心があることについて勉強したり実際に行動したりしている。そしてその副産物として、外からは”強い軸”として見えるものが生まれているだけなのかもしれない。
素直で飾りのない言葉を使うということ
自分の外に多くの目を向けている池田さんだが、自分の内にも大切でないがしろにしたくないものがあるという。
「明日には違うこと言ってる気がするんですけど(笑)」という前置きでお話してくれたのは、寝る前にするという“反省会”についてだ。
「24時間ちゃんと1秒1秒生きているはずなのに、早送りみたいに見えている現状があるから、寝る前に毎回記憶を掘り返してみる。『今日あの人にありがとうって言い忘れたな』とか、そういうことです。そういう作業は子どもの頃からずっとやってきていることですね」
私も寝る前に「あの時言い方間違えたな」というような反省会をすることがあると伝えると、「大事大事。大事だし、スパッと忘れることも大事。ある程度せっかちなほうが良いと思う」と答えてくれた。
この「スパッと忘れることも大事」というのは、少し意外性があった。なんとなく、反省したものは蓄積しなければならないと思っていたからだ。池田さんは言葉を続けた。
「今日あれできなかったな、明日やろう、でOK。この前あれできなかったから今度やろう、ではどんどん自分に負荷がかかるから、できる時に思い出してできる時にやる」
彼女はこうして失敗に対しても上手に向き合うことで毎日を前向きに生きている、そんな気がした。
インタビュー中、彼女が語った言葉は素直で飾りのないものばかりだった。オブラートに包むことなく、考えていることや感じていることを、そのまま伝える。それは、自分の発言にしっかりと責任を持つということの現れでもある。
池田さんが持っているように見える”強い軸”は、特別なものではなく、自分たちが普段生きている中で気づいたことを無視せずに、しっかり向き合い続けることで得られるものである気がした。
映画『ハウ』
婚約者にフラれ人生最悪な時を迎えていた市役所職員・赤西民夫(田中圭)。一人空虚な日々を送る彼は、上司からの勧めで真っ白な大型の保護犬を飼うことに。人懐っこいこの犬を、民夫は“ハウ”と名付け、1人と1匹の優しくて温かい日々が始まった。
何をするにもいつも一緒な“2人”の絆は次第に深まり、かけがえのない存在となっていった。最高に幸せな時間はずっと続くと思われたある日、ハウがアクシデントから遠い地に運ばれ、民夫と離れ離れになってしまう。
必死にハウを探す民夫と、大好きな民夫の声を追い求め、長い道のりを目指すハウ。果たして2人はもう一度再会することができるのか? そこには、優しすぎる結末が待っていた─。
2022年8月19日(金)より全国公開
配給:東映
©2022「ハウ」製作委員会
※この記事は2022年08月19日に公開されたものです