好きなことをやり続ける。松下奈緒の「ブレない自分軸」の見つけ方
あこがれの人、がんばってる人、共感できる人。それと、ただ単純に好きだなって思える人。そんな誰かの決断が、自分の決断をあと押ししてくれることってある。20~30代のマイナビウーマン読者と同世代の編集部・ライターが「今話を聞いてみたい!」と思う人物に会って、その人の生き方を切り取るインタビュー連載。
取材・文:ミクニシオリ
撮影:佐々木康太
編集:杉田穂南/マイナビウーマン編集部
すっと伸びた背筋で、いつも凛と微笑んでいる彼女の名前は、松下奈緒。
女優業とミュージシャンを両立させながら、現在は声優業にも挑戦している。忙しい毎日を送る彼女だが、取材場所に現れた彼女は、今日も姿勢がよく美しい。そして、朗らかに私に挨拶をしてくれた。
音楽の現場と撮影現場を日々、往復している。聞くと、「プライベートの時間が欲しいと思うこともない」なんて笑って話してくれた。なぜ彼女はいつも、こんなに強くいられるのだろう。その原点には彼女の強さはもちろん、ある意味おおらかな「思い切りの良さ」も見えてきた。
「仕事は自然なライフワーク」
松下さんが声優に初挑戦したのは、2017年に公開された映画『ドクター・ストレンジ』。メインキャラの一人でもあるクリスティーンの日本語吹替役を務めた。
5月4日にはその続編『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』が公開される。声優の仕事は松下さんにとって5年ぶりとなる。
「作品の良さもさることながら、声を演じたクリスティーンという女性は、本当に魅力的なキャラクターなんです。かわいくてキレイで、頭が良くてユーモアがあって……。同性の目線から見ても憧れの女性。だからこそ、声を入れることが難しかったです。
前作から5年が経ちましたけど、クリスティーンは変わってないんですよね。だから、私が変わってしまっていてはダメだ、と身が引き締まる思いでした」
普段から女優として役を演じることには慣れている松下さんだが、“声を入れる”ということには特別な難しさを感じるのだそう。
「映画やドラマで役を演じる時は、表情や仕草まで演じますよね。普段はトータルで入り込むキャラクターに、声だけで入り込むのはすごく大変でした。でもレコーディングが進むうちに、『もっともっとクリスティーンらしく演じたい』という欲がどんどん出てきて。レコーディング前には前作の吹替版を何度も見返して、工夫しました。」
話をする姿勢には、柔らかさはありながらも自分にストイックな厳格さを感じる。毎日の仕事をこなすだけでも忙しいはずだけど、仕事前には自分が納得できるだけの準備をしっかりとしていくという松下さん。
「準備していないと不安になっちゃうから」なんて言っていたけれど、不安になるのは分かっていてもサボってしまうこともあるのが人間。やっぱり彼女は、スーパーマンなんだろうか。
3歳からピアノを始めたという松下さんは、音楽活動は今年で34年目。4月には新アルバム『FUN』もリリースされた。
「女優業も音楽活動も、小さい時からやりたかったことだから続けられているんですよね。声優のお仕事もそうです。誰かに『やりなさい』と言われていたら、どちらもできなかったかもしれない。自分で選んだことだから、満足できるゴールも自分で決めたいと思っています」
「私にとっては、“仕事”がごく自然にライフスタイルに溶け込んでいるんです。家にいる時も仕事をしている時も何も変わらない。だから、ずっと仕事をしていても、息が詰まってしまうということもそんなにないので、仕事を仕事と思わなくなった時が、“仕事を一番楽しめる時”だと思います」
好きなことをしているという感覚が、彼女をここまでストイックにしているのかもしれない。というより、松下さんの中では「仕事にストイックに取り組んでいる」という感覚がないようにも感じた。好きなことをただ、続けているだけ。そんな自然な口ぶりだった。
働くも結婚するも、決めるのは自分。だから言い訳しない
好きなことを続けている松下さんは美しく、そして強い。私の目から見ればそんなふうに憧れてしまうけれど、未だ社会には「女性なのに働いてばかりで」という逆風も吹く。そんな世間の意地悪な目線に悩むことはないのだろうか。
「色々な意見に傷つく気持ちは分かります。でも結局は、“自分がどうしたいか”。これは親でも友だちでもなく、自分が決めなきゃいけないことですよね。
5年後、10年後の自分がどうなっていたいか、ビジョンを持てたらすぐに決められるかもしれないけれど、迷っているうちは選べないくらい、人生でも重要な選択なんだと思います。
ただ、仕事や好きなことを諦めるのはいつでもできるけど、一度辞めたら、続けてきた流れは絶たれてしまいますよね。だから、誰かに言われて選ぶことだけはしない方がいい。私だって自分が選んだことだから頑張れるんだと思います」
「自分で選んだから」というシンプルな芯が、彼女の真ん中にすっと通っている。世間や周りから言われてやったことで後悔することがあるとするなら、きっと周りのせいにしてしまう。松下さんは全て自分で選んでいるから、自分にも世間にも、言い訳しないのだろう。
それでもそもそも平凡な私は「胸を張ってやりたいと思えることがあることがすごいなあ」とも思ってしまう。思わず口に出したら、松下さんはなんでもないみたいな表情で、こんなヒントをくれた。
「自分がやりたいと思えることを見つけることは、難しいですよね。でも、何がやりたいか分からないということは、いろんな選択肢があるということでもあるので、何にでも挑戦できる“最高のタイミング”だと思います。それもすごく素敵なことだし、ちょっとうらやましいですよ」
その一言を聞いた時、彼女はすごく前向きで、まっすぐな人なのだと思った。物事は捉えよう。ネガティブに聞こえることも、捉え方次第ではポジティブになる。
強さの底にある、いい意味でのおおらかさ
ポジティブで芯のある松下さん。でも、仕事や活動で悩むことが全くないわけじゃない。
「音楽活動だって、何度も投げ出したくなったこともありましたよ。でも最近になって、やりたい活動がしっかり見えて。“何か一つのことをやる”って、そもそも時間がかかることなんだなということを実感しますね」
悩みというのは自分の中でブレになる。ブレがあると、続けることをサボってしまう。普通は誰でもそういう弱さを持っているものだと思うし、松下さんにもブレが生まれることはある。じゃあどうして彼女は、自分を信じ続けて活動を続けられるのだろう。
「何かを続けるコツは”私にはこれしかないんだ〜!”って思い込むこと。
一つのことを続けているからこそ、じゃあ音楽をやめた時に何が残るんだろうって、いつも考えるんです。で、何もないから、続ける努力をしています。なので女優業を始めても、私は両立することができたんだと思います。最後は思い込み、これが私にとっての続けるコツですね」
傍から見れば、パーフェクトな松下さん。でも本当は彼女も、不安なんてないというわけでもないのかもしれない。だから準備をしっかりするし、努力もする。それでも不安な時、最後は神頼みというか、自分頼み。そんなおおらかさが、松下さんの芯の強さをサポートしているのかもしれない。
松下奈緒さんは、やっぱり“最強の女性”だった。彼女が教えてくれたのは、「自分を信じることの大切さ」。悩み抜いて、自分の人生の選択に「自信がある」と自分で思い込む。それができたら、松下さんのような芯を持てる女性に近づけるのかもしれない。
『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』
元天才外科医にして、上から目線の最強の魔術師ドクター・ストレンジ。時間と空間を変幻自在に操る彼の魔術の中でも、最も危険とされる禁断の呪文によって、“マルチバース”と呼ばれる謎に満ちたパラレルワールドの扉が開かれた──。
何もかもが変わりつつある世界を元に戻そうと試みるも、もはやどうすることもできないほどの恐るべき脅威が人類、そして全宇宙に迫っていた──そんな中、ストレンジの前に立ちはだかるのは最凶の魔術を操る邪悪な“もう一人の自分”だった……。
マーベル史上最も予測不能で、異次元の壮大な戦いを描いたファンタジック・アクション超大作が遂に始動!
5月4日(水・祝)映画館にて公開。
監督:サム・ライミ (「スパイダーマン」シリーズ)
製作:ケヴィン・ファイギ
出演:ベネディクト・カンバーバッチ/エリザベス・オルセン/ベネディクト・ウォン/レイチェル・マクアダムス/キウェテル・イジョフォー/ソーチー・ゴメス
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©Marvel Studios 2022
※この記事は2022年05月04日に公開されたものです